2015年もGW の全日本選手権が終了しました。6日間の長丁場を戦い抜き、最終的に8勝2敗1ドローという戦績でトップに立ったのは、私の麻布の先輩であり、14年以上の付き合いのあるチェス仲間でもある馬場さんです。昨年はゴールデンオープンでbye を挟みながらも出た試合で全勝して優勝。全日本でも、過去2回優勝しているチャンピオンですが、単独での優勝とアルゼンチンカップの今回が初めてです。私も後輩、ライバル、かつてのオリンピアードチームメイトとして、馬場さんの初単独優勝を祝福したいと思います。馬場さん、おめでとうございます!
私はと言えば、最終戦で塩見さんとの激闘を制し、7勝2敗2ドローで単独2位に終わりました。これで南條くん、惇多くんに競り負けた去年、一昨年に引き続き、3年連続での単独2位です。今年もタイトル奪還とはなりませんでしたが、最後まで優勝争いのもつれる非常に白熱した戦いができたので、その点は満足しています。そのうえで来年こそは、日本チャンピオンに返り咲きたいですね。それでは、長い長い塩見さんとの試合へ。
Shiomi, R (JPN, 2138) - Kojima, S (IM, JPN, 2403)
Japan Chess Championship 2015 (11)
1. e4 c6 2. c4 d5 3. exd5 cxd5 4. cxd5 Nf6 5. Nc3 Nxd5 6. Nf3 Nxc3 7. dxc3!?
Japan Chess Championship 2015 (11)
最終戦、勝たなければいけないゲームで、こうしたチョイスをされるのは少し焦ります(笑) しかし、クイーンを早々に交換して白に大きなアドバンテージがあるわけでないので、これも一局だと考えて塩見さんの誘いになることにします。クイーン交換を避ける自然なアイディアもないですしね。
7... Qxd1+ 8. Kxd1 Nc6 9. Bb5 Bd7 10. Ke2 a6 11. Bc4 Rc8 12. Rd1 Bg4 13. Bd5!?
この守り方は少し意外でしたが、少し考えれば、白はc6 でナイトを取っても、h2-h3, g2-g4, Nf3-Ne5 からビショップを取り返すチャンスがあるため、納得です。ただし、すぐにその変化は黒がやや良くなることに気づき、あまり捻らずにゲームを進めてみることにします。
13... e6 14. Bxc6+ Rxc6 15. h3 Bh5 16. g4 Bg6 17. Ne5 Rc8
塩見さんとしては少し勘違いだったのか、g6 のビショップをすぐ取ると、h3 のポーンがターゲットとなり、それを守らなければいけない白は負担が大きくなります。
18. Rd7 Be4! 19. Rd4 Bd5 20. c4 Bc5 21. Rd1 Be4
ここは私も時間を相当使い、自分が勝つチャンスをなるべく残せるようなポジションを模索しました。そのためには、リスクのある選択もします。
22. f3 Bc2 23. Rd2 Ba4?! 24. b3 f6 25. Nd3?!
ここはラッキーでした。塩見さんとしては、自分のポーンストラクチャーを乱す変化はあまり指したくなかったようですが、25. bxa4! fxe5 26. Bb2 Bb4 27. Rc2 Bd6 28. Rd1+/= と進めていれば、白が優勢でしょう。しかし、白も孤立とダブルポーンができているため、下手をすれば劣勢に転じる可能性があります。
25... Bd4 26. Nb2 Bxb2 27. Bxb2 Bc6
ポーンストラクチャーは互いに綺麗なまま、異色ビショップになりました。勝ちを目指すならば、同色のほうが良いのではないかと思われるかもしれませんが、ルークが残っていれば、異色でも様々なチャンスを作り出すチャンスがあります。
28. f4 Kf7 29. Rg1 h6 30. h4 Rhd8 31. g5?!
これは明らかにリスクの大きい仕掛けでしょう。私のルークがhファイルから離れたことをチャンスと判断したかもしれませんが、それは私の誘いです。
31... hxg5 32. hxg5 Rxd2+ 33. Kxd2 Rh8!
もちろん、私のルークはhファイルに戻ります! これでルークの働きに差が生まれた黒は、白のポーンにプレッシャーをかけていきます。
34. Re1 Rh4 35. gxf6 gxf6 36. Ke3 Kg6?!
しかし、ここでキングの位置の改善を優先したのはミスでした。残り7秒ほどまで考えて指したのですが、シンプルにf ポーンを取りにいったほうが、白としては嫌なポジションになるでしょう。36... Rh3+ 37. Kd4 Rh2 38. Kc3 Rf2=/+
37. Rf1 Kf5 38. Rf2 Rh1 39. Bd4 Be4 40. Bb2 Rh3+
ここで30分を増やし、いよいよ勝負を仕掛けます。黒はf4 の孤立ポーンだけでなく、a2-c4 に並ぶ白マスのポーンも攻撃するチャンスがあります。
41. Kd4 b6 42. c5 b5 43. c6 Bxc6 44. Kc5
私は4段目に上がった白キングに対して、メイトスレットを作ることで1ポーンを奪いました。しかし、メイトの危機を逃れた白キングは、黒のクイーンサイドのポーンを攻撃しにいきます。
44... Bf3 45. Bc1 Bd5 46. Kb6 Rc3 47. Bb2 Rc6+ 48. Ka5 Be4
ルークを退きたくはありませんでしたが、一時的にa6 を守るためには仕方ありません。(Bb7, Rh7 のような形は嫌でした。)そこからチャンスを作るために、色々とピースを切り替え、アイディアを捻ります。
49. Bd4 Bd3 50. b4 Rc4
ルークでビショップと、ターゲットになりうるf4 のポーンを攻撃するのは、黒としては自然な発想です。難しいのは、黒のf6 のポーンも狙われているため、ルークを交換した後の純粋な異色ビショップエンディングが、黒勝ちになるかどうかの判断でしょう。50... Rc2?! 51. Rxc2 Bxc2 52. Kxa6 Ba4 53. Kb6 Kxf4 54. Bxf6 e5 55. Kc5 e4 56. Kd4 ならば、白は難なくドローに持ち込むことができます。
51. Bb2 Rc6
51... Rxf4?! 52. Rxf4+ Kxf4 53. Bxf6 e5 54. Bxe5+! Kxe5 55. Kxa6 Kd4 56. Ka5 Kc3 57. a4 ここでも、白はこのように黒のポーンをすべて消して、ドローに持ち込むことができるでしょう。
52. a3 Bc2 53. Bd4 Rc4 54. Be3
54. Bb2 Ba4 55. Kxa6 (55. Kb6!) 55... Rxf4 56. Rxf4+ Kxf4 57. Bxf6 e5 58. Kb6 e4 59. Kc5 Ke3!-+ これはa4 にビショップが跳びこみ、a3-a4 を早く止めることで、勝てる異色ビショップエンディングになるのではないかと読んでいましたが、a6 のポーンを無視してキングが寄る(考えてみれば、a6 のポーンを取るるメリットはありません。)55. Kb6! ならば、黒はどのように勝てばよいのか難しくなります。
54... Rc3 55. Kxa6!?
この手はかなり驚きました。白が1ポーンダウンで粘るためには、異色をキープし続けるだろうと思っていたためです。このビショップ交換は、黒に2コネクテッドパスポーンができるために順当に勝てるだろうと思っていましたが、ルークエンディングはそれほど簡単ではありませんでした。
55... Rxe3?!
これは時間がなかったとしても、もう少し冷静にどちらから取るかを考えるべきでした。55... Rxa3+ 56. Kb6 (56. Kxb5?? 56... Ba4!-+) 56... Rxe3 57. Rxc2 Kxf4 58. Kxb5 これならば、白はb5 のポーンを取るのに手数をかけなければいけないため、黒は本譜より得をすることになります。
56. Rxc2 Rxa3+ 57. Kxb5 Kxf4
これで、黒が1ポーンアップのルークエンディングになります。
58. Rf2+ Ke5 59. Kc4 Ra1 60. Rb2 Rc1+ 61. Kd3 Rd1+
ひとまず時間を増やし、白のパスポーンに対抗する作戦を練りますが、ここは61... Kd5! 62. Ke3 (62. b5 Rc7-+) 62... Rc6-/+ このようにキングが寄り、完全にパスポーンをブロックしてしまうのが正解でした。
62. Kc4 Rc1+ 63. Kd3 Rc6?! 64. b5 Rb6 65. Kc4 f5 66. Kc5 Rb8 67. Re2+ Kf6 68. b6 f4 69. Kc6 e5 70. Kc7 Re8 71. b7 Kf5 72. Rd2!
ここは塩見さんは冷静です。一般的にここまで進み、キングにサポートされた2コネクテッドパスポーンを、ルークだけで止めることはできません。そこで白はルークを8段目でぶつけ、プロモーションを確実にする作戦を取ります。
72... f3 73. Rd8 Re7+ 74. Rd7 Re8 75. Rd8 Rxd8 76. Kxd8 f2 77. b8=Q f1=Q
こうしたゲーム展開になるとは、対局していた私たちも、観戦者たちも予想していなかったでしょう。ここからは、黒がもう一度プロモーションを成功させるか、それとも白がそれを止め、パペチュアルチェックに持ち込めるかという勝負です!
78. Ke7 Qa6 79. Qf8+ Ke4 80. Qf2 Qa3+ 81. Ke6 Qa6+ 82. Ke7 Qa3+ 83. Ke6 Qa6+ 84. Ke7
実はこの時点で3回目同一局面が成立しているのですが、塩見さんは指摘の仕方を間違え、ゲーム続行です。それにしても、私は実に同一局面のカウントが下手です! 9R の尚広くんとのゲームでも、するつもりのない3回同一局面を成立させてしまいました。
84... Qb7+ 85. Ke6 Qc8+ 86. Kd6 Qd8+ 87. Ke6 Qe8+ 88. Kd6 Qd8+ 89. Ke6 Qd5+ 90. Ke7 Qd4!
確信はありませんでしたが、勝つチャンスを作るために良い手を指せたと思います。ここからはチェックする側がチェンジとなり、黒がキングを動かして、チェックの切れるマスを求めます。
91. Qe2+ Kf4 92. Qh2+ Kg4 93. Qg2+ Kf4 94. Qh2+ Ke4 95. Qe2+ Kd5 96. Qa2+ Kc5 97. Qa7+ Kb4 98. Qb7+ Kc4 99. Ke6 e4
Qd4-Qc5+ というカウンターチェックからのクイーン強制交換を避けなければいけない白は、縦でのチェックができなくなります。そこでキングをeポーンに近づけて取るチャンスを作ろうとしますが、黒は当然、ポーンを前進させてプロモーションを目指します。
100. Qa6+ Kb4 101. Qb7+ Kc3 102. Kf5 e3 103. Qc6+ Kd2 104. Qh6 Qd5+ 105. Kg4 Qg2+ 106. Kf5 Qf3+ 107. Ke5 Kd1
いよいよ黒は仕上げの段階に入ります。ここは107... Ke1! がより早い手でしたが、いずれにせよ黒は好位置に置いたクイーンで、白クイーンでのチェックの可能性を減らしておき、キングをさらに理想的なポジションへと運びにいきます。
108. Qd6+ Ke1 109. Qb4+ Kf2 110. Qd4 Kg2!
これでようやく長いゲームに決着がついたことを確信しました。白からチェックを続けたり、ポーンの前進を止める方法はすでにありません。
111. Qb2+ e2 112. Qd2 Kf1 0-1
こうした長いクイーンエンディングを戦ったのは、自身初のことです。こうして最終戦を無事に白星で飾りましたが、白で桑田くんを破った馬場さんには0.5P 追いつかず、今年も2位でフィニッシュです。馬場さんと並んでトップを走っていた三ツ矢さんはAlex に負けてしまい、3位に後退してしまったのは勿体なかったですね。それでも三ツ矢さんは、最終戦を勝って7.5P グループに入ってきた唐堂くんと同様、全日本初入賞を果たしています。
1st Place 馬場雅裕 8.5P
2nd Place 小島慎也 8P
3rd Place 三ツ矢直人 7.5P
4th Place 唐堂 7.5P
2nd Place 小島慎也 8P
3rd Place 三ツ矢直人 7.5P
4th Place 唐堂 7.5P
全日本とゴールデンオープンの優勝者たちのツーショット。ゴールデンオープンは、アメリカから一時帰国中の上杉晋作くんが7勝1ドローで優勝しました。昨年、ゴールデンで優勝した馬場さん同様、晋作くんも全日本で優勝を狙うレベルのプレーヤーですし、この結果は当然でしょう。彼も本格的に公式戦に復帰してくれませんかね...
私はIM タイトルを正式に獲得したことが表彰式で伝えられ、記念の花束とFIDE からの証明書を受け取りました。今大会では、2009年のSam Collins ほど、IM としての実力を十分に発揮することができませんでしたが、それは私もまだまだ、勉強不足だということです。今後も国内、海外大会の両方で腕を磨き、プレーヤー、トレーナーとしての両面で活躍を続けていければと思います。
最後になりましたが、全日本選手権とゴールデンオープンの参加者と観戦者の皆さん、そして運営陣の皆さん、本当にお疲れ様でした。今年も多くのプレーヤーと交流することができ、とても楽しかったです。また次の大会でお会いしましょう!
05/01 10:00 R1 Takada, Y (JPN, 1841) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 0-1
05/01 15:30 R2 Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Mitsuya, N (JPN, 2040) 1-0
05/02 10:00 R3 Kobayashi, A (JPN, 2085) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 0-1
05/02 15:30 R4 Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Lin, P (JPN, 1906) 1-0
05/03 10:00 R5 Tang, T (JPN, 2064) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 1/2-1/2
05/03 15:30 R6 Baba, M (CM, JPN, 2251) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 1-0
05/04 10:00 R7 Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Kuwata, S (JPN, 2130) 1-0
05/04 15:30 R8 Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Yamada, K (CM, JPN, 2087) 0-1
05/05 10:00 R9 Nakamura, N (JPN, 2054) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 1/2-1/2
05/05 15:30 R10 Kojima, S (IM, JPN, 2403) - Averbukh, A (JPN, 2198) 1-0
05/06 10:00 R11 Shiomi, R (JPN, 2138) - Kojima, S (IM, JPN, 2403) 0-1
6 件のコメント:
最終Rはものスゴイ熱気で興奮しました。
隣の検討室の歓声は少し気になりましたが。。
なにはともあれお疲れ様でしたー( ̄▽ ̄)
endgame databese によると 77...f1Qを指した局面は mate in 53 ということであります・・・▼o・~・o▼汗
http://chessok.com/?page_id=361
全日本大会お疲れ様でした!!
これからもぜひご活躍なさってください!
9日のレクチャーは参加できなかったので、来月のレクチャーも楽しみにしています…!
お互いにお疲れ様でした〜。また次の大会でも、よろしくお願いします!
今は7ピース以下は完全解析でしたかね。
何手メイトかはさておき、正確にチェックをかわしていく流れは読めるようになりたいですね ( ̄▽ ̄)
ありがとうございます! 6月は最終週の27日になりそうですかね。またよろしくお願いします!
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