2023/10/22

Nagoya Open 2023 Endgame Analysis


名古屋オープンのゲームは、大会の結果報告とともに紹介した初日2日目の2ゲーム、そして後日、序盤にスポットを当てた2ゲームの計4つをご紹介してきました。最後はエンドゲームにスポットを当てて、1ゲームをご紹介しようと思います。2Rで対戦した牧野さんは将棋のプロ棋士で、2年ほど前からチェスもかなり本格的にプレーしている印象があります。私とは今回が初対戦でした。
Kojima, S - Makino, M
Nagoya Open 2023 (2)
Position after 50... h5

中盤で少し間違いがあり、ドロー模様のエンドゲームになりました。少し前から勝つのは難しいだろう判断していましたが、ここで黒がh7-h5と指してきたことを見て、よもやと思います。このポーンをぶつける手自体は大きなミスではないですが、キングサイドのポーンを捌ききってしまえば黒のビショップは白ポーンを狙えないのに対し、白のナイトだけが黒ポーンを狙うことができます。

45. h4 gxh4+ 46. Kxh4 hxg4 47. Kxg4 Bd3 48. Kf4 Be4


ここもまだ決定的な問題が起きているわけではないのですが、牧野さんが白キングの侵入に対して警戒が薄いことが伝わってきました。48... Ke6!=としてe5のマスを先に抑え、白キングにこれ以上の侵入を許さなければドローは確実です。

49. Ke5! Bf3 50. Kf6! Be4 51. Nb6+ Kc7 52. Ke7! Bg2?


これは白に決定的なピースの位置改善のチャンスを与えてしまう悪手です。白キングにe7まで入られても、ナイトの協力からさらに黒キングを押し込まれなければ黒はドローに持ち込めます。白にナイトを使わせないためにはd7のマスを抑えることが必須です。52... Bf5! 53. Na4 Be4 54. Nc3 Bf3! (e2,d1のマスを抑えます) 55. Nb1 Be4 56. Nd2 Bg2!= (f3,f1のマスを抑えます) これで白はナイトの位置改善がこれ以上できずに勝つことができません。

53. Nd7!+-

ここでナイトをプレーに戻せれば白勝勢です。とは言え、知識はありながらも初体験のエンドゲームですので、慎重に指していきます。かつて日本の国内大会では、こうしたグッドナイトvs. バッドビショップのエンドゲームを、篠田くんが現アイルランド女子代表のTrisha Kanyamarala 相手に指しているのを見たことがあります。南條くんもこうしたエンドゲームが得意な印象がありますね。

53... Bh3 54. Nf8 Bf1


54... Bg4 55. Ne6++- ここまでキングが侵入すればポーンエンディングにしても白勝ちですので、ナイトビショップ交換を受け入れても問題ありません。

55. Ne6+ Kc8 56. Kd6 Bb5 57. Ng5 Ba4 58. Nf7 Bb5 59. Ne5 Kb7 60. Kd7

48... Ke6!と止めておけば白キングはf4止まりでしたが、とうとうd7まで侵入してc6を攻撃できるようになりました。後はナイトでもc6を攻撃し、このポーンを落とします。

60... Ba4 61. Nf7 Ka6 62. Nd8 Kb5 63. Nxc6 Kc4 64. Kd6 Bb5


64... Bxc6 65. Kxc6 Kxd4 66. Kb6 Ke3 67. c6 d4 68. c7 d3 69. c8=Q d2 70. Qg4+- ポーンレースは黒ポーンがdファイルであることは関係なく、プロモーションのマスを抑えてしまえば白勝ちです。

65. Na7!

ナイトの守りがd4から外れても、ビショップを攻撃できていれば問題ありません。これでテンポを稼ぎ、Kd6-Ke5でd4を守ってしまいます。

65... Ba6 66. Ke5 Bb7 67. c6 Ba6 68. c7 Bb7 69. c8=Q+ Bxc8 70. Nxc8 Kb5 71. Kxd5 1-0


相手に助けられたところもありましたが、こうしたエンドゲームの経験が積めたのは良かったです。年内の試合の予定も残り少ないですが、まだまだ指したことのないポジションを試してみたいですね。

2023/10/18

Nagoya Open 2023 Opening Analysis Vol.2


名古屋オープンのゲームから、オープニングを見直すシリーズ第2弾です。2つ目は最終戦の青嶋くんとの試合を取り上げようと思います。全日本選手権ではClassical Slavを指しましたが、ここでは勝ちにいくために少し違う工夫をしてみました。

Aoshima, M - Kojima, S
Nagoya Open 2023 (6)

1. d4 d5 2. Nf3 Nf6 3. c4 c6 4. Nc3 e6!?

Semi-SlavはClassical Slavよりも早い段階で私のレパートリーに入り、そろそろ20年になります。白からの変化にもよりますが、手堅くもシャープにも黒からのチョイスで変わる面白さがあり、黒で勝ちにいくにはClassical Slavよりも使いやすいでしょう。

5. Qb3!?


どこの大会のゲームで見たかは忘れてしまいましたが、青嶋くんがSemi-Slav対策として以前のMeran Variation(5. Bd3 dxc4 6. Bxc4 b5 7. Bd3)から、こちらに変えたことは気づいていました。アイディアはビショップではなくクイーンでc4を取り返せるようにし、黒マスビショップはポーンストラクチャーの外側で使えるようにすることです。試合前にしっかり変化を調べ直す時間が無かったので、ここでどう指すか少し時間を使って考えます。

5... Nbd7!?


あまり人気のある変化ではないですが、メインのQGDに近く、手堅いポジションを目指せると考えました。メインラインは5... dxc4 6. Qxc4 b5 7. Qd3 a6!?などですが、あまり細かいアイディアを覚えている自信が無かったこと、青嶋くんがしっかり調べているであろうことを考慮して、少しサイドラインにすることを決めました。

6. Bf4 Be7 7. e3 O-O 8. Be2 dxc4!

この辺りも悩みましたが、分からないなりに良い手が選べたと思っています。互いのセットアップを見ると私も白番で指すQGD Bf4ラインのようですが、黒のc7-c6は少しパッシブで、c7-c5とすぐd4に反撃する変化に比べて白マスビショップの活用に工夫が必要です。一方で私が白であればクイーンはb3ではなくc2に配置し、Ra1-Rd1、a2-a3、h2-h3などで様子を見るQGD Rubinstein Variationのアイディアを使います。それと比べた際に白のb3のクイーンの位置が良いとは思えませんでした。

9. Qxc4 Nd5 10. O-O


8月のジャパンチェスクラシックスでは白黒逆で青嶋くんと対戦しており、この試合でも白の私がf4のビショップをナイトに取らせるアイディアを使いました。(1. Nf3 d5 2. d4 Nf6 3. c4 e6 4. Nc3 Nbd7 5. Bf4 dxc4 6. e3 Nd5 7. Bxc4 Nxf4 8. exf4 Nb6) Nf6-Nd5、Nf6-Nh5に対してビショップを逃がさずf4で交換するアイディアはQGD、Catalanなどの一部ラインで見ることができ、白はビショップペアを諦める代わりに開いたeファイルとe5のコントロールを得ます。しかし本譜では白はクイーンを動かしすぎていることが気になり、黒は無駄なテンポロス無しで、白マスビショップを活用するアイディアを練ることができます。

10... Nxf4 11. exf4 Nb6 12. Qb3 Nd5 13. g3 Qb6!

ナイトに続きクイーンをb6に繰り出し、クイーン交換を目指します。b7-b6、Bc8-Bb7のセットアップも考えましたが、少し遅いためにc6-c5のブレイクを抑え込まれ、c6がターゲットになってしまうと結論付けました。

14. Qc2 Rd8! 15. Rfd1 Bd7


白はクイーン交換を避けなければアドバンテージがないため、c2へ退くことを余儀なくされますが、黒はそこで得たテンポでルークをセンターにまわします。b7で使うことを諦めた白マスビショップはd7で我慢しつつ、e8に退いて様子を見るか、c6-c5、Bd7-Bc6の機を伺います。

16. a3?!


ここは黒からのc6-c5ブレイクの準備が十分に整っているので、それを防ぐのが最優先です。本譜の代わりに16. Na4 Qc7 17. Ne5 Be8 といった展開を予想していました。白はビショップペアを諦めた代わりにc5のマスを抑え、黒の白マスビショップの働きを抑えてバランスを取ります。このような戦い方はQGD Cambridge Springsで学びました。例えば以下のようなゲームがありました。1. d4 Nf6 2. c4 c6 3. Nf3 d5 4. Nc3 e6 5. Bg5 Nbd7 6. e3 Qa5 7. Nd2 dxc4 8. Bxf6 Nxf6 9. Nxc4 Qc7 10. Bd3 Be7 11. O-O O-O 12. Rc1 Rd8 13. Qe2 Bd7 14. Ne5 Be8= Alekhine, A - Kashdan, I / Bled 1931

16... Nxc3! 17. Qxc3 c5=

こうしてc6-c5のブレイクが成功すれば黒の白マスビショップが活性化し、黒は楽に戦うことができます。以下、はっきり良いポジションが長かったですが、最終的にはドローに落ち着きました。後半の指し方の甘さは反省点ですが、これまで学んだいくつかのオープニングの知識を組み合わせ、初めての形を上手く指せたことには満足しています。

2023/10/13

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第24回予告

10月のYouTubeでの講座告知です。今月の講座は今週末の日曜日、10/15 20時からスタートです。

10月のYouTubeの講座テーマは『正しいピース交換』です。チェスでは白黒が互いに16個ずつの駒を持ってスタートし、それを動かし、時に取り合ってゲームが進行していきます。その中で起こるピースの交換には、戦略上正しいものとそうでないものがあります。同じピース同士、または価値の同じピース同士を交換しても、どちらかにとって得になる正しい交換とはどのようなものかを見ていきましょう。

プロプレーヤー小島慎也のチェス講座 第24回『正しいピース交換』|2023.10.15

2023/10/12

Nagoya Open 2023 Opening Analysis Vol.1


先日参加した名古屋オープンのゲームから、序盤にスポットを当てて紹介しようと思います。まずは初戦の藤沢さんとの試合です。藤沢さんとは名古屋の大会でかなり試合をしており、こちらが黒番のときはいつも1.c4です。

Fujisawa, H - Kojima, S
Nagoya Open 2023 (1)

1. c4 c6 2. Nf3 d5 3. g3 Nf6 4. Bg2 dxc4

2009年にベトナムで開催されたZone3.3に参加した際に初めて研究して以来、1.c4と組み合わせるキングサイドフィアンケット対策として、しばしば指している形です。この試合以前で、8勝1ドローと得意にしていることも分かりました。白はナイトとクイーンを使ってc4を取り返そうとするのが一般的なアイディアですが、手順とタイミングに工夫が必要です。

5. Qc2!?


多くの場合は5. 0-0 Nbd7 6. Qc2というタイミングでクイーンを配置します。本譜の早いQd1-Qc2の場合はb7-b5からc4を守る手が有効だとなんとなく記憶していましたが、理由がよく分からなかったのでここで少し時間を使い、自分なりに納得できる理由が見つけられたところで、b7-b5を決めました。セオリーをあまり知らなかった過去の薄葉さんとの試合では、5... g6 6.Qxc4 Bg7 7.0-0 0-0と進めましたが、ナイトを1つ捌かずに白がc4を取り返せれば、センターの厚みで少し白が指しやすいと思います。

5... b5! 6. a4 Bb7 7. O-O

以前、野口さんと指した試合では7. b3!? cxb3 8. Qxb3 a6と進み、難しいゲーム展開でした。b2-b3からc4を崩して白が完全にギャンビットするのは、他のSlav Defenceでも時々見られるアイディアですが、Qd1-Qc2-Qxb3とポーンを回収するのにクイーンが2回動いているのが気になります。このクイーンの無駄な動きを挟んでしまうことが、早いQd1-Qc2の弱点であり、b7-b5が有効な理由の1つでもあると思います。

7... e6 8. Rd1


これもありえるアイディアで、白はb2-b3ではなくd2-d3でポーンを完全に捨て、dファイルのコントロールと展開の早さでポーンの代償を求めることができます。しかし、これに対しても次のアイディアを考えていました。

8... Na6!

d7ではなくa6にナイトを展開するアイディアも、この1年間で学んだSlav Defenceの変化の中に含まれていました。黒はNa6-Nb4を見せておくことで、c2のクイーンをターゲットにしつつ、白の狙いであるd2-d3を防ぎます。d3でのポーンの交換の際、exd3とポーンで取る形では、白はポーンの代償は不十分でしょう。上記の5.0-0 Nbd7 6. Qc2の変化では、黒がナイトをd7に展開するのを確認してからクイーンを配置しているのもポイントで、黒は本譜のNb8-Na6が使えません。この端からのナイトの展開の際にクイーンがターゲットになりうることも、早いQd1-Qc2の弱点と言えそうです。

9. axb5?! cxb5 10. Rxa6?


これは十分に警戒したうえでナイトをa6に展開したつもりでした。黒には駒を返すアイディアで対抗できるため、このエクスチェンジサクリファイスは不発に終わります。

10... Bxa6 11. Ne5 Rc8! 12. Bc6+


ビショップを差し出してエクスチェンジを取り返すだけでは白は不満ですが、他の手であれば黒はポーン+エクスチェンジの駒得をキープできるため、やはり黒勝勢です。

10... Rxc6! 13. Nxc6 Qd5! 14. Na5 Bb4-+

白のナイトは逃げ場がなく、b4のマスでトラップされているために黒勝勢です。以下、特に大きな問題なく22手で黒勝ちとなりました。白はクイーンが手損になるとしても、どこかでb2-b3を試すべきだったと思います。

2023/10/10

Nagoya Open 2023 Day2 Tournament Report

今年の名古屋オープン上位クラスの入賞者たち Photo by Higashishiba

週末の名古屋オープンを終え、東京に戻ってきました。初日は3連勝できましたが、2日目は1勝1敗1ドローと星が伸びず、4位に終わりました。優勝はポーランドから参加されたIMのSabuk Piotrさんです。各クラス入賞者の皆さん、おめでとうございます!

1st Place Sabuk, Piotr 5.5/6 (IM, POL, 2394)
2nd Place Nanjo, Ryosuke 5/6 (IM, JPN, 2476)
3rd Place Aoshima, Mirai 4.5/6 (FM, JPN, 2463)
4th Place Kojima, Shinya 4.5/6 (IM, JPN, 2485)

Nagoya Open 2023 Final Standings


4RのSabukさんとの試合は序盤から上手く指され、白を持ちながら負けてしまいました。最終戦の青嶋くんとの試合も面白かったですが、そちらは彼が自身のブログで紹介してくれています。今夜、こちらでは5Rの岡部くんとの試合を扱おうと思います。

Kojima, S - Okabe, Y
Nagoya Open 2023 (5)

1. c4 c5 2. g3 g6 3. Bg2 Bg7 4. Nc3 Nc6 5. Nf3 d6 6. O-O e5 7. a3 a5 8. Ne1 Be6 9. d3 Nge7 10. Rb1 O-O 11. Bg5 f6 12. Be3 b6

1.c4から入るのは久々ですが、Botvinnik Style Englishは杭州で弘平くんと練習で指し、アイディアを確認していました。黒にd6-d5を許しても白は勝負できますが、なるべく止めておく方針で今回は戦います。

13. Nd5! Bxd5 14. cxd5 Nd4 15. a4!


d5でのピース交換後、こうしてaポーンを突き直すのがポイントです。黒からのa5-a4を許せばb3のマスを確保され、黒の侵入してきたナイトにさらなる活躍を許すことになります。逆に黒のa5-a4,b6-b5を止めておけば、白は将来的にb5やc4のマスをナイトのマスとして活用できるチャンスがあります。

16... g5?! 16. Bd2! Ndf5 17. Nc2 Ng6 18. Na3!

白はd4のナイトを追い返したうえで、自身のナイトを強力な白マスに向けて移動させていきます。白マスビショップを失った黒は白マスが極力弱くならないように注意して指すべきであるため、g6-g5からf5のマスを弱めてきたのは白にとって好都合でした。

18... Nh6 19. e4!


f6-f5を許しても白良しですが、せっかくなので止めておきます。a1-h5のクイーンのダイアゴナルも開くため、さらに白マスを活用するチャンスが増えます。白マスビショップの利きはポーンで止めてしまうように見えますが、どうせf6-f5を許せばe4のマスは使えませんし、Bg2-Bh3のダイアゴナルスイッチのアイディアがあるため、問題ありません。

19... Qd7


19... f5 20. exf5 Nxf5 21. Qg4!+-と進めばg5のポーンがターゲットになるうえ、Bg2-Be4のアイディアも復活して白勝勢です。

20. Nc4! Rab8 21. b3 g4 22. f3!

g5-g4がこなければ、Qd1-Qh5,Bg2-Bh3を組み合わせようと思っていました。gポーンの押し込みにはfファイルを開くことでf1のルークを活動的にし、f5のマス、f6のポーンの弱点を浮き彫りにします。

22... gxf3 23. Rxf3 Ne7 24. Qf1!?


他にも良い手は色々ありそうですが、fファイルでヘビーピースを重ねると同時にBg2-Bh3の切り替えを準備します。

24... f5 25. Bh3 Qc7 26. Bxh6

f5でポーンを取れば十分に勝勢と判断し、ビショップナイト交換を仕掛けます。26. exf5 Rf6 27. g4!+-でも黒はd5を取る暇がなく、白勝勢でした。

26... Bxh6 27. Bxf5 Kh8 28. Qh3 Ng8 29. Rbf1 b5 30. axb5 Rxb5 31. Be6!


fファイルを開き、最後のタクティクスを準備します。ターゲットになっているh6のビショップが、逃げるマスも守る方法もなく、黒は厳しい状況です。

31... Rxf3 32. Rxf3 Rxb3 33. Bxg8 Rb1+ 34. Kg2 1-0

2段目でのチェックもないため、黒の反撃も続きません。序盤で正確なセオリーの手順を思い出せない反省はありましたが、それ以外はほぼ100点のゲームだったと思います。様々なスタイルのチェスを試しながら、その精度を高めていきたいですね。

今年の名古屋遠征はこれで終わりですが、年明け1月に開催される東海オープンは初のFIDE公式戦ということで、参加を検討しています。今年も名古屋チェスクラブ、および東海地方のプレーヤーたちには大変お世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。
試合後、名古屋駅前の名鉄百貨店のレストラン街に向かいましたが、うなぎと味噌カツだけ大行列、他は割りと空いているという状況でした。第一希望ではなかったものの、久々にいただくきしめんも美味しかったです。3連休でどこも混んでいるのは仕方ないのですが、次回はもう少し空いてる穴場のお店も探しておこうと思います。

2023/10/08

Nagoya Open 2023 Day1 Tournament Report


この週末、日曜祝日の2日間は名古屋を訪れ、名古屋オープンに参加しています。今年は2日間で6試合を指すしっかりとした形式で、海外からのIMも参加して豪華なメンツが揃いました。私は初日となる今日、藤沢さん、牧野さん、野口さんを相手に3連勝で、トップグループに入っています。

Noguchi, K - Kojima, S
Nagoya Open 2023 (3)

1. g3 d5 2. Bg2 g6 3. Nf3 Bg7 4. d4 Nd7 5. O-O Ngf6 6. c4 dxc4 7. Na3 Nb6 8. Nxc4 Nxc4 9. Qa4+ c6 10. Qxc4 Be6 11. Qd3!?

4年前の名古屋オープンではインドのGM Sriramに11. Qb4 Qb6 12. Qa3と指され、e7の守り方が分からずに自滅してしまいました。その試合の反省から、e7を取らせてもe8にまわしたルークでe2に反撃すれば良いことを学び、この試合に活かします。

11... Bf5 12. Qb3 Qb6 13. Qa3 O-O 14. Rd1 Rfd8 15. Bd2 Rd5!?


g2のビショップが気になりますが、有効なディスカバードアタックはないとふんでこの手を指しました。Bd2-Ba5を防ぐ手としては、15... a5も堅実です。

16. Ne5 Rxd4

ナイトの跳びこみにはポーンを取り合うつもりでした。代わりにコンピュータは16... Qxd4!? 17. Bxd5 Nxd5 18. Nd3 Qe4 19. Nf4 h5でエクスチェンジを捨てる代償は十分あると示します。

17. Qxe7 Be6 18. Bc3 Rxd1+ 19. Rxd1 Re8! 20. Qa3 Bd5 21. Bd4


d4とe7の取り合いは黒が十分だと考えていました。ここは21. Bxd5 Nxd5 22. Nc4 Qc7 23. Bxg7 Kxg7 24. e3=くらいで互角ですが、野口さんはNe5-Nc4に気づかなかったようです。

21... Qc7 22. Nf3 Rxe2 23. Qxa7 h6 24. Nh4 Qe7 25. Bxd5?

白からのビショップ交換は黒のピースのみ良い位置に移動できます。25. Bf1! Re1 26. Rxe1 Qxe1 27. Ng2!= こうしてルークを捌いたうえでナイトを戻せば白は十分に戦える形勢でした。

25... Nxd5 26. Bxg7 Kxg7 27. Qd4+ Qf6 28. b4 Nxb4


白クイーンはf2の守りから離れられないため、このポーンは取ることができます。しかしそれを言うならば、28... Rxa2! 29. b5 cxb5! 30. Nf3 Qxd4 31. Rxd4 Nc3 32. Rd7 b6 33. Ne5 b4-+ でも良かったしょう。本譜でb4を取れることは読めたのにもかかわらず、こちらの分岐でb5のポーンを取れることを完全に見落としていました。

29. Nf5+ gxf5 30. Qxb4 Rxa2 31. Qxb7 Ra1 32. Rxa1 Qxa1+ 33. Kg2 Qf6

このクイーンエンディングはきちんと指せば黒勝ちですが、パペチュアルチェックを気にしつつcポーンを進めなければいけないため、少しの間違いで白にドローチャンスを与えることになります。

34. Qb4 Qe5 35. Kh3 c5 36. Qb5 Qd4 37. Kg2 Qe4+ 38. f3 Qd4 39. Qa5 Qe3 40. Qa1+ Kh7 41. Qa7 Kg7 42. Qa1+ Qd4 43. Qa5 c4!


少し繰り返した後で、f5を捨てる決断をします。

44. Qxf5 c3 45. f4 Qd2+?

クイーンエンディングの難しいのは、ディフェンス側にパペチュアルチェックがあるかどうかの正確な判断です。45... Qc4! 46. Qc2 Qb4 47. Kf3 Qb2 48. Qf5 c2 49. Qg4+ Kf8 50. Qc8+ Ke7 51. Qc7+ Kf6 52. Qd6+ Kg7-+ ならば問題なく黒勝ちですが、f7ポーンを支柱にキングが回る動きでチェックを回避できることは分かりませんでした。

46. Kh3??


白はキングを上げるマスを間違えてドローチャンスを逃します。46. Kf3! Qd1+ 47. Kf2 c2 48. Qe5+ Kf8 49. Qb8+ Ke7 50. Qe5+ Kd7 51. Qb5+ Kd6 52. Qb4+ Kd5 53. Qb5+ Kd4 54. Qb4+ Kd3 55. Qd6+ Kc3 56. Qc5+ Kb2 57. Qb4+ Kc1 58. Qa3+= ならば黒キングはチェックを振り切ることができません。

46... Qe2 47. g4 c2 48. g5 Qe6 49. gxh6+ Kxh6 0-1

2試合続けて難しいエンドゲームだったので、どちらも勝ち切れてほっとしています。明日は日本では珍しい海外のIMとの対戦ですので、楽しんでこようと思います。

Nagoya Open 2023 R4 Pairings

Nagoya Open 2023 Live Game


夕飯は6人で味噌煮込みうどんの山本屋総本家へ。てんぷら、黒豚、名古屋コーチンなど、様々なトッピングができます。

2023/10/07

Hangzhou Asian Games Day4 Tournament Report

男子個人戦で優勝し、インタビューを受ける中国のGM Wei Yi

この1週間は過ぎるのがあっという間で驚きました。杭州アジア大会にのチェス種目、男子個人戦は9/27に最終日を迎え、翌日9/28に私たちは帰国しました。8,9Rが行われた4日目は、8Rで韓国のFM Kwonに負け、9Rで不戦勝という結果でした。前日まで偶数参加者で、不戦勝になるプレーヤーはいませんでした。しかし、3日目にイランのMaghsoodlooが連敗してドロップ、最終日だけ奇数人数になったことで1人余るようになったのです。8R負けでも不戦を食らう位置にはいなかったはずですが、下位にいた香港の2人に当たれるプレーヤーがすでにいないことが理由で、私が不戦を引くことになりました。少し納得できないペアリングでしたが、8R負けた自分が悪いとも考えられます。13年ぶりのアジア競技大会は消化不良のまま終わりました。

Kwon, S (FM, KOR, 2192) - Kojima, S (IM, JPN, 2318)
Hangzhou Asian Games Men's Individual (9)

1. d4 d5 2. Nf3 Nf6 3. g3 Bf5 4. Bg2 c6 5. c4 h6 6. Nc3 e6 7. Qb3 Qb6 8. c5 Qxb3 9. axb3 Be7

Slav Defenceに対しても白がキングサイドフィアンケットを組むセットアップは昔からあり、今回はこうしたピースの組み方を黒で準備してきました。白のb3-b4-b5にはb8のナイトを展開せずに待機しておき、b5を取ってからNb8-Nc6とするのがポイントです。

10. O-O O-O 11. b4 a6 12. h3 Nbd7 13. g4 Bh7 14. Bf4 Rfe8


ここはどう指すか少し悩みました。ルークをe8に置くメインのアイディアは、Be7-Bf8もしくはBe7-Bd8と退き、e6-e5とブレイクすることですが、こと後少し気が変わって違うアイディアを試しました。

15. Nd2 Rac8 16. Bg3

最初に意図した通り、15... Bf8も選べましたが、Nd2-Nb3-Na5を警戒しました。そこでc7でビショップをぶつけてb8のマスを奪い返せるよう、ルークをc8に置くセットアップを選びます。

16... Bd8 17. f4 Bc7 18. Kh2 Re7 19. Rae1 Rd8 20. Kh1 Nf8 21. Bf3 g5!


白はf2-f4からe5を抑え、黒のe6-e5ブレイクに備えてきましたが、黒もf4ポーンをターゲットにするプレーのチャンスが生まれます。

22. e3 Ree8 23. Bg2 Ng6 24. Bh2 gxf4!

直前のルークの動きにあまり自信がなく、c7のビショップを浮かせたことは少し失敗だったかと思いました。しかし、黒はこれでも十分で、自身のhポーンを孤立にしてもh4のマスを使ってチャンスを作ります。

25. exf4 Nh4 26. Bg3 Nxg2 27. Kxg2 Kg7


白マスビショップをいただき、ダブルビショップになった時点でe4を使うアイディアを考えました。チャンスが来るまでは浮いたhポーンのカバーや、キング、ルークの位置を改善しながらその時を待ちます。

28. Bh4 Rd7 29. Rf2 h5 30. Kf3 hxg4+ 31. hxg4 Bd8 32. Bg3 Ne4?!

e4の利きは足りていないように見えますが、dファイルが開けばd4への反撃が生まれ問題無いというのが私の判断でした。しかし1つ見落としがあり、ここではビショップがe4に跳びこむべきでした。 32... Be4+! 33. Ncxe4 dxe4+ 34. Nxe4 Rxd4 (ナイトがg4を当て続けているため、Kf3-Ke3とできないのが本譜との違いです) 35. Nxf6 Bxf6 36. g5 Be7と進めば、黒は白マスビショップを返してもセンターに出てきたルークの力で満足に戦えます。

33. Ndxe4 dxe4+ 34. Ke3


すぐにe4を取らず、d4を守られる手を見ていませんでした。この後e4を取られても、黒は十分に戦えるのですが、時間切迫もあって落ち着いて指せなかったことは反省です。

34... Bf6


ここも白マスビショップを邪魔するとしても、単に34... f5としてe4を守っても良かったでしょう。

35. Rd2 Red8 36. Red1 Be7 37. Nxe4 f5?!

37... Bxe4! 38. Kxe4 Rd5= 白マスビショップを返すアイディアは終始頭になく、相手の持っていない白マスビショップを使ってなんとかポーンの代償を作ることにこだわりすぎました。冷静に考えれば白マスビショップを捌き、黒マスビショップだけを残せば、白マスに残った全てのポーンを置いている黒は安全で、白はd4の守りに縛られて1ポーンアップを活かすことができません。この後、ナイトと白マスビショップ交換のチャンスが再度訪れますが、それも見逃してしまいました。

38. Nf2 fxg4 39. Nxg4 Bf5 40. Ne5 Rd5 41. Nc4?!


41. Rg1! Kf8 42. Rh1! Bf6 43. Bh4+- 一度g1にルークを振り、黒キングをfにずらしてからhファイルに切り替えるのが巧みなアイディアです。

41... Rh8 42. Rh2 Rxh2 43. Bxh2 Rd8 44. Bg3 Rh8 45. Na5 Rb8?

h8に振り、反撃を見せたルークをb7のディフェンスに戻すのは消極的であると分かっていましたが、b7を捨てて大丈夫だとは思えませんでした。45... Rh3! 46. Kf2 Kg6! 47. Nxb7 Kh5 48. Nd6 Kg4 49. Nxf5 exf5= 2ポーン目を取らせても、g3のビショップの働きが悪い白は駒得を活かすプランを作れません。

46. Rh1 Bd8 47. Nc4 Be7 48. Rh2 Rd8 49. Na5 Rd7 50. Bh4 Bf8 51. Bg5 Kg6 52. Nc4 Bg7 53. Rd2 Bb1?!


53... Bh8!はd4への攻撃を保ちつつ、7段目を開けてRd7-Rh7を狙う機敏な1手です。

54. Nb6 Rf7 55. Rg2 Kh7 56. Nc8 Ba2 57. Nd6 Rd7 58. Rd2 Bd5 59. Ne4 Kg6?


ここが最後にナイトビショップを交換するチャンスでした。59... Bxe4! 60. Kxe4 Kg6=

60. Nc3 Bc4? 61. Rd1 Kf5 62. Ne4 Bd5 63. Nd6++-

e4での交換を避け、急所のd6に潜り込めれば白のナイトを強さは明らかです。e4を死守するためにビショップはd5に残し、60... Kf5とするのが正しい判断でした。

63... Kg6 64. Rg1 Kh7 65. Ne8 Bc4 66. Bf6 Bf8 67. Be5 Rf7 68. Nf6+ Kh6 69. f5 Rxf6 70. Bxf6 exf5 71. Kf4 Bd3 72. Rg8 1-0


最後は時計を叩いているだけというような状態でした。ポーンを失い、時間切迫でも負けないためのプランを落ち着いて考えられるようになりたいですね。

9/20 Arrival (Narita-Shanghai)
9/21
9/22
9/23 20:00 Opening Ceremony
9/24 15:00 Individual Rapid R1 Kojima, S (IM, JPN, 2318) - Sindarov, J (GM, UZB, 2607) 0-1
9/24 17:00 Individual Rapid R2 Kwong, W K (HKG, 1850) - Kojima, S (IM, JPN, 2318) 0-1
9/25 15:00 Individual Rapid R3 Kojima, S (IM, JPN, 2318) - Jumabayev, R (GM, KAZ, 2517) 0-1
9/25 17:00 Individual Rapid R4 Ahn, H (IM, KOR, 2125) - Kojima, S (IM, JPN, 2318) 1-0
9/26 15:00 Individual Rapid R5 Kojima, S (IM, JPN, 2318) - Kao, J E (HKG, 1651) 1-0
9/26 17:00 Individual Rapid R6 Setyaki, A (IM, INA, 2334)- Kojima, S (IM, JPN, 2318) 1/2-1/2
9/26 19:00 Individual Rapid R7 Kojima, S (IM, JPN, 2318) - Yamada, K (FM, JPN, 2157) 0-1
9/27 15:00 Individual Rapid R8 Kwon, S (FM, KOR, 2192) - Kojima, S (IM, JPN, 2318) 1-0
9/27 17:00 Individual Rapid R9 Bye
9/27 20:30 Prize Ceremony
9/28 Departure (Hangzhou-Narita )

応援してくださった皆さんに申し訳ないような戦績でしたが、また気を取り直して国内外の大会で頑張っていきたいと思います。まずは明日から始まる名古屋オープンです。久々にリスト1で参加する国内大会となりますので、優勝できるように精一杯プレーしてきます。
帰りに杭州空港で選手たちを見送るマスコットのリャンリャンたち。杭州アジア大会もそろそろ閉幕です。
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