2012/07/31

帰国予定に関して


函館チェスサークルHPより

今日はちょっとしたお知らせです。Behind The Scene で先日公開された通り、9月に予定されていたGM Anish Giri の来日イベントは、残念ながら中止となってしまいました。Anish は今月にオランダチャンピオンを防衛し、現在はスイスのBiel トーナメントにて活躍中の、超ビッグネームです。彼の来日を心待ちにしていた日本のチェスファンにとっては、ショックが大きいでしょう。私も5月の後半に彼が来日したいと考えている旨を聞き、イベント企画に助力してきただけに、とても残念な気持ちです。

そして、このイベントが中止になったことで、私が9月に日本に帰らなければいけない理由もなくなってしまいました。そこで、まだ検討中なのですが、オリンピアード後すぐに帰国する予定を、少し延ばそうかと考えています。IM が取れれば帰国、そして取れない場合は最長で来年の3月頃までの滞在ですかね。5月の送別会では冗談交じりに(本気だったかもしれませんが・・・)IM になるまで帰ってこなくて良いと友人たちにも言われましたが、この調子では一つ目のノームも手が届かなそうなので、もう少し本腰を入れてノーム獲得のプランを練ろうと思います。

ハンガリーに予定以上に滞在するとなると、いくつかクリアしなければいけない問題があるので、現在はそれの検討と解決に当たっています。私が9月に帰ってこないと困る!という方も、どういった形式でも構わないので、私にメッセージを下さい。出来る限り対応させていただきます。それでは、引き続き応援のほど、よろしくお願い致します。

2012/07/30

CAISSA 2012 July final round - Piece vs. Three Pawns -

昨晩、ケチケメートからブダペストに戻りました。気合を入れて臨んだSarosi とのCAISSA 最終戦は、なんとか勝ちを目指して奮闘しましたが、結果には結びつきませんでした。

Kojima, S (FM, JPN, 2290) - Sarosi, Z (IM, HUN, 2266) -
CAISSA 2012 July IM (10)

1. Nf3 Nf6 2. c4 e6 3. Nc3 d5 4. d4 Be7 5. Bf4 O-O 6. e3 b6


まさか2日続けて同じオープニングとは・・・Ragozin をメインで考えていただけに、意外なチョイスでした。

7. Rc1 Bb7 8. cxd5 exd5



ここで前日とは違った展開になります。黒はc、dファイルにポーンを残し、厚いポーンの壁を築こうとします。個人的には、こういったポーンストラクチャーのほうが慣れておらず、苦手だと自覚しています。

9. Bd3 c5 10. O-O Na6!?


このようにナイトを組んでくるとは意外でした。もちろん悪い手ではないですが、こうすると黒はe5 のコントロールが弱くなるので、そこを中心に白はピースを組んでいこうと画策します。

11. Ne5 Nc7 12. Bg3 Ne6 13. Bb1 Rc8 14. Qa4?!



12手目からの流れをどうするべきか、多少時間を使ったのですが、あまりうまく考えがまとまりませんでした。14.Qa4 と指した当初は、Qa4-dxc5-Qh4 というマヌーバリングがあるだろうと思っていましたが、h4 にいったクイーンは意外に行く場所が少なく、トラップに陥る危険性があると、指した後で思いました。本譜の代わりに14. dxc5 bxc5 15. Qa4!? ならば、c5 にナイトが来ることがないので、ベターだったかもしれません。

14... a6 15. Bf5!?


13手目の時点でこう指そうかとも思いましたが、黒の13... Rc8 を見るまで保留しました。

15... b5 16. Qd1 b4



Sarosi は試合後に、この手を悔やんでいました。確かに、Ne2-Nf4 のマヌーバリング素早くできるのは、白にとっての助けになります。

17. Ne2 g6 18. Bh3 Ne4


17... g6 の時点でこのディフェンスは予期していましたが、これは白にチャンスが来そうです。持ち時間にだいぶ差があったので、早めの決断でピースを交換し、相手キングへのアタックをしかけることにしました。

19. Nf4 N4g5 20. Bxe6 Nxe6 21. Nxe6 fxe6 22. Qg4+/=



ビショップナイトの交換にはなりましたが、白の2つのマイナーピースは非常に位置が良く、なにより黒の薄くなったキングにクイーンが迫っています。まずはシンプルに、e6、g6 にプレッシャーをかけます。

22... Rf5 23. Nxg6! hxg6 24. Qxg6+ Kf8 25. Qxe6


ここはアタックが続くと考え、まずは駒数を3ポーンピースにすることを優先しました。もう一つの候補手であるビショップでの攻めも、もちろん効果的です。25. Bf4 Rf7 (25... Rxf4 26. exf4!?+/=) 26. Bh6+ Ke8 27. Qg8+ Bf8 28. Bxf8 Rxf8 29. Qxe6+ Qe7 30. Qxe7+ Kxe7 31. Rxc5 Rxc5 32. dxc5+/= この4ポーンピースは疑いようなく、白にチャンスがあるでしょう。

25... Rf6 26. Qh3



22. Qg4 の時点でイメージしていた通りのポジションになりました。ところが、ここから構想が少しおかしく、怪しい展開を招いてしまいます。

26... Qb6 27. Be5?!


白の最大の問題は、f1 のルークが働いていないことです。そのため、攻めを急ぐのではなく、その使えていないピースの活用を優先すべきでした。27. dxc5! Rxc5 28. Rxc5 Bxc5 29. Rc1+/=

27... Rh6 28. Qf5+ Kg8?!


これは直感的に変だと感じました。一般的には、e8 よりもg8 のほうが安全に見えますが、ここでは黒マスビショップはe5-h8 のダイアゴナルを抑えているので、g8 は危ないマスに見えます。28... Ke8=

29. Qd7?!



このクイーンが跳び込む手はだいぶ前から構想にあったので、つい黒の応手を全て洗い出さずに指してしまいました。考えてみれば、5R のFarkas とのゲームでも、同様のミスで敗れています。

29... Re6!


オンリームーブです。次にクイーンをぶつけて白の攻めを止めれば、黒は当面の危機を回避でき、エンドゲームに持ち込むことができます。ところが、私はそれでもまだ白にチャンスがあるだろうと勘違いをしていました。

30. Rxc5 Rxc5 31. dxc5 Qc6 32. Qxc6 Rxc6 33. Bd4?



このポジションで、私の残り時間は8分ほどだった記憶しています。c5 のポーンを返して3ポーンピースにするのは仕方がないことですが、このビショップを当てる手は何も働きません。33. Rc1 Bxc5 (33... Rxc5 34. Rxc5 Bxc5 35. g4) 34. g4 こちらのエンドゲームは本譜と違い、まだ白にもチャンスがあると思います。

33... Bxc5 34. Rc1 Bd6!


29... Re6 の時点で、黒はこのビショップを交換してくるだろうと考えていたことが、私の最大の勘違いでした。もちろん、黒はそんなことをするはずがありません。34... Bxd4? 35. Rxc6 Bxc6 36. exd4+/- 黒マスビショップを交換すると、白はa2 のポーンを脅かされる心配がなくなり(a2-a3 と突けるため)、3ポーンピースを維持したまま、エンドゲームに突入することができます。そうなれば、黒のビショップよりも、白の3コネクテッドパスポーンのほうが脅威であることは明らかです。

35. Rxc6 Bxc6-+



この時点ではコンピュータの評価は黒やや優勢(=/+)ですが、あえて私は勝勢の記号をつけます。白にはa2 のポーンを救う術がなく、黒がクイーンサイドのパスポーンを作ることを許してしまいます。

36. g4 Bb5 37. Kg2 Bc4 38. h4 Bxa2


クイーンサイドでポーンを多くした黒は、手数は掛かりますが、ここから順当に勝利を収めます。白にはカウンターのチャンスがありません。

39. h5 Kh7 40. g5 Bb1 41. f4 b3 42. Kf3 Bf5 43. g6+ Kh6 44. g7 Kh7 45. Bc3 Bc7 46. Bf6 Ba5 47. Kg3 Be1+ 48. Kf3 a5 49. h6 Kg8 50. Be7 Kf7 51. Ke2 Bc3 52. Ba3 Bf6 53. Kd2 Bh7 54. Kc1 Kg6 55. Bf8 Kf5 56. Bc5 Ke4 57. Bb6 a4 58. Bc5 Kd3 59. Kb1 Kc4+ 0-1


22.Qg4 以降、間違いなく白にチャンスがあると思っていただけに、こういった結果になってしまい、残念です。これでFirst Saturday に続き、CAISSA もイーブンの戦績で終了しました。6、7月はなかなか良い結果を出せていませんが、オリンピアード直前となる8月こそ、勉強の成果を発揮し、なんとか挽回したいと思います。

2012/07/29

CAISSA 2012 July 9th round - Smash Opponent King -

7月のCAISSA も終盤の9R を迎えました。今月3回目、白では初めての対戦となるZhu Yanshen との試合は、思惑とは正反対に、相手キングに猛攻を仕掛けるすさまじいゲーム展開になりました。

Kojima, S (FM, JPN, 2290) - Zhu, Y (CHN, 2176)
CAISSA 2012 July IM (9)

1. d4 d5 2. c4 e6 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 Be7 5. Bf4!?



Dresden Olympiad でGM Baburin に敗れて以来、封印し続けてきたQGD Bf4 Variation をここで使います。2008年には私のメインレパートリーでしたが、不幸なことに出番はほとんどありませんでした。

5... O-O 6. e3 b6!?


私の記憶が正しければ、Zhu Yanshen はSarosi との試合で、6...c6、もしくは6...Nbd7 と指しており、私の準備もそちらのみでした。6...b6 のゲームはPelletier のゲームを一つ見ただけです。

7. Rc1 Bb7 8. cxd5 Nxd5 9. Nxd5 Qxd5



cファイルが開く展開は白に好ましいかと思っていましたが、黒は早々にクイーンをアクティブに使ってきます。

10. a3 c5 11. Bc4 Qh5 12. Be2 Qg6 13. O-O


変な形にならないことを心がけてここまで指しましたが、どうやら実戦でも例があるようです。次の手はナイトをどちらに出すかと待っていましたが、予想外の一手が来ます。

13... cxd4?



一目見て、ルークのダブルアタックにどう対応してくるのか分かりませんでした。しばらく考えても分からないので、実際に指してみることに。

14. Rc7! Be4


なるほど。これならば次のd4-d3 がビショップ取りのスレットになるので、黒は難を逃れているように見えます。

15. Rxe7


色々迷いましたが、異色ビショップにしても、7段目のルークで多少チャンスを作れるだろうと思いました。

15... d3 16. Bxd3 Bxd3 17. Re1?!



この手が緩手でした。ゲーム中と検討では全く気がつきませんでしたが、試合後にコンピュータで解析を行ったところ、思いがけない変化が出てきました。

17. Ne5! (私も試合中、当然のように考えましたが、e7 の浮いたルークをどうすれば良いのかが分かりませんでした。) 17... Qf6 18. Rxf7! (これがポイントとなるエクスチェンジサクリファイスです。)18... Rxf7 19. Qxd3 Rf8


Analysis Diagram

こうして見ると、確かに白のピースはセンターを支配しており、クイーンサイドのピースが展開できない黒は苦しそうに見えます。エクスチェンジの代償は十分にありそうです。20. Qe4 Na6 21. Qc4 Nb8 22. Rd1+/-

17... Be4 18. Bg3!?


g2 をサポートして、ナイトを動かせるようにしたつもりでしたが、次の手を見落としていました。

18... Qf6


7段目に入ったルークが狙われ、f3、b2 もアタックされています。少し混乱しましたが、冷静に対処できました。

19. Qd6!? Bxf3 20. gxf3 Na6


彼はポーンを取る前に、ピースの展開を完了させました。しかし、a6 のナイトは良い位置とは言えず、白から抑え込むことができます。

21. Be5!? Qxf3 22. b4!



白はf3 のポーンを犠牲にすることで、bポーンを進める1テンポを稼ぎ、a6 のナイトの行き場を奪うことに成功しました。7段目のルークと、ナイトよりも明らかに強力なビショップの働きにより、1ポーンの代償はあると考えていました。

22... Qg4+ 23. Bg3 Qc4 24. Rd1!


黒はクイーンだけでは局面を進展させられませんが、a7 とf7 がアタックされている以上、ポーンを返さずに、新たなピースを持ってくることは簡単ではありません。黒がクイーンで手を作ろうとする間、白はシンプルにオープンファイルを取り、ルークの活用を図ります。

24... h6


この手を見て、おやっ?と思いました。バックランクを外すのは自然なアイディアですが、逆にキング前のディフェンスを緩めてしまいます。私は当初、25.Qd3!? と安全にクイーンをぶつけるつもりでしたが、面白いアタックを思い付き、そちらを試してみることにしました。

25. Rd4!?



ルークを4段目に振り、黒キングにダイレクトアタックを仕掛けます。a3 のポーンはさほど重要な役割を果たしているわけではなく、捨てても問題ないと判断しました。

25... Qc1+ 26. Kg2 Qxa3


彼にしては珍しく、時間を使ってポーンを取る決断をしました。私は25.Rd4 の時点で、この変化は早々に勝てるだろうと楽観視していましたが、白が正着を見つけるのはそんなに簡単ではありません。

27. Rg4 Qb3?



試合直後は分かりませんでしたが、どうもこれが敗着であるというのが、コンピュータの指摘です。とは言え、かなり強力なエンジンでも本譜通りに進めてみないと、白勝勢にはなりませんでした。

本譜の代わりに27... Qa2 28. e4!? Qe2! (この手でルークをアタックできるのが、本譜との最大の違いです。) 29. Qxe6!? Qf3+! 30. Kxf3 fxe6+ 31. Kg2+/= ならば、確かに白の攻めは決定的ではありません。

28. e4!


黒の狙いである28...Qd5+ を消すことで、クイーンを盤上にキープし、ダイレクトアタックのチャンスを残します。28. Rxg7+ Kxg7 29. Qd4+ Kg6 30. Qg4+ Kh7 31. Qe4+= ならばドローですが、ここはそれ以上を求めるべきポジションです。

28... g5 29. Qd4!+-



残り時間20分を切るまで考え、この手でエクスチェンジアップすることを読み切りました。しかし、試合中は気付きませんでしたが、もう一つ別の勝ち筋もあったようです。

29. Qe5?? f6-+ これでは白の攻めが完全に止まり、大失敗です。
29. Rxg5+! hxg5 30. Qd2 Kh7 31. Qxg5+- いきなりルークを捨てるのがもう一つの正解で、こちらのダイレクトアタックも決定的です。

29... e5


ここは予想通りの手でした。すでに黒には他に良い受けがありません。

29... Nxb4 30. Qf6 Nd3 31. Qxh6+-
29... Rfe8 30. Qf6 Rxe7 31. Be5+-


30. Qxe5 f6 31. Qf5 Rf7 32. Qg6+ Kf8 33. Bd6!



この手が勝ちを決める、最も重要な一手です。すぐにルークを交換してしまっては、クイーンがディフェンスに戻ってきてしまいます。

33... Rxe7 34. Qxf6+ Kg8


34... Qf7 35. Bxe7+ Ke8 36. Qc6+ Kxe7 37. Qxa8+- このエクスチェンジアップは、白にとって楽勝です。

35. Bxe7 Kh7 36. Qf5+ 1-0


最後は、36. Qf5+ Kg7 37. Bxg5 からメイトになります。1ポーンが落ちた時はどうなる事かと思いましたが、どうすれば代償が十分かをしっかりと考えることができ、実にうまく指せたと自画自賛のゲームです。


また、注目の最終戦、Zhu Yanshen - Xu Yi は、白のブランダーであっさりと決着です。 これでZhu Yanshen は1勝8敗1ドロー、Xu Yi は5勝5ドローでのフィニッシュとなりました。Xu Yi は2つ目のIM ノーム獲得です。おめでとう!


そして昨日の試合後には、Xu Yi の母親とGupta の母親から、それぞれプレゼントを貰いました。Xu Yi ママからは、左の吊るす飾りを、Gupta ママからは右のインド菓子を貰いました。対戦し、交流した相手から(相手の身内から)こういった贈り物をされるのは、大変嬉しいことです。彼らのように、同じノームという目標を目指して切磋琢磨したライバルたちのことは、10年経っても忘れないでしょう。Xu Yi はまだハンガリーに残るでしょうが、Gupta は今日、インドに帰国するそうなので、今度はアジアのトーナメントで会えることを期待しています!

それではこれから、Sarosi との最終戦です。久々にレイティングを+ にして、トーナメントを終えられるよう、何とか勝利をもぎ取りたいと思います。

2012/07/28

CAISSA 2012 July 7th and 8th round - Consecutive Draws -

7、8R は連続ドローです。これで長かった5連続黒を乗り切りました。残りの2試合、連続白に勝負を託します。

Xu, Y (CM, CHN, 2165) - Kojima, S (FM, JPN, 2290)
CAISSA 2012 July IM (7)

1. e4 e6 2. d3 d5 3. Nd2 Nf6 4. Ngf3 b6!?



KIA 対策には非常に多くのラインがありますが、今回はAntic の勧めであるこの手を試してみます。アイディアは前回指した、4...Nc6 と似ています。

5. g3 dxe4 6. dxe4 Bb7 7. Qe2 Nc6 8. c3


8.Bg2? Nb4! ならば、すでに白は困っています。

8... a5


First Saturday の最終戦と同様、a6 にビショップを運ぶ準備をします。f1-a6 のダイアゴナルをどう抑えるか、ここで白は考える必要があります。

9. Nc4!?



この手は私の研究から外れるものでしたが、本で進められていた手よりもベターである気がします。9.Bg2 Ba6 10.Nc4 e5 11.0-0 Bc5 12.Nh4 0-0 が私の準備でした。

9... Bc5


c6 のナイトが浮くことを嫌い、Bb7-Ba6 を保留します。本譜のこの後の流れが嫌であるならば、9... h6!? 10. Bg2 Bc5 11. O-O O-O= もあったかと思います。

10. Bg5 h6 11. Rd1 Qe7 12. Bxf6 Qxf6 13. Bg2 O-O



ここは白にe4-e5 を突かすことを許すべきかどうか、かなり悩みました。13... e5!? 14. O-O Ba6 15. Rd5 O-O 16. b3 Ne7 17. Rxe5 Nc6 18. Rd5 Qxc3= という変化も面白いでしょう。

14. O-O Rad8 15. e5 Qe7


黒はダブルビショップを得ましたが、白にはスペースがあり、e4 のマスを活用したピースのマヌーバリングが考えられます。局面評価はイコールと言ったところでしょう。

16. Nfd2!



当然の一手です。ビショップのダイアゴナルを開きつつ、ナイトを組み変えます。

16... Rd7


この後の展開を考えれば、Nd2-Nb3 とa2-a4 の両方を防ぐ、16... a4!? もありでした。

17. Be4 Rfd8 18. a4!?


この単純な手を見落としていました。黒のb6-b5 を止めておくことでc4 のナイトを安定させ、Qe2-Qf3 からc6 のナイトを狙います。h1-a8 のダイアゴナル上にある、2つのマイナーピースをどう守るかが黒の課題となります。

18... Qg5



e5 をアタックすることで、すぐに19.Qf3 と指されるのを防ぎます。黒が早々に勝負にいくならば、思い切ってエクスチェンジを捨てるというアイディアも、検討では出ました。

18... Rd5!? 19. Bxd5 (もちろん白は、すぐに取らなくてもOK です。) 19... exd5 20. Ne3 Qxe5


Analysis Diagram

黒がh1-a8 のダイアゴナルを開ければ明らかに良さそうですが、白は当然、d4 をブロックするでしょう。それでも、エクスチェンジの代償はありそうです。

19. Bg2


私はもし白が19.Kg2 と上がるようであれば、Rd7-Rd5 からのエクスチェンジサクリファイスの出番だと、試合中考えていました。

19... Qe7 20. Be4 Qg5 21. Bg2 Qe7 22. Be4 1/2-1/2


最後は、お互い進展なくドロー。次の対戦では何を指すか、また考えようと思います。


少し情けない話ですが、Xu Yi に今大会は負けなかったことで一安心です。昨晩はデザートまで付けて、少し食べ過ぎてしまいました。実際に目撃すると分かりますが、Xu Yi のプレーは非常にパワフルで、私でも見つけられない手を実戦でバシバシと指します。もし来月にでも3つのノームを達成するようであれば、思い切ってインタビューを申し込んでみようかとさえ思います。

続いて、今日の午前に行われたSarosi 戦です。


Sarosi, Z (IM, HUN, 2266) - Kojima, S (FM, JPN, 2290)
CAISSA 2012 July IM (8)

1. d4 Nf6 2. c4 e6 3. Nf3 d5 4. Nc3 Bb4 5. cxd5 exd5 6. Bg5 h6 7. Bxf6 Qxf6 8. Rc1!?



QGD Ragozin の少し珍しい変化になりました。白が素早くcファイルをサポートすると、黒はc7-c5 と突くプランを諦めて、QGD Exchange のポーンストラクチャーにせざるをえなくなります。

8... c6 9. a3 Bxc3+ 10. Rxc3 O-O 11. e3


このポジションが黒のプランの分かれ目になりそうです。遅れているクイーンサイドのピースをどう配置するかがポイントです。

11... Bf5



黒の主張するポイントは、e4 のマスです。ここに将来的にナイトを置くことができれば、クイーンサイドもサポートしつつ、キングにプレッシャーをかけることができます。また、Ne4-Nd6 と退いて、ナイトをキープしながら柔軟に使える位置でもあります。私はシンプルに、そのe4 のマスをサポートできるようにビショップの位置を決めました。

11... Bg4 (このアイディアもあったようで、黒は駒を交換して局面を単純化します。) 12. Be2 Nd7 13. O-O Rae8 14. Ne5 Bxe2 15. Nxd7 Qd6 16. Qxe2 Qxd7 1/2-1/2 Taimanov,M-Smyslov,V/ Dortmund 1961

12. Qb3 Qe7


もともと、このクイーンはナイトのためにf6 のマスを明け渡すつもりだったので、f6 から動かすことには抵抗がありませんが、b7 がアタックされているので、b8 のナイトの展開に一工夫必要になります。

13. Be2 1/2-1/2



勝負はここからというところで、相手からドローオファー。続けるとすれば、13. Be2 Rc8 14. O-O Rc7 15. Ne5 Nd7 16. Nxd7 Rxd7= ぐらいだと読みましたが、あまり黒に面白みのなさそうなポジションですし、午後も試合があるのでオファーを受けました。

さて、昨日私がXu Yi とドローになったので、彼はIM ノーム獲得のためには、あと2試合で1勝1ドローである必要があります。今日のSarosi 戦は黒ですが、勝負にいくのか、それとも明日のZhu Yansen 戦を勝ちにいくのか、午後はそこをチェックしたいと思います。私の午後のラウンドはZhu Yansen なので、こちらは是非とも勝ちたちところです。

2012/07/27

CAISSA 2012 July 6th round - Quick Victory -

後半戦の初戦はFirst Saturday で敗れた、中国のZhu Yansen との再戦です。彼はとても指すのが早いので(持ち時間を増やして試合を終わらせることもあります!)、それに引きずられないように心掛けるつもりでしたが、その心配もないほどあっさりとゲームは決着を迎えました。

Zhu, Y (CHN, 2175) - Kojima, S (FM, JPN, 2290)
CAISSA 2012 July IM (9)

1. e4 e6 2. d4 d5 3. exd5 exd5 4. Bd3


前回の対戦では4.c4 でしたが、ここで早くも手を変えてきました。もちろん、こちらのラインもしっかり勉強済みです。

4... Nc6 5. c3 Bd6 6. Nf3 Nge7 7. h3



この手は黒のポピュラーなセットアップである、Bg4-Qd7-0-0-0 を防ぐ狙いがありますが、その代わりにg3 のマスを弱めてしまいす。つまり、黒の強力な黒マスビショップを交換する狙いの、Bg5-Bh4-Bg3 が指せなくなってしまいます。

7... Bf5!


French Exchange の代表的な白のデメリットは、黒の白マスビショップをすぐに使いやすくしてしまうことです。ここはビショップをぶつけて、白の働いているピースを消しにいきます。

8. Bg5?!


この手は少し考えましたが、やはり不自然だと感じます。上記の通り、Bg5-Bh4-Bg3 のマヌーバリングができないので、ここにビショップを出す意味をあまり感じません。

8... f6!



少し考えた後、この手を指すことにしました。e6、g6 を弱めることは全く問題ではなく、e5 のマスを抑えるメリットのほうが遥かに大きいと判断できます。(例えば、白がNf3-Ne5 と指せなくなります。)

9. Be3 Qd7 10. Be2 O-O-O


白が量ビショップを2回ずつ動かしたのに対して、黒は素早く理想的なピースの展開を終えました。すでに黒がやや指しやすいと思います。

11. Nbd2 g5!


この試合で、一番時間を使ったポジションです。このFrench Exchange のラインでは、白はキングサイドキャスリングをするのが一般的ですが、ここではh3 が弱点になっているため、白はそうすることができません。さらに追い打ちとして、g5-g4 を見せておくことで、白のキングサイドキャスリングのチャンスを完全に消します。また、f4 のマスを抑えることで、将来的なNg6-Nf4 をサポートする意味も、11...g5 には含まれています。

しかしかといって、b1-h7 のダイアゴナルは白マスビショップに抑えられているため、クイーンサイドキャスリングも危ない状況です。この局面での白の一番の課題は、キングのポジションであり、それを解決するうまいプランがありません。

12. Qa4 Kb8 13. b4??



彼は、自身にチャンスが来れば非常にタクティクスの強いプレーヤーですが、細かいところで荒いプレーがあり、そこがもう一人のXu Yi との実力差になっていると思います。白の13手目はひどいブランダーで、このようなポジションでは最も気をつけなくてはいけないタクティクスを、自ら招いてしまいます。

13... Nxd4!


ポピュラーなタクティクスです。直前にキング避けたことにより、クイーン交換の際にチェックがかからなくなり、このディスカバードアタックが成立します。コンピュータは13... Nxb4 推しですが、私はe3 のビショップを取った際にd4 にポーンがないほうが、白のポーンストラクチャーが悪くなると判断しました。

14. b5 Nc2+ 15. Kd1 Nc8!?


すでに1ポーンアップですが、白はそれ以上に厳しいポジションです。ここではビショップをすぐに取らなくてはいけない理由がないので、先にa7 を守り、ルークへのアタックを残しておきます。

16. Rc1 Nxe3+ 17. fxe3 Nb6-+



マテリアル、ピースのポジション、キングの安全性、ポーンストラクチャーの全てにおいて、白は厳しい状況です。

18. Qb3


クイーンがa3 を抑えない位置に移動すれば、18...Ba3! から、さらにエクスチェンジアップになります。

18... Rhe8 19. Nf1 Nc4 20. Nd4 Ka8!?



白の頼みの綱である21.Nc6+ を消して、完全にゲームオーバーです。

21. Bxc4 dxc4 22. Qxc4 Ba3 23. Nd2 Bxc1 24. Kxc1 Rxe3 25. N2b3 Be6 26. Nxe6 Qxe6 27. Qxc7 Rc8 28. Qxh7 Rcxc3+ 29. Kd1


キングは逆側に逃げても助かりません。29. Kb2 Rxb3+! 30. axb3 Qxb3+ 31. Kc1 Rc3+ 32. Kd2 Qb2+ 33. Kd1 Rc1#

29... Red3+ 0-1



最後はクイーンを捨てなければ、すぐにメイトになります。29... Red3+ 30. Nd2 Rxd2+ 31. Kxd2 Qe3+ 32. Kd1 Rc1#

前回の対戦では、頑張ってキングを逃がそうとしてメイトにされたので、完全にそれを払拭するような勝ち方でした。相手のブランダー以降、全くミスなく落ち着いて指せたと思います。この勝ちでなんとか星をタイに戻しました。


そして、今日はもう一人の中国ジュニア、Xu Yi との対戦です。ここまで4勝3ドローと好成績を収めており、あと1勝2ドローでIM ノームに手が届きます。残りの3戦、どこで勝負に来るかは分かりませんが、そう簡単に2つ目のノームを与えぬよう、タフなゲームにしようと思います。それでは他のプレーヤーの様子ももう少しだけ。


ウクライナのIM Kernazhitsky は、すでに3勝1敗6ドローで、トーナメントを終えています。


こちらはGMクラス。インドのGuptaはこのエンドゲームを勝ち、ここまで1勝3敗3ドローと健闘しています。


今大会唯一の女性、スロバキア代表のBorosova です。このポジションを見て、オープニングが分かる人はマニアかも。


そしてイスタンブールオリンピアードの前に、今日からロンドンオリンピックの開幕ですね。昼食をとろうと訪れたモールでは、開幕記念の旗が掲げられていました。ケチケメートの部屋にはテレビがないので、開会の様子などは残念ながら見ることができませんが、ネットで日本勢の結果をチェックしていこうと思います。私の知り合いがボクシングの代表、ゼミの後輩が競泳の代表なので、特にその2人のメダル獲得は、大いに期待しています。

2012/07/26

Break Time

今日から2日間は試合が午後スタートとなるので、解説を書けるのが1日遅れとなります。
その代わりと言っては何ですが、7月に日本で開催されたイベントについて、少しだけ振り返ろうと思います。

国際親善チェス大会


新潟で毎年開催されているこの大会は、今年で8回目を迎えました。
私は2009年と2011年の2回参加しており、今年も日本にいれば参加していたでしょう。
今年はアメリカから帰国したFM の上杉晋作君が優勝したようですが、2勝2ドローとかなり怪しげな戦績だった模様。
大学に入学してからはチェスをさぼり気味のようなので、少し活を入れないといけませんね。
それでも、新潟以外に函館、三重、名古屋等を遠征して回るのは立派なものです。
なかなか強豪と試合をする機会のない地方のプレーヤーたちも、さぞ喜んだのではないかと思います。

サマーオープン


こちらも晋作君が4勝2ドローで優勝したようですね。
塩見さんが初日全バイでなければ、もう少し優勝争いも、もつれたかもしれません。
ところで去年の優勝者は・・・どうしましたかね?


そして今月末には、東京でジュニア選手権が開催されます。
昨年のチャンピオンである建内、唐堂、酒井の3人が、今年も変わらず優勝候補でしょう。
彼らを日本ジュニア界トップの座から引きずり下ろすことのできる、ダークホースが現れることを期待しています。
晋作君はまだ日本にいるようであれば、検討の手伝いなどしてあげてください。


そして最後に、私の8月の予定をお知らせします。
8月前半は今までと同じく、ブダペストのFirst Saturday に参加することが決まっています。
日程はいつも通り、月の第一土曜である、8月4日からのスタートです。

そして8月後半は、同じブダペスト市内で開催される、別のIM トーナメントに参加します。
またケチケメートに来るプランも考えましたが、ブダペスト市内で試合ができるならば、
それに越したことはないと思い、少し迷いながらも、こちらをチョイスしました。
日程は8月18日~26日で、大会の終わった翌日27日に、フェリヘジ空港からイスタンブールへのフライトです。
少しハードなスケジュールですが、疲れを言い訳にせぬよう、試合に臨んでこようと思います。

2012/07/25

CAISSA 2012 July 5th round - Trapped Queen -

ちょうど前半戦の最後となる5R は、3R に白で完勝だったセルビアのIM Farkas と対戦です。是非、黒でも勝って2タテといきたいところですが、そう甘くはありませんでした。

Farkas, T (IM, SRB, 2256) - Kojima, S (FM, JPN, 2290)
CAISSA 2012 July IM (5)

1. c4 c6 2. d4 d5 3. cxd5 cxd5


Panov Botvinnik をメインで用意していましたが、まさかSlav Exchange でくるとは。後で聞いてみたところ、ドロー狙いだったそうです。

4. Nc3 Nf6 5. Nf3 Nc6 6. Bf4 a6!?



これまで私は公式戦では、6...Bf5 しか指したことがありませんでした。しかし、今日はアイディアを変え、黒で勝ちを狙いにいく6...a6 をチョイスします。

7. e3 Bg4 8. Be2 e6 9. O-O Be7 10. h3 Bxf3!


これが黒としては正しい決断です。対照的なポーンストラクチャーで、単純に駒交換が進めばDrawish なポジションになるため、ここでナイトビショップの交換を行います。

11. Bxf3 O-O 12. Rc1 Rc8 13. Na4 Nd7 14. e4!?



ここで白から仕掛けます。このポーン突きは、白マスビショップをアクティブしますが、その代わりにd4 のポーンを弱めるため、一長一短でしょう。

14... dxe4 15. Bxe4 Nf6 16. Bxc6 Rxc6 17. Rxc6 bxc6



さて、このポジションをどう評価すれば良いでしょうか。白はダブルビショップを手放しましたが、その代わりに黒のクイーンサイドのポーンストラクチャーを乱しました。一方で黒は、c6 にポーンを置いたことでd5 のアウトポストを強化し、d4 のIQP を固定しています。もしc6、a6 をうまく守りながら、d4 へのプレッシャーをしっかりかけることができれば、満足な展開だと私は考えます。

18. Be5 h6!?


ここは何を指すか、かなり迷いました。18...Nd7、18...Nd5、18...Qd5 など、候補手はいくつも挙げられます。私は最終的に、大人しくバックランクメイトを外す一手を選び、白の出方を伺うことにしました。

19. Qe2 Qa5 20. b3 Nd7 21. Bf4 Qb5


この試合では、あくまで勝負にこだわるつもりでした。Farkas は試合後、21...Nf6 22.Be5 Nd7 でドローを考えていたと教えてくれました。

22. Qc2 Bf6 23. Be3 Rc8



ここも難しいポジションです。私はc6 を守りながら、d4 を攻撃する良い方法がないかを模索し続けました。(d4 とc6 の交換は、黒としては面白くありません。)そこで一時的にパッシヴであっても、ルークで後ろからcポーンを守り、ナイトをe7 まで手数をかけて移動するプランを考えました。

24. Rc1 Nf8 25. Qe4


白はルークの道を空けることで、c5 への侵入を狙います。これを無視してd4 へのアタックにこだわることが、勝つための正しい道筋だと私は考えたのですが、大きな勘違いがあり、すぐに不利なポジションに陥ります。

25... Ng6 26. Rc5 Qe2?



指した直後は、c6 を捨てても7段目と8段目からカウンターを狙うこの手は、素晴らしい一手なのではないかと思いました。c6 とa2 の交換を行い、d4 に弱点が残る展開は、黒としては願ったりかなったりです。ところがこれが大きなミスで、もう少し大人しく指さなければいけませんでした。

正しくは、26... Qb4! 27. Nc3 Qb7= と指すべきでした。白にナイトを退かせているのがポイントで、これによりNa4-Nc5 からのa6 アタックが消えます。これならば、黒はクイーンを下げてc6 を守りにいっても、後でd4 へのプレッシャーをかけ直せば、まだイコールのまま試合を進めることができました。

27. Qb1!


指されてからしばらく、自分が危機的な状況に陥っていると気が付きませんでした。7段目と8段目を守ると同時に、28.Nc3 とナイトを退く手が、なんとクイーントラップになります!黒はクイーンを下げるマスが一つもないうえに、それを作るうまい方法もありません。

27... a5 28. Rxa5 e5



aポーンを捨てただけでは、やはりナイトを退くクイーントラップのスレットが消えていません。黒は泣く泣く、d4 の弱点を攻め立てるアイディアも捨てざるをえません。1ポーンダウンのうえに、ポーンストラクチャーも悪い黒は、ずるずると敗北まで一直線です。

29. Nc3+- Qh5 30. Ne4 Bd8 31. Ng3 Qh4 32. Ra4 Qe7 33. Qf5 Rb8 34. dxe5 Nxe5 35. Re4 f6 36. Bd4 Bc7 37. Bxe5 fxe5 38. Qg6 Rf8 39. Qxc6 Qd8 40. Rg4 e4 41. Qxe4 Qd1+ 42. Nf1 h5 43. Rg5 1-0



昨日は完全に手抜きゲームだったために、今日こそはと思って試合に臨んだのですが、なかなかうまくいかないものですね。もちろん負けるのは技術が足りないからでしかないのですが・・・。1勝2敗2ドローの、1つ負け越しという戦績で前半を折り返すことになりましたが、あまり弱気にならずに後半も勝負しようと思います。


ケチケメートでの食事は、すっかりモールのGrill Station が馴染みになりました。次こそ勝って食事にしたいです。

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