2012/11/14

FS 2012 November 10th round - Endgame Technique -


ハンガリーで初めての三連勝がかかった10Rは、インドの11歳、Aryan Chopra との対戦。このIM クラスに来るのは少し早いかと思っていましたが、9Rまでで1勝1敗7ドローと実に立派な戦績です。レイティングをプラスにしてトーナメントを終えるためには、ここで勝っておかなければいけません。

Kojima, S (FM, JPN, 2339) - Aryan, C (IND, 2051)
First Saturday IM November (10)

1. Nf3 d5 2. d4 Nf6 3. c4 c6 4. e3!? e6 5. b3



この日は白番で久々に、4. e3 の変化を試します。彼のSemi-Slav の研究がどういったものか分からなかったため、自分の経験豊富なポジションで勝負することに決めました。しばらくは研究手順が続きます。

5... Nbd7 6. Bb2 Bd6 7. Bd3 O-O 8. O-O b6 9. Nbd2 Bb7 10. Ne5 c5 11. cxd5 exd5 12. f4 Qe7 13. Rf3 Ne4



このポジションは3年前のベトナムのゾーン選手権で、IM Nolte 相手に持ったことがあります。その試合では、私がわずかなアドバンテージを生かし切れずにドローにしてしまったので、それを改良したラインをここでは使います。

14. Rh3!N f5


黒もStonewall 風にf7-f5 とポーンを進めて、e4 のナイトを強化しようとします。互いにアウトポストのナイトで主張しあっても良いのですが、私はピースを交換し、ポジションをシンプルにすることにしました。

15. Nxd7!? Qxd7 16. Nxe4 fxe4 17. Qh5



ここまでが私の準備です。黒がh7 を守るには本譜のクイーン交換か、a1-h8 のダイアゴナルを弱める手しかありません。

17... Qf5


17... g6 18. Bb5 Qf7 19. Qh6 ならば、白には多少のイニシアチブがあるでしょう。黒のキングはやや守りが薄く、Ra1-Rf1、f4-f5 といったアタックのチャンスも残っています。

18. Qxf5 Rxf5 19. Be2+/=



私はこのポジションで、ひとまず満足することにしました。互いのダブルビショップの働きは、やや白が良いと判断できます。

19... cxd4?!


これはやや注意不足な一手。白のビショップの組み直しを見落としていたか、軽視してていたのでしょう。代わりに黒は19... Rf7 と先にルークを退いておくべきだったと思います。これならば、黒もBb7-Bc8-Be6 などとビショップを組み替えるチャンスがあります。

20. Bg4! Rff8 21. Be6+ Kh8 22. Bxd4 Rae8 23. Bg4!?



ここは散々迷ってやめた手がベターでした。23. Rg3! Re7 (23... Rxe6 24. Rxg7 Bc8 (24... Bc5 25. Rxb7+ Bxd4 26. exd4 Rxf4 27. Rc1+/= (27. Rf1!? を試合中は考えていました。)) 25. Rg5+ Ref6 26. Rxd5 Kg8 27. Bxf6 Rxf6 28. Rad1+/= この変化が読み切れず、本譜をチョイスしました。) 24. Rc1+/= 白はcファイルを抑えることで、明らかなポジショナルアドバンテージを得ます。

23... Bc5!?


こう指さなければ、白はRa1-Rc1 から間違いなくアドバンテージを得られるので、指される前は私もこれが自然だと思っていました。しかし、実際に進めてみると白にチャンスのあるエンドゲームに突入するため、何が黒にとってベストだったかは、判断の難しいところです。

24. Bxc5!



最初はg7 へのプレッシャーを残すため、e5 にビショップを置くつもりでしたが、24. Be5 d4!? 25.exd4? Rxe5! という変化が見えたために断念。本譜の手順で白優勢のエンドゲームになることを読み切ったため、そちらをチョイスします。

24... bxc5 25. Rc1 d4


25... Bc8!? 26. Bxc8 Rxc8 27. Rh5 Rfd8 28. Re5+/= この変化でも、次に29. Rd1 と指すことで、白はポーンアップになります。

26. Rxc5 d3!?



ポーンを交換するほうをメインに読んでいましたが、26... dxe3 27. f5+/- ならば、確かに黒は苦しい展開です。本譜では黒のプロテクテッドパスポーンが不気味ですが、cファイルとd1 のマスを抑えている以上、キングが寄っていけばさほど危険はないと考えました。

27. Kf2 Bc8?!


c8 のマスを取り返したい気持ちは分かりますが、白マスビショップを交換してしまうと、e4 のポーンが攻撃されやすくなってしまいます。ここはじっくり27... Re7 から耐えるべきでした。

28. Bxc8 Rxc8 29. Rhh5 g6 30. Rhe5 Rxc5 31. Rxc5 Rf6 32. Rc4!+/-



白は何の問題もなく、ポーンアップのルークエンディングに持ち込むことができました。あとは相手のパスポーンをブロックしつつ、クイーンサイドでパスポーンを作れば、勝勢です。しかし、黒にcファイルを取らせてしまうとカウンタープレーのチャンスを与えることになるため、その点だけは気をつけなければいけません。

32... Re6 33. Ke1 h5 34. a4 Kg7 35. b4


a7 のポーンを取りにいく判断もあると思いますが、先述の通り、cファイルからの余計なカウンタープレーを許さないためにも、ここは慎重にゲームを進めます。

35... Kf6 36. b5 g5 37. fxg5+ Kxg5 38. Rc7!



ようやく勝ちが見えてきました。ここまでa、bポーンを進めたうえでにaポーンを取れば、黒の反撃は遅すぎます。

38... a6 39. Rc6! Re5 40. b6?!


ところが、なぜか手間のかかるほうをチョイスしてしまいます。40. Rxa6+- とシンプルにポーンを取れば、即試合終了でした。

40... Re8 41. a5 Kg4 42. Rc4 Kf5



自分のミスに気が付き、改めて勝てるプランを探します。単にbポーンを進めてもRb8 と回られてしまうだけなので、それだけでは勝てません。クイーンサイド以外を少しいじりながら、bポーンを突く適切なタイミングを計ります。

43. Kd2 Rg8 44. g3 Re8 45. h3!


g3 を取らせても勝てると読み切り、ここで勝負にいきます!ポイントは黒のキングが6段目にいかざるを得ないことです。

45... Rg8 46. Rc5+ Ke6 47. Rxh5 Rxg3 48. b7! Rg8 49. Rh6+ Kd7 50. Rxa6



a6 を取って2コネクテッドパスポーンを作れば、プロモーションを止める方法は黒にはありません。

50... Kc7 51. Rb6 Kb8 52. a6 Rg2+ 53. Ke1 Rg1+ 54. Kf2 Ra1 55. Re6 Rb1 56. Re8+ Ka7 57. Ra8+ 1-0


中盤のわずかなアドバンテージを、チャンスのあるエンドゲームに繋げ、そしてそれを勝ちきることができました。前日のHou Qiang 戦のような派手さはありませんでしたが、こうした堅実な勝利も上にいくためには間違いなく必要です。

ゲーム後には、アンダンテのオーナーとブダ側のお寿司屋さんにいくことに。日本人の奥山さんが経営するこの店は、日本の味を求める旅行者や地元の人に支えられており、私は8月以来の来店となります。この日、店を訪れたのは、奥山さんから月に一回、店に招待すると言われていたことに加え、探し求めていた例のブツが見つかったと連絡を受けたからです。そのブツとは...


はい、これだけでは何か分かりませんね。実はこれ、元世界チャンピオン、Bobby Fischer のサインだそうです。1994年9月19日という日付以外は、全く読めませんが(笑)

奥山さんは90年代、ブダペストに潜伏していたFischer と交流があり、彼が奥山さんのお店に客として訪れた際に、このサインを貰ったそうです。紙ではなく、布にしてあるところが渋いですね。私が憧れていたハンガリーで、かつてFischer が生きており、その地でチェスの勉強をしながらFischer の知人と交流を持つというのは、なんとも不思議な縁を感じます。このサインはありがたく頂き、大切にさせていただきます。


夕飯はこちら。これにサーモンの切り身、ごはん、味噌汁などがつきました。

さて、おいしい日本食も頂いて気合も入ったので、今日の最終戦もきっちり戦ってこようと思います。ここで四連勝を決めれば、レイティングを2360に載せてのロンドン行きとなりそうです。未知のレベルに突入するために、あともうひと踏ん張りです!

5 件のコメント:

Yumi さんのコメント...

何だか感動です! 素敵なプレゼントでしたね!!
今日も勝てるような気がしていますが…(^^)
報告楽しみにしています。 そしてどちらに転んでも、とりあえず3連勝、おめでとうございます‼

匿名 さんのコメント...

お疲れさまです。渋い大勝利おめでとうございます。ロンドンに行かれた際は本は早めに仕入れペンを用意しViktor Korchnoi等レジェンドな方々を見かけたらサインと何か一言をゲットしましょう

Yumi さんのコメント...

最終戦はdrawでしたか...! お疲れ様でした!
どんなに神秘的な手だったのでしょう…
とりあえず、長い毎日、お疲れ様でした!!
ロンドン入りはいつですか? 体調を崩さず、次にいけるといいですね。
今大会頑張った自分にご褒美をあげてください‼
それから… お誕生日おめでとうございます‼‼ 素敵な一日になりますように。

Shinya_Kojima さんのコメント...

遅くなりましたが、お二人ともコメントありがとうございます。
明後日からケチケメート、29日からロンドンです。
あまりに試合が多くて目が回りそうですが、誕生日の今日ぐらいはゆっくりしようと思います。

と言いつつも、いつも通りチェスをしている自分が怖い(笑)

Yumi さんのコメント...

ケチケメートが先でしたね!
誕生日、何かいいことあるといいですね(^^)

やっぱりチェスが好きなんですね〜‼ 誰にも、何にも邪魔されず丸一日チェスをしてられたら、それが一番のプレゼント、って感じでしょうか??

明後日からも頑張ってください。
またまた応援しています!

コメントを投稿

Copyright © 2011 Shinya Kojima All rights reserved.