2018/10/06

Batumi Olympiad R11 Tunisia - Japan

オリンピアード10R が行われた夜、私たちは翌日のペアリングを見て驚きました。チュニジアは前回大会で破っており、全くと言って良いほど強いチームという印象がなかったためです。10Rでミャンマーを破って再び1つ勝ち越しになったオープンチームは、ペルークラスの国との最終戦になってもおかしくないと思っていました。

しかし、調べてみると今年のチュニジアはメンバーを総入れ替えし、IM 1人とFM 1人を擁し、日本よりスタート順位が上のチームになっていました。しかも、2B に座るIM は10Rフルで出て負けなしの8Pという無双ぶりでした。それでも格上のミャンマーを破り、勢いのあった日本チームは俄然勝つ気でマッチに臨みます。このマッチで勝たなければ、カテゴリーCでリードするエクアドルを抜くチャンスはありません。

Amdouni, Z (FM, TUN, 2218) - Kojima, S (IM, JPN, 2408)
Batumi Olympiad (11)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. e5 Bf5 4. h4 Qc7!?



最終戦、私は勝負をこの変化に託しました。近年人気の上がってきたこの手は、白のg2-g4に対してBf5-Bd7 と退くつもりで、1手待つ様子見の狙いがあります。

5. Nc3 a6 6. Nge2 e6


g2-g4 の狙いさえなくなれば、ビショップをd7 に退く必要はありません。Caro-Kann でよくあるビショップナイトの交換を許しても、ピースの展開を急ぎます。

7. Ng3 Ne7 8. Bg5!?



昨年指されたMamedjarov の試合では、8. Nxf5 Nxf5 9. g4 Ne7 と進み、c6-c5 からアクションを起こして黒は十分な局面になりました。本譜の手も相手番で考えているときに思いつきましたが、白からビショップナイトの交換を仕掛けてまで、ポーンストラクチャーを乱すアイディアが有効であるようには思えません。

8... Nd7 9. Qf3


9. Bxe7 Bxe7 10. Nxf5 exf5 11. Qf3 g6 12. O-O-O O-O-O ならば黒は大丈夫でしょう。Nd7-Nf8-Ne6 まで組み替えることができ、d4 を攻撃できれば完璧です。やはりe7 のナイトを消すためだけに、Bc1-Bg5-Bxe7 と2手かけるのには違和感があります。ただし、本譜のアイディアも大して効果的ではないと読んでいました。

9... Bxc2! 10. Rc1 Be4! 11. Ngxe4 dxe4 12. Qxe4 Qb6



取ったポーンはすぐに返してしまいましたが、そのかわりd4 がバックワードポーンとなりました。これをターゲットにすることで、黒は楽にゲームを進めることができます。

13. Bxe7


Ne7-Nf5 に対してBg5-Be3 と指すしかないため、早めにビショップナイトの交換をしておこうというアイディアも分かりますが、異色ビショップでも明確なターゲットがある黒が指しやすい局面になり、私としてはありがたかったです。この先は白のクイーンサイドでの攻撃がさほど早くも強くもないことを確認したうえで、逆サイドにキャスリングして勝負です。

13... Bxe7 14. Bd3 O-O-O 15. O-O Kb8 16. b4



d4 の弱さをカバーするためには、多少強引でも攻めるしかないということでしょうが、このポーンは取りませんし、さらなる伸びはあさっさりとかわせます。d4 を早めにカバーされたり、h4 を多少気にされるほうが私は嫌でした。

16... f5!?


相手が16手目を考えている間、この手が次に指せるかもしれないと思い浮かんできました。黒の課題はd7 のナイトの行き場ですので、わざとアンパッサンでポーンを取らせてナイトのマスを作ろうと考えました。17. exf6 Nxf6 18. Qxe6 Rhe8 と進めば黒はd4 を取りかえせますし、h4, b4 の不用意に伸びたポーンを狙ってはっきり有利でしょう。ただし、本譜のようにh4 を単に取れるのも黒にとっては良い流れです。

17. Qe3 Nf8! 18. Ne2 Bxh4 19. a4 Ng6 20. b5 cxb5 21. axb5 a5 22. Bc4 Rhe8!



b5 のブレイクをかわした際にa5までポーンが伸びましたが、これを白がアタックするには時間がかかるために問題は無いでしょう。むしろf7-f5 を突いたことで弱くなったe6 が問題だと思っていましたが、これも6段目が開いたことで守れているます。さらにルークでも守ってQe3-Qb3 に備え、d4 を崩すアイディアを虎視眈々と狙います。

23. Qb3 Bg5 24. Ra1


24. f4? Nxf4 25. Nxf4 Qxd4+ はもちろんだめですので、ルークが避けるしかありません。どこに避けるか判断の難しいところですが、相手はストレートにa5に狙いを定めてきました。これに対しては少し考え、以下のアイディアを実行します。

24... Nf4!?



マイナーピースを消して、異色ビショップを残すのは、ポーンアップで勝ちを目指したい黒にとって不自然にも思えますが、ナイトがd4 のキーとなる守り駒ですので、これを崩してd4、e5 を一気に取ってしまおうというのが私のアイディアです。異色ビショップがドローになりやすくとも、それはルークのようなヘビーピースがいない場合の話です。ルーク1つでもあれば様々なチャンスが生まれうることは、5R のWidenkeller戦で身をもって知っています。

25. Qc3


私が読んでいたのは、25. Qa2 Nxe2+ 26. Bxe2 Rxd4 27. Qxa5 Qxa5 28. Rxa5 Re4-/+ という変化で、d4 とa5 を交換しても次にe5 のポーンも取って2ポーンアップになれば黒が大きく優勢でしょう。クイーンを交換することで、aファイルを突破されてもさほど危険ではないことがポイントです。本譜でもこの変化になりうるのですが、持ち時間の少ない相手にもう少し難しい状況を突き付けてみようと思い、少しアイディアをひねります。

25... Rc8!? 26. Nxf4 Bxf4 27. Rfd1 Red8 28. Qb3



結局クイーンは元のマスに戻り、d4 とa5 ではなく、d4 とe5 の奪い合いになります。この場合でも、黒マスビショップはf2 というさらに大きなターゲットを持つため、白はデイフェンスが大変だと思っていました。

28... Rxd4 29. Bxe6 Re8 30. Bxf5 Rxe5


私はバックランクを空けても大丈夫なこと慎重にを確認し、この手を指しました。しかし、コンピュータはビショップでポーンを取り、a1 のルークへの攻撃を作るほうが良い指摘します。30... Bxe5! 31. Re1 Rf4! 32. Qc2 Qf6 33. Bh3 Rf8!-+ fファイルのトリプルヘビーピース! このアイディアは見えませんでした。

31. Rxd4?


31. Bd3 としてルーク交換を避ける手がベストだと、試合中は読んでいました。これでももちろん黒に勢いは残っています。

31... Qxd4 32. Rd1 Bg3!!



バックランクの弱さをつくアイディアは何かしらあるはずだと、早い段階から頭にありました。それが直前のルーク上がりとぴったりとかみ合わさり、この手が成立します。かつてハンガリーでIM ノームを競い合ったインドネシアのSean からも、試合後にGood Move! のコメントを貰いました。

33. Qf3


言うまでもなく、33. Rxd4 Re1# は即メイトです。これを避けるアイディアはいくつかありますが、全てf2 のポーンを失うことになります。

33... Bxf2+?


しかし、ほぼ完璧に進めてきたゲームにほころびが出始めました。試合後にMisha から、33... Qxf2+ 34. Qxf2 Bxf2+ 35. Kxf2 Rxf5+ 36. Ke2 Rxb5-+ で簡単に勝ちだと指摘されました。クイーンエンディングよりも、ルークエンディングのほうが簡単であることに気付かなかったことは不思議です。マッチの状況も難しく、多少冷静ではなかったと思います。

34. Kh2 Rxf5 35. Qxf5 Qxd1 36. Qf4+ Kc8 37. Qf5+ Kc7 38. Qxf2 Qh5+ 39. Kg1 Qxb5 40. Qg3+ Kb6 41. Qxg7



黒は2ポーンアップで、2コネクテッドパスポーンを持つクイーンエンディングです。クイーンエンディング自体、あまり経験は多くありませんが、これはさすがに楽に勝てるだろと高をくくってしまいました。そのために出た雑なプレーが、ここからゲームを怪しくしてしまいます。

41... h5


悪い手ではありませんが、チェックのないように黒マスをカバーすれば、hポーンを取らせても何事もなく黒勝ちです。41... Qc5+ 42. Kf1 a4 43. Qxh7 a3-+

42. Kf2 a4 43. Ke3 a3 44. Qf7 Ka6 45. Qf8 Qb6+ 46. Kd3 a2 47. Qa8+ Qa7 48. Qh8 b5?



この辺りでaポーンを突きすぎたのが不用意だったと反省しました。しかし、まだまだ問題なく黒が勝てる局面です。試合中に読みながら諦めた48... Qf2! 49. Qa8+ Kb6 50. Qd8+ Kb5 51. Qe8+ Kb4 52. Qe7+ Ka4 53. Qxb7 Qf5+ 54. Kd2 a1=Q 55. Qa7+ Qa5+ とするのが正解で、クイーンが離れても黒キングはするすると上がっていき、チェックをかわすことができました。こうしたパペチュアルチェックを回避記できるのかどうかという判断が素早くできない点から、クイーンエンディングの不勉強ぶりがうかがえます。この試合での多き反省ポイントです。

49. Kc2 Qb7 50. Qf6+ Ka5 51. Qd8+ Ka4 52. Kb2


あれほど遠かった白キングが、aポーンに追いついてしまいました。これで白はポーンを諦めなくてはならず、残ったb,hポーンで勝負せざるをえなくなります。

52... Qxg2+ 53. Ka1 Qf1+



ここでaポーンを守ったままにしていると、Take Me! と白クイーンが黒キングに張り付くアイディアで、ステールメイトにされてしまいます。このステールメイトを回避するために、本当はg2 は取りたくなかったのですが、他に局面を進展させる方法もありません。

54. Kxa2 Qe2+ 55. Kb1 Kb3 56. Qd5+ Kc3 57. Qc5+ Qc4 58. Qe5+ Qd4 59. Qe1+ Kb3 60. Qe6+ Qc4 61. Qe3+ Kb4?


早めにキングが退くのは弱気でダメでした。61... Qc3 62. Qe6+ Ka4 63. Qa2+ Kb4 としてチェックを切り、ここから再勝負です。

62. Kb2!=



こうしたアイディアは覚えておこうと思います。ディフェンス側の白は、自らのキングを前進させることで空いてクイーンがチェックできるマスを消し、あわよくば一発逆転勝ちの狙いを作ります。

62... Qc5 63. Qe1+ Kc4 64. Qe2+ Kd4 65. Qf2+ Kd5 66. Qf5+ Kc6 67. Qc8+ Kb6 68. Qd8+?


互いにほとんど時間がない中で指していたので間違えるのは無理もありませんが、これは楽になったと指された瞬間に感じました。68. Qb8+! Ka5 69. Qa8+ Kb4 70. Qe4+! (a3 ではチェックを切られてしまうので、こちらがポイントです。) 70... Qc4 71. Qe7+!= これでチェックが切れずにドローになるのは、是非とも覚えておきたい形です。 71... Ka5?? 72. Qa7+ Kb4 73. Qa3# という一発逆転もありえます。

68... Qc7 69. Qd4+ Ka6 70. Qd5 Qg7+ 71. Kc2 Qg6+ 72. Kb2 Qf6+ 73. Kb3 h4 74. Kb4??



チェックを切ってさぁここからというところで、相手の決定的なミスが出てゲームは終わりました。時間のある状況で冷静に考えればわかることが、勝負の中では見えなくなるのも当然だと思います。

74... Qf4+ 75. Ka3 Qc1+ 0-1


これでQc1-Qc4+ がどうしても避けられず、クイーン強制交換からhポーンをプロモーションさせ、黒の勝ちです。ルークエンディングにしていれば楽に勝ちでしたが、こうしたクイーンエンディングになって学ぶものが多かったと考えれば、結果オーライでしょう。こうして長い試合を締めくくり、2週間に渡るオリンピアードの全試合を終えました。

Open R11 Tunisia - Japan 1.5-2.5

Amdouni, Z (FM, TUN, 2218) - Kojima, S (IM, JPN, 2408) 0-1
Zaibi Amir (IM, TUN, 2361) - Nanjo Ryosuke (IM, JPN, 2324) 1/2-1/2
Bouzidi Ahmed (CM, TUN, 2246) - Yamada, Kohei (FM, JPN, 2128) 1-0
Taieb Sahbi (CM, TUN, 2146) - Otawa, Yuto (JPN, 2161) 0-1

Women R11 Ireland - Japan 3-1

Mirza Diana (WFM, IRL, 1960) - Hoshino, Karen (WCM, JPN, 1945) 1/2-1/2
Plaza Reino Mercedes (IRL, 1727) - Sakai Azumi (JPN, 1713) 1-0
Lowry-O`Reilly Hannah (WFM, IRL, 1716) - Kojima Natsumi (WCM, JPN, 1655) 1-0
Ui Laighleis Gearoidin (WCM, IRL, 1791) - Shibata Misaki (JPN, 1605) 1/2-1/2


女子は残念ながらアイルランドに負けてしまいました。しかし、オープンはチュニジアを僅差で下し、日本チームとして過去最高の戦績を収めました! 全体の戦績やトップ争い、総括などはまた明日の記事に書きたいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿

Copyright © 2011 Shinya Kojima All rights reserved.