今夜の話題はドローオファーについて。私は近年、各所でこの話をしていますが、納得してもらえる場合とそうでない場合があるので、思い切ってブログのネタとして取り上げてみます。上記のポジションは、私が初めて渡辺暁さんと試合をした、2008年の名古屋でのゲームです。私は当時19歳で、この年の全日本選手権で独走で優勝し、ノリノリでした。初めての暁さんとの試合でも、オープニングでかなり良くなったはずですが、ミドルゲームでの構想が悪く、徐々に盛り返されてしまいます。そして最終的に、ゲームがどうなったかと言いますと...
33. Bd3(=) 1/2-1/2
このように、私が1手指してドローオファーし、暁さんはそれを受けました。これで互いに仲良く入賞し、賞金の分けました、というだけならば何も記事のネタにはならないのですが、私にとってこの試合後の検討で、暁さんに言われたことが非常に印象的でした。
暁さんは私に対して、「最後のポジションの形勢は、どのように考えるか?」と問いました。私は間髪入れず、「33. Bd3 からピースを交換したら、キングサイドのポーンを伸ばしすぎて、f4 も弱い白がやや劣勢でしょう」と答えます。そして暁さんから初説教の言葉、「自分が劣勢のポジションでドローオファーするな」を頂きました。
当時、若かった私はこの言葉の意味が分かりませんでした。劣勢でも、形勢が分かりづらかったり、相手の時間が少ない場合であれば、ドローの提案をするのはおかしくないことだと考えていたためです。おそらく、この記事を読んでいる読者の方の中にも、どういうことなのかよく分からない人が多いかと思います。もう少し話を続けましょう。
Rowson, J (GM, SCO, 2596) - Kojima, S (JPN, 2272) / Dresden Olympiad(6) 2008
Position After 37... Rxb2
同じ年のドイツでのオリンピアード、懐かしのスコットランド戦です。このポジションは白番なので、白はa7 のポーンを取って、誰が見ても白優勢です。ところが、私はこのポジションでドローオファーしました。7段目のルークで白キングをカットオフしているうえ、パスポーンの後ろにルークが回ったり、g3 のポーンを狙うカウンタープレーができ、白が勝つのは意外と難しいのではないかと考えたためです。
しかし、いくら難しくても、こうした明らかな劣勢のポジションでドローオファーをするという行為は、今では信じられないことですし、自分の生徒が同じことをした場合は、きちんと指導します。Rowson はこの後、New In Chess Magazine で彼が持つコラムの中で、「彼はここでドローオファーした。生意気な若者である」と書いています。はい、全くもってその通りです。
まだピンと来ない人もいると思いますので、現在の私の考えを説明します。まず明言しておくべきことは、ドローオファーは形勢に差がある場合、「優勢の側がすべきもの」です。この数年で色々と考えてきましたが、理由を以下のようにまとめてみます。
・劣勢の側は、受けてほしいという願いを込めてドローオファーしている暇があれば、なんとか挽回する方法を考えるべきである。
・劣勢であると分かったうえで(もしくは、判断するまでもなく明らかなうえで)、劣勢な側がドローオファーするという行為は、「あなたには、正しい形勢判断をする実力がない」「あなたには、この優勢なポジションを勝ち切る実力がない」と受け取られかねないため、失礼にあたる。
特に格下のプレーヤーが格上のプレーヤーに対して、劣勢のポジションでドローオファーするということは、普通に考えてありえない行為です。雑誌に皮肉を書かれても仕方がありません(笑) こうして考えてみると、形勢に差がある場合のドローオファーは、優勢な側がなんらかの理由から(手間を省く、入賞を決める、勝ち切る自信がないなど)、行うものだと言えるでしょう。勝ちとドローしかない優勢側は、わざわざ劣勢側のオファーを受ける理由はないのです。
この話題については、また色々なマスターとも話をしていきたいと思いますが、私が身を持って学んだきた経験からの結論ですので、そう簡単に覆らないでしょう。もちろん、少し違う意見を持つプレーヤーもいると思いますので、そうした声にも耳を傾けていきたいと思います。
7 件のコメント:
なんかコメントがついてますが意味がわかりません・・▼o・~・o▼
http://www.chessgames.com/perl/chessgame?gid=1521653
当時の自戦記を発見▼o・~・o▼
http://chessplayer.jugem.jp/?eid=15#sequel
しかし負けたRowsonが後から雑誌でグチグチ言うのも負け惜しみのようでみっともない気がします。このレベルの試合ならなおさらです。格上のプレイヤーならば相手が誰であれ素直に相手の強さを認める謙虚さも必要でしょう。
羽生さんが名人位を奪取です!!▼o・~・o▼
ピカチュウさん
よく二つとも見つけてきましたね(笑)
色々な意味で、私にとっては思い出深いゲームです。
匿名さん
私の言葉が少し足りなかったので補足しておきます。
実を言えば私も、最初に記事を読んだ際に同じ事を考えました。しかし、思い返してみれば、Rowson は私に悲劇的な逆転負けを喫した後も、非常に紳士的な態度で私に接してくれました。レイティング下位の子供に優勢から負けたとあれば、顔も見たくないと思ってもおかしくないですが、このオリンピアード中、私に調子はどうか、今日の相手は誰だなどと話しかけてくれました。そんなRowson のことを、私は同じチェスプレーヤーとして尊敬しています。
Rowson が雑誌で苦言を呈したのも、負け惜しみなどではなく、チェスプレーヤーとし身につけるべきマナーを、私を含めた若いプレーヤーに教えるためであったと私は考えています。私が当初、そう思ったように、負け惜しみとも取られかねない内容を、若いプレーヤーのために書くということは、簡単なことではないでしょう。
また、劣勢のポジションでドローオファーする行為が失礼に当たるということは、その後の試合結果となんら関係のないものです。私も自分の生徒や後輩に対しては、そのように今後教えていくでしょう。
そもそも合意のドロー自体が良いのかどうかという話もあるみたいですが・・ネット対戦でdrawボタンを連打して観戦者から 'stop offering draw moron' と怒りのkibitzを飛ばされた過去を持つ私にゴニョゴニョ言う資格は無い・・・▼o・~・o▼ 汗
http://www.thechessdrum.net/65thSquare/DrawOffer/DrawOffer3.html
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