2012/12/31

2012年総括

気付くと、もう2012年も最終日です。他のチェスブログでも、ぽつぽつと今年を振り返った記事が出ているので、私も今日はそうしようと思います。今年は私にとってこの10年で、最もJCA 公式戦が少なく、最もFIDE 公式戦の多い年となりました。ハンガリーに半年以上滞在して試合ばかりしているので、当然と言えば当然ですね。FIDE 公式戦を月に20試合ずつこなすというのは、ハードですが非常に充実した日々です。

JCA 公式戦 25勝2敗5ドロー(勝率86%)
FIDE 公式戦 59勝36敗60ドロー(勝率57%)


試合数は少ないですが、国内は初めて勝率が85% を超えました。これは年の頭に兵庫、静岡を巡って地方遠征をしたことが影響しています。年間100試合弱をこなして、この勝率を保てれば素晴らしいですね。3月の百傑の最終戦で、羽生さんと優勝を争ったのも良い思い出です。

そしてFIDE 公式戦は150試合を超えましたか... 自分でも驚きです。そして勝ちよりドローが多い(笑)全日本では2264 だったレイティングが、2340 まで上がったのも、これだけ試合をこなしているおかげですね。あと数時間もすれば、レイティングが更新されて、さらに上がった数字が発表されるでしょう。

また、今年のベストゲームは、先月のHou Qiang とのゲームですかね。解説はリンクから、棋譜だけ下に貼っておきます。

Kojima, S (FM, JPN, 2339) - Hou, Q (FM, CHN, 2289)
First Saturday IM November (9)

1. Nf3 Nf6 2. c4 g6 3. g3 Bg7 4. Bg2 O-O 5. O-O d6 6. d4 Nc6 7. Nc3 a6 8. h3 Rb8 9. e4 b5 10. cxb5 axb5 11. Re1 b4 12. Nd5 Nxd5 13. exd5 Na5 14. Bg5 Bf6 15. Bxf6 exf6 16. Rc1 Bd7 17. b3 f5 18. Qd2 Kg7 19. Rc2 Rb7 20. Rec1 Re8 21. Ne1 Re7 22. Nd3 Qb8 23. h4 Be8 24. h5 h6 25. hxg6 fxg6 26. Nf4 Bf7 27. Ne6+ Bxe6 28. dxe6 Ra7 29. d5 Qb6 30. Bf3 Ra8 31. Kg2 Rf8 32. Rh1 g5 33. Rcc1 Rf6 34. Rxh6 Kxh6 35. Rh1+ Kg6 36. Bh5+ Kh7 37. Bf7+ Rh6 38. Qxg5 1-0

2012年は私にとって、激動の一年でした。一月からは、ハンガリーへの留学を決めて、国内での仕事を全てまとめつつ、Check Mate Lounge の準備を進めてきました。全日本後にこちらに来てからは、ひたらすら試合の日々でしたが、それと同時にアンダンテで多くの人と出会い、自分自身が変化してきたことを自覚しています。オリンピアードではふがいない戦績でしたが、その悔しさをばねに、10月12月にはIM ノームを獲得することができました。レイティングも2400間近で、あと一歩で日本人初のIM に手が届きます。去年、ラスベガスでビッグシックスをしていた時には、こうした一年はまるで想像できていなかったでしょう(笑)

来年3月に帰国した後には、国内での試合をこなしつつ、日本で出来るチェスの仕事を開拓していくことになると思います。そのためにも、帰国するまでにこちらで、悔いのないようにきっちり勉強しておくつもりです。今年、私を支えて下った皆さん、ありがとうございました。そして、来年もよろしくお願い致します。それでは、良いお年をお迎えください。

2012/12/28

China vs. India

私たちが所属しているアジアで、どの国が一番強いかという話はしばしば持ち上がります。So Wesley、Li Quang Liem のような若いNo.1 が伸びてきたフィリピン、ベトナムなどは、現在アジアでもトップクラスの実力を持ちます。しかし、私の経験や大会での実績を考慮すれば、まだアジアは中国、インドの二強対決の構図が、なかなか崩れていないと言えるでしょう。

中国はのチェスプレーヤーの数は、人口から考えればさほど多くないものの、才能のある若い芽を早期に発掘し、英才教育を施すことで、プレーヤーを育て上げています。おそらくそうした活動は、この10年~20年の間に積極的に進められたのでしょう。その結果中国は、2700台を複数抱える、アジアでもトップの実力を持つ国にのし上がりました。女子の層が厚いのでも有名で、現在の女子世界チャンピオンであるHou Yifan を始め、何人かの女子チャンピオンを輩出しています。

一方でインドには、チェスの起源となった国としてのプライドがあります。(厳密には、古代インドのチャトランガが、チェスの起源であるという説があります。)現世界チャンピオンのViswanathan Anand がトップに立ち、2400台のIM、GM 層が非常に厚いのが特徴となっています。しかし、そこから2500台、2600台へと順調に実力を伸ばし、インド代表勢を脅かすような才能が、近年そこまで多くないのが、多少の悩みかもしれません。(強いて挙げればNegi ぐらい?)

私が初めて中国とインドのことを意識したのは、2006年に参加したドーハアジア大会の時です。チーム戦では、Sasikiran、Harikrishna 率いるインドが優勝し、中国は準優勝でした。(個人戦ではやる気のなかったSasikiran が、チーム戦で奮闘した結果です。)以来、私が見てきたアジアの大会では、中国とインドが表彰台から落ちることはほとんどなく、どちらが一位を取るかという争いが焦点になっています。他の2600~2700のスターを抱える国でも、チーム戦となるとプレーヤー層の厚さで、中国、インドに割って入るのは困難なのです。今年のオリンピアードでのフィリピンの奮闘は、相当珍しいことだと言えるでしょう。


Liu Guanchu とHou Qiang、Chessbase News より

舞台をアジアからヨーロッパに移しても、この二国の存在は無視できるものではありません。私が現在プレーしているいるハンガリーのトーナメントにも、ほぼ毎月、中国とインドのプレーヤーが顔を出しており、レイティングを稼いでいます。上の写真のLiu Guanchu は2つ、Hou Qiang は3つのIM ノームを獲得して、ハンガリーを去っていきました。

そして中国の嫌なところは(中国の皆さん、ごめんなさい)、実力はあるのに、さほど高いレイティングがついていないプレーヤーを、何人も海外に送り出して荒稼ぎをさせていることです。7月にIM ノームを2つ獲得したXu Yi は、レイティングが2100後半でしたが、本当に2100台のプレーヤーは、どう頑張ってもノームを獲得することなどできません。彼らのノーム獲得の陰には、レイティングを食われて涙を流すハンガリーのプレーヤー達の姿があるのです(笑)

インドのプレーヤーは、私の目の前ではノームまで到達していませんが、レイティングはそこそこ稼いでいます。なにしろ彼らはとくかく若い!私がハンガリーで対戦してきたインド人たちは、11歳~13歳です。彼らは今後の努力次第では、私をやすやすと越えてIM、GM に到達する可能性もあるでしょう。若いからといって、対戦する際に油断は一切できないのです。

今後、アジアのチェス情勢がどうなっていくかは、私には分かりません。Anand がチーム戦に加わることでインドが中国を圧倒するかもしれませんし、中国が他の代表をごぼう抜きにするような、とんでもない才能を発掘するかもしれません。はたまた、フィリピンがオリンピアードでの躍進を、決してまぐれではないとアピールするような大活躍をするかもしれません。日本のチェスファンの皆さんにも、世界のトップが集まるような大会ばかりではなく、時々で良いので、自分たちが所属するアジアのチェス状況もチェックしていただきたいと思います。

また、そんなアジアの中で私にできることは、なるべく早くIM を取得し、日本が彼らに置いていかれないよう、一歩ずつでも日本を前に進めることでしょう。結局はここに話が戻ってくるのですが(笑)、こちらでプレーしていて改めて思ったことを、簡単にですが記事にさせてもらいました。

2012/12/26

Improve Your Chess Tactics


今年扱いたいネタがいくつかあるのですが、まずは本の話題から。ロンドンでは会場のショップや、有名なロンドンチェスセンターなどで、チェスの新刊をいくつかチェックしてきましたが、結局買ったのはこの一冊のみです。どこにでもありそうなタイトルの本ですが、昨年出版されたタクティクスの本です。

自分が今、IM を目指すうえで、何に重点を置いて勉強すべきかというのは難しいですが、自分のタクティクスの見え方に、少し問題があることは間違いありません。先月のLiu Gunachu 戦では序盤で決定的なタクティクスを見落とし、ロンドンではSimon Williams にひどい手を指してタクティクスを決められてしまいました。どんなレベルにおいても、タクティクスを見極める力を付けることは、勝率のアップに繋がると私は考えます。

本書はロンドンの会場でパラパラと中身を見て、購入を決めました。テーマは、Deflection、Decoying など細かく章に分かれて説明がなされており、それぞれに問題がついています。合計で700以上のポジションが紹介されているようですね!第一章の問題はほぼ全て解けましたが、どんどん問題のレベルは高くなっているようなので、今後は私も心して解いていこうと思います。最後に問題を一つ載せておくので、答えが分かった方はコメント欄にどうぞ。


White to move and win

2012/12/25

The Second IM Norm


クリスマスイブのブダペストは、人通りが少なくとても静かです。

昨日の記事でもお伝えした通り、自身2つ目となるIM ノームを獲得しました。IM になるためには、3つのIM ノームが必要であるため(厳密には少し違うのですが)、必要なノームはあと1つです。昨日の午前中には、ブダペストのアンダンテに戻り、様々な人に祝福されて、自分の中でも喜びがふつふつと湧き上がってきました。今月はレイティングも+33 と大幅に伸ばし、CAISSA の報告が遅れなければ、来月のトーナメント前には、2373 というベストレイティングが付きます!

実を言えば、自分のチェスが2400のレベルに近づきつつあるという事実に、あまり実感はありません。しかし、今回のGM トーナメントで、2400台のプレーヤー達とイーブンの戦績を残し(少し短手数ドローが多かったですが...)、ロンドンでも2300未満を全員退けたということは、実際にそうなのでしょう。この休みの間に自分の試合を丁寧に振り返れば、自分の成長具合も見えてくるかもしれません。

なにはともあれ、ここまできた以上、残りのブダペスト滞在2ヵ月~3ヶ月で、最後のノーム獲得とレイティング2400到達を目指し、日本人最初のIM になろうと強く思います。日本のチェスファンの皆さんには、私が一層頑張れるよう、ご声援を送っていただければ幸いです。今後ともよろしくお願い致します。


さて、堅い話はこれぐらいにし(笑)、昨日のクリスマスパーティの様子を少しだけお伝えします。昨夜はブダペスト在住の女性陣による手料理の数々に加え、奥山さんからの寿司の舟盛りが振舞われ、アンダンテは大盛況でした。昨年、ラスベガスで迎えたクリスマスも良かったですが、今年のようなパーティーは久々だったので、とても楽しかったです。また来年以降も、クリスマスはアンダンテに戻ってこようと思うような、賑やかで思い出深いひと時でした。


こちらはロシア留学中の女性による、ロシアの名物料理、ボルシチです。本で読んだことはありましたが、実際に口にしたのは初めてです。素晴らしい味でした!


2つ目のIM ノーム祝いとしていただいたのでは、このチェスチョコレート!チョコがチェスの駒の型をしており、プレーしながら、相手の取った駒を食べるというパーティーグッズです。こちらも話には聞いていましたが、実際に目にするのは初めてでした。ロシアではチョコの代わりにウォッカの入ったグラスを使い、駒を取るたびに一杯飲まされるそうな(笑)

日本のチェス界ではクリスマスオープンが終わり、今年最後の公式戦、学生選手権が明後日から開催されますね。過去最大規模の参加人数になりそうなので、学生の皆さんは是非交流を楽しみ、そのうえで試合を頑張っていただきたいと思います。

2012/12/24

CAISSA GM December 10th round - Christmas Gift -


もう結果から書いてしまいますが、IM ノームをかけたCAISSA 最終戦の結果はドロー。日本のプレーヤーとして初めて、2つ目のIM ノーム獲得となりました。私がハンガリーに滞在するのは来年3月までの予定なので、それまでに最後のIM ノームを獲得し、レイティングを2400 に乗せれば、日本人として初めてのIM 誕生となります。

しかし、最終戦のドローは簡単なものではありませんでした。Csonka は非常に高いファイティングスピリットと、私を超える入念な準備をもって試合に臨み、私はリザイン寸前まで追い詰められました。そんなゲームでポイントを拾えたのは、技術ではなく、それを上回る気持ちが働いた結果かもしれません。

Csonka, B (FM, HUN, 2320) - Kojima, S (FM, JPN, 2340)
Caissa GM December (10)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. e5 c5 4. dxc5 Nc6 5. f4!?



試合後に、「とても珍しい手だが、以前解析していて黒がイコアライズする方法を見つけられなかったラインだ」と教えてくれました。それは良いのですが、私が2日前から1. d4 対策に費やしていた数時間を返してほしい(笑)

5... Nh6 6. c3 Bf5


どこにビショップを出すかというのは、黒が頭を悩ませるところですが、振り返ってみれば、もう一つのマスがベターだったのではないかと思います。6... Bg4!? 7. Be2 e6 8. Bxg4 (8. Be3 Nf5 9. Bf2 h5=) 8... Qh4+ 9. g3 Qxg4 10. Qxg4 Nxg4 11. h3 Nh6 12. Be3 Nf5 13. Bf2 d4!(私はこの手をあまり深く考えず、本譜の6... Bf5 を指すことに決めてしまいました。)14. Nd2 (14. g4?! Ne3 15. Bxe3 dxe3 16. b4 a5=/+) 14... Bxc5 15. Ne4 Be7 ならば、黒はすでにイコールに近いところまで来ていそうです。

7. Nf3 e6 8. Be3 a6?!



Groszpeter 戦でも使ったこのアイディアを再び登場させましたが、ここはポーンを捨てている分、ピースの展開で勝負すべきでした。8... Be7 9. Bb5 Ng4 10. Bg1 O-O 11. h3 Nh6 12. Bf2 a6 13. Be2 f6 14. exf6 Rxf6 15. Nbd2 Bg6 16. g3 Qc7 は本譜と似ている1ポーンギャンビットですが、黒のピースの展開は早いので、面白い変化でしょう。

9. Nbd2 Qc7 10. Be2 Bg6 11. b4 Be7 12. Nd4 Nf5 13. Nxf5 Bxf5 14. Nf3 f6


私はこれでe5 を崩せばイコールに近くなると思い、ここでドローオファーをしました。しかし、彼は正確な判断でこれを蹴り、自然な流れでアドバンテージを拡大していきます。

15. O-O! fxe5 16. Nxe5 Bf6



白にはBe3-Bd4 からg7 取りがあるため、黒はポーンを取りかすとができません。16... Nxe5 17. fxe5 O-O 18. Qd4+/- でも、白は1ポーンとスペースのアドバンテージがありそうです。

17. Nxc6 bxc6 18. Bd4 O-O 19. Bxf6 Rxf6 20. Qd4!+/-


私はこの辺りまで来て、黒がかなり苦しいことをようやく認識しました。白はクイーンサイドで将来的にパスポーンを作る可能性があるうえ、特に弱点がありません。それに対し黒は、e6、a6、に弱点を抱えているうえに、満足なカウンタープレーを作れる場所がありません!仕方がないので、ここは耐える展開を続けます。

20... Be4 21. g3 Qb7 22. a4 Raf8 23. a5!?



この手は判断が難しいですね。Csonka のアイディアはa6 を完全にターゲットとして固定することですが、b4-b5 というパスポーンを作るブレイクのチャンスを、弱めてしまうことになります。a6 のポーンは、白ポーンをa5 まで進めずとも動くことができないので、それを踏まえれば、白はポーンをa4 に留めておくべきだったかもしれません。

23... Rb8 24. Rae1 Rd8??



しかし、これがひどいブランダー!指した直後に自分のミスに気づき、愕然としました。ところが、Csonka は次にa6 のポーンを取る簡単なタクティクスを見逃し、試合は続行となります。非常にラッキー!

25. Rf2? Rdf8 26. Rff1 Re8 27. Bd3 Bxd3 28. Qxd3


白はeファイルを開いてe6 のポーンをアタックできるようにしますが、代わりにa6 へのプレッシャーを弱めます。白マスビショップの交換が、黒にとってありがたいかは定かではありませんが、これでe6 を守ることに集中できます。

28... g6 29. Re5 Kf7 30. h4 Rb8 31. Rfe1 Qb5!?



クイーンを交換すれば、黒はa6 のポーンを全く気にしなくて良くなるため、ここはクイーン交換を持ちかけます。ダブルルークエンディングにして、白がどこからポジションを改善すれば良いかは、私はよく分かりません。

32. Qd4 h5 33. Kg2 Re8 34. R5e3 Rf5 35. Kh2 Rf6 36. Qe5 Qb8


黒はe6 のポーンをがっつりキングとルークで守り、あとはひたすら白のアクションを待ちます。先述の通り、クイーンの交換は、黒に問題ないとの判断です。

37. Qd4 Qb5 38. Kh3 Rf5 39. Kg2 Rf6 40. Qe5 Qb8 41. Qd4 Qb5



お互い時間を増やして、ポジション改善の方法を探ります。私が一つ考えていたのは、Re5-Rg5、g3-g4 というアクションですが、白のhポーン、fポーンも弱くなるので、これで白がOK なのかは、よくわかりません。ちなみに41手目を指した直後に、「しまった...3回同一局面だったか」と思いましたが、よく見ると白が34手目を指し直後とは、手番が異なります。手番が違えば、同じポジションでも3回同一局面とはなりません。(違っていたら恥ずかしい///)

42. Re5 Rf5 43. Kf2


ルークを2枚交換したクイーンエンディングは、黒のクイーンが白陣に飛び込み、パペチュアルチェックのチャンスが十分にあるでしょう。

43... Rf6 44. R1e3 Re7 45. Qd3?!



白は結局ポジションを改善する方法を見つけられず、クイーンを交換しにきました。私はこれを避けるわけにもいかないので、白のブレイクチャンスがないことを信じて、これに乗ります。

45... Qxd3 46. Rxd3 Rf5! 47. Rxf5+?


ここでのルーク交換は、黒がターゲットとなるe6 のポーンを解放したうえで、開いたeファイルからの反撃に出られるため、ドローに持ち込めると思っていました。白が勝ちを目指すのであれば、同じようにルークを交換するのであっても47. Rde3! と指すべきでしょう。e5 のマスでルークを交換した場合、黒がドローに持ち込めるのかどうかは、はたまたよく分かりません!この試合のエンドゲームは分からないことばかりです。

47... exf5 48. Re3



この手以外でも、黒は次にRe7-Re4 と飛び込み、十分にドローチャンスを確保することができます。白は1ポーンアップですが、cファイルのダブルポーンを活用できず、ポジションの改善が全くできません。

48... Re4 49. Ke2 1/2-1/2


ここでCsonka からドローオファー。断る理由など、何一つとしてありません。49. Rxe4 dxe4 50. c4 Ke6 51. b5 Kd7 52. b6 Kc8 でも、お互いのパスポーンをブロックしあって、ドローになることは明らかです。24... Rd8?? の直後にリザインしようかとも思いましたが、粘りに粘ってこういった結果に運できたのは、大変な幸運でした。勝ちなしでトーナメントを終えたCsonka には悪いですが、勝ちの手を見つけられないのも、勝負ではままあることです。

ところで、ビショップ交換後のエンドゲームに、本当に明確な白勝ちのプランがないのかは、私もまだ分かっていません。コンピュータで完全解析しても良いのですが、この試合に限って言えば、それだと少し面白くないと思うので、次の大会までに復習を兼ねて考えてみようと思います。皆さんからもアイディアがあれば、バシバシコメント欄にどうぞ。もちろん、IM ノーム取得に対する、お祝いのメッセージもお待ちしています(笑)

今日はゲームを中心にした記事にとどめ、IM ノーム獲得については明日の記事で触れることにします。それでは皆さん、良いクリスマスをお過ごしください!


昨晩は2ヵ月半ぶりのランゴーシュを買いにいき、ブダペストへの終電を逃しました(笑)


さらば、ケチケメート!また1月に戻ってきます。

2012/12/23

CAISSA GM December 9th round - Playing for A Norm -


Gupta - Csonka はドロー。2人はまだ勝ちなしです。

今月のCAISSA も、残りはあと2試合。8Rまでで、IM ノームの条件である2つ勝ち越しを達成したため、残りの2試合をドローで切り抜けることに全力を注ぎます。まずはGM Ilincic とのゲームから。

Kojima, S (FM, JPN, 2340) - Ilincic, Z (GM, SRB, 2443)
Caissa GM December (9)

1. Nf3 d5 2. d4 Nf6 3. c4 e6 4. Nc3 Be7 5. Bf4 O-O 6. e3 c6 7. c5!?



イスタンブールオリンピアード直前のIM トーナメントでは、フランスのIM 相手に7. Qc2 (今でもこれがベストだと信じています!)を試しましたが、このラウンドでは、クイーンサイドを早々に固める安全なラインをチョイスしました。

7... Nbd7 8. h3 b5!?


この手は初めて見ました。通常黒は、問題となる白マスビショップを交換してから、クイーンサイドをこのように固めます。メインラインは、8... b6 9. b4 a5 10. a3 Ba6 です。

9. b4 a5 10. a3 Ne4 11. Rc1 Nxc3 12. Rxc3 axb4 13. axb4 Bb7 1/2-1/2



ここでIlincic からドローオファー。黒は白マスビショップの問題が残っているので、依然白やや良しですが、ここではありがたくオファーを受けることにしました。日本人初となる、2つ目のIM ノーム達成まで残りは1試合、相手はハンガリーの15歳、Csonka,B です。是非ともここでIM ノームを獲得し、ブダペストに帰還したいと思います!


今朝は粉雪舞うケチケメートでした。


ぶたさん

2012/12/22

CAISSA GM December 8th round - Gold in Sands -


会場には最新のチェス本があり、それらを自由にチェックすることができます。

今年最後のトーナメントも、いよいよ終わりが見えてきました。8R は黒で勝ったGupta 少年との再戦で、ここでさらに勝てば、2つ目のIM ノームがぐっと近づきます。前回同様にNimzo-Indian になると予想し、入念な準備の上で試合の時間を迎えました。

Kojima, S (FM, JPN, 2340) - Gupta, B (USA, 2227)
Caissa GM December (8)

1. Nf3 Nf6 2. c4 e6 3. Nc3 Bb4 4. d4 c5 5. g3 cxd4 6. Nxd4 Ne4 7. Qc2!?



前回指した 7. Qd3 ではなく、昨年、Poland のWojtaszek が成功したことで、一気に注目度の上がったラインを、この大一番で使用します!

7... Qa5 8. Bg2 Nxc3 9. O-O O-O!?N


白は一時的にピースを捨てますが、このナイトはすぐに取り返すことができます。9... Na4?! 10. a3 Be7 11. Nb5! など。

10. bxc3 Be7!?



私にとって早々に予想外のポジションになりましたが、このビショップを退く手ならば、白は展開で良さでアドバンテージを得られると確信していました。 10... Bxc3!? 11. Nb3 Qe5 12. Bf4 Qf6 13. Rad1 Be5 14. Bxe5 Qxe5 15. c5 ならば、白はポーンの代償ありだと、検討戦で確認しています。

11. Rb1 Nc6 12. Rd1


白はダブルポーンを作った代わりに、b、d 2つのオープンファイルにルークを回し、黒のポーンに圧力をかけることで戦います。これにより、黒はc8 のビショップをどのように展開すれば良いか、頭を悩ませることになります。

12... a6 13. Bf4 e5?



早々に白が駒得になる痛いミス。ここは苦しくとも、 13... h6 などで様子を窺うのがベターだったでしょう。

14. Nf5! exf4 15. Bxc6 dxc6


15... Bf6 16. Bxb7 Rb8 17. Rd5 Qxc3?? 18. Ne7+! Kh8 19. Qxh7+! Kxh7 20. Rh5# といった変化で、早々に勝ちにならないか、少しだけ期待していました。

16. Nxe7+ Kh8 17. Nxc8 Raxc8 18. Rxb7+/-



これで白は何事もなく1ポーンアップですが、cファイルがダブルポーンでパスポーンがないため、そう簡単には試合は終わりません。それでもルークの位置が良いことを考えれば、じっくり指して問題なく勝てるはずでした...

18... fxg3 19. hxg3 Qc5 20. Qd3 h6 21. Qd4 Qa3 22. Rd2 c5 23. Qd3 Kg8 24. Kg2 Qa5 25. Qf3?!


やや不正確な手。 25. Rd7! Rc7 26. Rd8 Rc8 27. Rd5 ならば、白は最も重要なdファイルをがっちり握り、大きなアドバンテージをキープしています。

25... Rc7 26. Rbb2 Qa4 27. Qf4 Qc6+ 28. Rd5 Re8 29. Rbd2?!



再び疑わしい一手。 29. f3! Rce7 30. e4! と早めに a8-h1 のピンを外し、d5 のアウトポストを強めれば、もっと楽な展開だったはずです。

29... Rce7 30. Qf3 Re6


黒はルークをeファイルに重ね、反撃を試みます。こうなると白がポジションを改善するのはそう簡単ではなく、メジャーピースを交換して勝ちのエンドゲームを模索することになります。

31. Rf5 Qc7 32. Rfd5 Qc6 33. e3 Rf6 34. Rf5!?



仕方がないのでクイーンを交換します。このダブルルークエンディング(もしくはルークエンディング)が必ず勝てるという見込みはありませんでしたが、何ごとも実際にやってみるものです。

34... Qxf3+ 35. Rxf3 Rc6!?


ダブルルークエンディングは全てドロー!という格言がありますが、ここはルークを一組み換えるのもアリです。 35... Re4!? 36. Rxf6 gxf6 37. Rd6 Rxc4 38. Rxf6 Rxc3 と進んだルークエンディングが、黒にドローチャンスがあるのかは、お互いに確信が持てませんでした。(これは多分難しいので、また時間のある時に考えます。)

36. Rd7 f6 37. Rf5!?



コンピュータは 37. Rf4 から、c4 のポーンを守ってやや白良し評価ですが、私はこれで勝てるのかどうか、よく分かりませんでした。それよりも、直前に黒が7段目を弱めたことに着目し、ポーンを返してでもルークを7段目に2つ突入させることで、わずかな勝ちチャンスを作りだそうと考えました。

37... Re4 38. Rfd5 Rxc4 39. Ra7 f5 40. Rxf5 Rxc3 41. Rff7


白は狙い通り、ポーンを返す間に2つのルークを7段目に並べました。あとはここからさらに、ポジションを改善するアイディアを考えます。

41... Rg6 42. Kh3!?



一見すると意味の分からない一手ですが、私は勝負をこのアイディアに託すことにしました。最初に思いついた 42. Rfc7 は安全ですが、ドローにしかならない一手です。

42... Ra3?!


より安全なのは、 42... Rc2! 43. f4 Rf2! 44. f5 Rg5 45. f6 gxf6 46. Rfc7 Rh5+ 47. Kg4 Rg5+ 48. Kh3 Rh5+ とaポーンを取りにいかずに、確実にパペチュアルチェックを狙う変化です。お互いにルークは好位置ですが、勝ちには結びつけられません。

43. Rfe7!



私のアイディアは、aポーンを捨てて、 f2-f4-f5 とポーンを伸ばすことです。それによってg6 のルークをアタックし、g7 を取るチャンスを得られれば、勝てる可能性が出てくると考えました。(重要なのは、g7 を崩せば少なくともパペチュアルチェックにはなるため、白は負けないであろうということです。)そして、42手目でキングが3段目に上がったのは、このfポーン突きの際に、横からルークで攻撃されないようにするためです。

43... Rxa2 44. f4 Rf2?


もっとレイティングが高いプレーヤーでも、間違えてなんら不思議はない、難解なクリティカルポジションです。私自身も、黒が後ろからfポーンを止め、 f4-f5 を突かせないようにするのが自然な一手だと、試合が終わるまで思いこんでいました。

代わりに44... Kh7! 45. f5 Rg5 46. f6 Rf2!(このタイミングでルークをfファイルに回すのが正しいディフェンス!狙いは、次にRf2-Rf3 からパペチュアルチェックのスレットを作ると同時に、fxg7,g8=Q+,Re8+ に対して、ルークをf8 に退いてメイトを防ぐことです。) 47. Rxg7+ Rxg7 48. Rxg7+ Kh8 49. Rc7 Rxf6 50. Rxc5= こうなれば、間違いなくドローです。Ra2-Rf2 がキームーブでありながら、そのタイミングがポイントでした。それでは本譜はなにがまずいでしょうか。

45. Re8+! Kh7 46. Raa8!+/-



Houdini も一瞬理解していませんが、ルークを7段目から8段目に切り替え、黒キングにメイトの網をかけていぶり出すことが、白が勝ちになる唯一のアイディアです。

46... Rb6 47. e4!


これで次にf4-f5 が蘇り、次にh8 でのメイト受けなしとなります。黒はこれに対し、何らかのディフェンスを考えなければなりませんが、時すでに遅しです。

47... Kg6


47... h5 48. f5 g6 Kh6 49. Re6+!+- というのは、検討でGupta が示したラインです。Bravo!

48. Re7!



黒キングが6段目に上がってきたところで、再びルークを8段目から7段目に戻し、もう一度g7 を狙います。ここで重要な働きをするのが、e4とf4 に並んだ2つのポーンで、これらが5段目に黒キングが逃げることを許しません。

48... Kf6 49. Raa7 g6 50. Rf7+! Ke6 51. Rg7!


今度はルークを7段目で振りながら、6段目と7段目でのメイト(おまけでb6 にいるルーク)を狙います。いよいよフィニッシュが近づいてきました。

51... Kf6 52. Rae7!



続いて、eファイルとgファイルにルークを置いて、完全に黒キングの逃げ場を断ちます。3R でGroszpeter に作られた以上に、完璧な「牢獄」が出来上がりました。

52... g5 53. Rgf7+ Kg6 54. f5+ Kh5 55. g4# 1-0



最後は珍しい、ポーンでのチェックメイト!白キングもこっそり手助けをしています。黒のミスにも助けられましたが、これで貴重な3勝目を挙げ、2つ目のIM ノームが目前に迫りました。最後の2試合で、Ilincic とCsonka 相手に連続ドローで、IM ノーム獲得となります。最後まで気を緩めずに、試合を続けたいと思います!


1ユーロで買った爪切りは、数時間後に大破。なぜ安物買いの銭失い癖が治らないのか...


試合後は連勝祝いにピザを食べに来ました!久々の贅沢です。

2012/12/21

CAISSA GM December 7th round - Beating A GM -


GM Zlatko Ilincic, First Saturday HP より

CAISSA GM の7日目は、セルビアのGM Ilincic との対戦です。ブダペストとケチケメートのGM トーナメントには、しばしば顔を出す常連GMで、私は以前、ハンガリーのGM なのかとすら思っていました。

Ilincic, Z (GM, SRB, 2443) - Kojima, S (FM, JPN, 2340)
Caissa GM December (7)

1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nf3 Nf6 4. e3 g6 5. Nc3 Bg7 6. b4!?



オープニングは最近凝っているg6 Slavです。白はキングサイドのピースの展開を完了させる前に、クイーンサイドでスペースを取る、珍しい作戦を選んできました。

6... O-O 7. a4 Bg4!


これがベストなアイディアだと信じています。黒はc3 のナイトが浮いていることを利用し、早い展開で勝負します。

8. Qb3!?



白はポーンストラクチャーを乱してでも、ピンを外そうとします。代わりに自然に見える8. h3 Bxf3 9. Qxf3 には、9... e5! 10. dxe5 Nfd7!=/+ があり、すでに黒が満足な流れとなります。

8... Bxf3 9. gxf3 e6 10. Ba3 Nbd7 11. f4 Re8 12. Bd3 Ng4!


f6 のナイトは特に働きがないため、Ng4-Nh6-Nf5 とチャンスがあれば組み変えます。このマヌーバリングが、以前a6 Salv の勉強をしていた際に、同じポーンストラクチャーで見つけたものです。もちろん、ここでは白のキングがセンターに留まったままなので、f2、e3 を攻撃する狙いも追加されます。

13. h4 h5!



これが私が7... Bg4 を指した時点で思い描いていた黒の理想の形で、白はQd8-Qh4 を防いだ代わりに、h4 のポーンを弱めています。そこで、黒はこれを取りにいって勝負です!

14. Ke2 Bf6 15. Rag1 Bxh4 16. Qb1 Nf8!?


白は1ポーンを捨てた代償として、黒キングへのダイレクトアタックのチャンスを作っており、それに対してナイトを退いてg6 を守ります。コンピュータが提案する16... Qf6 とも迷いましたが、黒マスビショップが退けなくなることを危惧して、本譜をチョイスしました。

17. Rg2 Bf6 18. b5 Bg7 19. Nd1 dxc4!?



白はやや消極的ですが、ナイトを退いてe3 を守ることで、f2-f3 から黒のナイトを追い返せるようにしました。この直前までは、Qd8-Qd7、Ra8-Rd8 とd4 にプレッシャーをかけることで対抗しようと考えていましたが、ここに来てf8 のナイトを戦場に戻すプランに切り替えます。

20. Bxc4 Nd7 21. Bd3 Ndf6 22. f3 Nh6 23. e4?



時間切迫によるブランダー。私は慎重に読みつつも、白の危険なスレットはないと判断して、ポーンをいただくことにします。代わりに23. Bxg6! fxg6 24. Qxg6 Nf5 25. Nc3! ならば、ピースの代償あり(1ポーンピースなのに!)というのが、コンピュータの示したラインです。私は24... Nf5 で守りきれると読んでいましたが、黒から面倒なgファイルのプレッシャーを、緩和する方法がないのは盲点でした。

23... Qxd4! 24. Bb2 Qxa4 25. Nc3 Qb3 26. Bc2 Qc4+ 27. Bd3 Qb3 28. Bc2 Qc4+


この時点でIlincic は3回同一局面だと指摘してきましたが、私はまだ2回だと、これを撥ね退け勝負にいきます。3ポーンアップなので、黒としては当然の判断でしょう。

29. Bd3 Qb4 30. Na2 Qb3 31. Nc1 Qb4 32. Na2 Qb3 33. Nc1 Qa4



同じ手を繰り返したのは、手数を稼いで40手を迎えるためです。そしてここから再び、ゲームが動きます。

34. Bxf6 Bxf6 35. Rxh5 Bg7


35... Nf5! (このアイディアはナイトがh6 に退いた直後から頭にありましたが、この時点ですでに指してOK でした。)36. exf5 exf5+ 37. Kf2 Qxf4-+

36. Rh1 Rad8 37. Rgh2 Nf5!-+



h5 を取られた時点で、白がルークをhファイルに重ねてくることは読めていたので、いよいよこの手の登場です。白はこのナイトに活躍を許しても、このナイトを取っても、センターに残ったキングが大きな負担となります。

38. exf5 exf5+ 39. Kf2 Qxf4 40. Rh4?


40. bxc6 Qd2+ 41. Be2 bxc6-+ でも黒勝勢ですが、本譜ほど分かりやすくはないでしょう。

40... Bd4+ 41. Kg2 Qg5+ 42. Kh3 Bf2 0-1



最後はキングを端に追い詰めて、チェックメイトとルーク取りのダブルスレットで勝負ありです。自画自賛ですが、良いファイティングゲームだったと思います!

日本人で、GM に公式戦で勝ったことのあるプレーヤーは意外と少なく、両手の指で数え切れるぐらいでしょう。今年はオリンピアードで、南條くんがポルトガルのGM に完勝したのが印象的でしたが、彼でもそれが初勝利でした。他には羽生さんがPeter Wells に勝ったゲームは、雑誌などにも取り上げられ、非常に有名でしょう。

私にとっては、Wong Meng Kong、Al-Modiakhi、Rowson、Bakre に次いで、5回目の対GM 戦勝利で、前回の勝ちからすでに、3年半も経っています。思えばFM になってからは、初めてGM に勝ったんですね... ちょっと感慨深いです。今回の勝利で実感したことですが、GM というは、ちょっとチェスの強い普通の人間であり(ちょっとじゃなく強いGM もたくさんいますがw)、決して勝つことのできない超人ではありません。しっかりとチェスの勉強を続けていれば、勝つチャンスはいつか訪れます。それは、これから日本でチェスを始める若者の誰しもが、将来的に私に勝つチャンスがあるということでもあります。

アメリカなどでは2200台の若者が、非常に激しいファイティングゲームをして、GM を倒すこともしばしばあるそうなので(Shabalov は下によく負けると、以前誰かに聞きましたw)、私も今後一層頑張らないといけません。まずは今日のGupta とのゲームを制し、2つ目のIM ノームを手中に収めるのが、直近の目標ですね。初のGM トーナメントも、残るところあと3試合です!


今朝はやけに寒いと思ったら...


5月から正体不明だったこいつは、暖房器具でした。助けられています。

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