3度目の全日本優勝を決め、アルゼンチン大使から優勝カップを受け取るTuさん Photo by Yamada, A
1日遅れましたが、全日本選手権最終日の報告です。すでにご存じのかたも多いかと思いますが、最終戦ではリストトップの3人、私、青嶋くん、Tuさんが全員黒で勝ち、上位入賞を決めました。5連勝の後、1つドローでポイントを落としただけのTuさんが3度目の優勝、私は4年連続の2位、初の連覇を狙った青嶋くんは3位となっています。1-3位のポイントはそれぞれ単独となりましたが、4.5P が複数いたため、タイブレークで4位はSimonさん、5位は小林くんとなっています。
1st Place Tran Thanh Tu (CM, JPN, 2346) 6.5/7
2nd Place Kojima Shinya (IM, JPN, 2386) 5.5/7
3rd Place Aoshima Mirai (FM, JPN, 2349) 5/7
4th Place Bibby Simon (FM, JPN, 2147) 4.5/7
5th Place Kobayashi Atsuhiko (JPN, 2125) 4.5/7
入賞者の皆さん、おめでとうございます。そして参加者の皆さん、運営スタッフの皆さん4日間、本当にお疲れ様でした。コロナ禍での延期と短縮があり、例年よりも開催は大変だったことは間違いありません。こうして無事に大会が終えられたこと、とても嬉しく思います。
では、最終戦の解説に移りましょう。小林くんとの黒を持った対戦は、昨年の全日本選手権でもありました。今回は彼が最近GMレベルで人気のセットアップを採用していることを知り、前夜に見つけた手順を試してみることにしました。
Kobayashi, A (JPN, 2125) - Kojima, S (IM, JPN, 2386)
Japan Chess Championship 2020 (7)
1. c4 e6 2. Nf3 Nf6 3. Nc3 d5 4. e3!?
私の印象としては、このアイディアは昨年からよく見かけるようになりました。東野さんとの試合では、
1. Nf3 d5 2. e3!? という手順で同じアイディアを使われたこともあります。白のコンセプトはSemi-Slav Anti-Meran のように低く構えつつ、黒がどのようにポーンを伸ばすかを見てから対応するというものです。黒が
c7-c6 とd5 を補強してきたときにはd4 にはポーンを置かない、もしくは遅らせ、
c7-c5 とセンターを主張してきた際には、
d2-d4 から崩してd5 にポーンが残るIQP を目指すというのがスタンダードな作戦です。
4... a6!?
試合前夜に見つけた手ですが、私は以前のレパートリーでも、a6 Slav やSemi-Tarrasch でaポーンを突く手を試しており、ここでもあまり違和感のないアイディアでした。1手待って白の出方を探る意味もありますが、IQP になった際に
Bf1-Bb5 を止め、d4 のマスをコントロールされることを防ぐ意味がここでは大きいと思います。
5. b3 c5 6. cxd5 exd5 7. d4?!
前述の通りのセットアップですが、少しタイミングが早いと感じました。
7. Bb2 Nc6 8. d4 cxd4 9. Nd4 Bd6 ならばスタンダードなIQP ポジションで、互いに主張がありながらも、白がこのラインで目指した形になると思います。
7... cxd4 8. Nxd4 Bb4!
これが用意していたアイディアで、白はc3 のピンされたナイトをカバーするため、ビショップをd2 に置かざるをえなくなります。すると
b2-b3 が意味のないものとなり、a3 のマスを弱めたことなども弱点になる可能性があります。b4 に出たビショップはテンポロスを気にすることなく、d6 あたりへ将来的には戻るつもりでした。
9. Bd2 O-O 10. Bd3
通常のIQP であれば、d4 のマスのコントロールが重要ですので、クイーンの前をふさぐようにビショップは配置しないでしょう。e2 がスタンダードなビショップの位置です。しかし、こここではd2 にビショップを置いてしまっているため、e2 にビショップがいてもb2 ビショップとクイーンでd4 をコントロールする理想的な配置ではありません。それであれば、e2 のマスを
Nc3-Ne2 と組み替えに使うアイディアもありえるでしょう。
10... Nc6 11. Nxc6 bxc6 12. Rc1 Ba3!
黒はナイトを1枚捌き、ポーンストラクチャーを変化させました。これでd5 は強化されましたが、将来的にc6 のポーンが弱点になることを覚悟しなければいけません。一方で白も
Ng1-Nf3-Nd4-Nxc6 と手数をかけてナイトを消したことで、将来的にキングサイドが弱くなっており、それをどうカバーするかという問題があります。ビショップの位置をd3 に決めたため、
Bf1-Be2-Bf3 ができないことも気がかりです。
本譜の手は
Bb4-Bd6 と組み直す前にc1 のルークを当てておき、c2 に上げさせることです。それにより、d3 のビショップがc2, b1 へ退くチャンスが無くなるうえ、
Bc8-Bf5 などのターゲットにもなりうると考えました。一方で、
d5-d4 からセンターを開いた際や、f2 を攻めた際に2段目にルークが上がっていることが、白にとってディフェンス面でプラスになるかもしれないとも考えました。難しい判断ですが、トータルで判断して、1度ルークをc2 に上げさせる決断をします。
13. Rc2 Bd6
コンピュータの指摘ではビショップ退く手を入れずに、
13... Ng4! と先に跳ぶ手が良いとのことですが、このマスのナイトが力を発揮するのは、d6 のビショップと組み合わせてこそだろうと思い、本譜ではそちらを優先します。
14. Ne2 Ng4
ここで前述のアイディアを実行します。キングサイドを攻めることで白にキャスリングさせづらくし、
Ng4-Ne5 からd3 のビショップをアタックしつつ、c6 を守ることも視野に入れています。
15. Ng3 Re8
ここはなにかありそうだとも思いながら、ベストの手がわかりませんでした。
15... Qh4 16. Rxc6 Bxg3 17. fxg3 は白の形を崩しながらも、クイーンを退く1テンポと黒マスビショップを諦めなくてはいけないことが気になり、さほど自信がありませんでした。正しい手は
15... Qf6! 16. Bc3 Qh4! で、こうしてc3 にビショップを上がらせておけば、c6 を取られる心配がなくなります。
Qd8-Qh4 と
Qd8-Qf6 は両方考えていながらも、ミックスするという発想に至らなかったのは反省です。
16. Be2 h5 17. h3?
黒がキングサイドでプレッシャーをかける面白い展開ながら、まだまだ形勢は難しいと思っていました。しかし、この手で白陣は一気に崩れてしまいます。続く黒の典型的な手を小林くんが見落としたのは意外でした。
17... Nxf2! 18. Kxf2 Qh4-+
ナイトを捨ててポーンを取り、g3 のナイトを確実に取りかえして黒の勝勢です。白はc6 やh5 を取れるチャンスはあるものの、キングが無防備すぎること、h1 のルークが出てこられないことが痛手となります。
19. Kf1 Bxg3 20. Rxc6 Bd7 21. Rc3 Re6 22. a4 Rae8 23. Rd3 g5
もう少し分かりやすい決め手があるかと思いましたが、
Be2-Bf3 と
Rd3-Rd4 がディフェンスになり、どう決定的な局面を迎えるかが分かりませんでした。そこで少しキング前を崩しても、
g7-g5-g4 からf3 のマスを抑え、
Be2-Bf3 のディフェンスを無効化することにします。
24. Bxh5 Rf6+ 25. Bf3 g4 26. Bc3 gxf3
本譜のようにダブルビショップvs. ルークにしても黒は大きな問題はありませんが、
26... Be5 とビショップを捌くシンプルな手が見えなかったのはひどかったです。
27. Bxf6 Qxf6 28. gxf3 Kf8!?
時間もあまりない中自信はありませんでしたが、gファイルからキングを避けておいたほうが安全だろうと思いました。しかし、前日の弘平くんとの試合では安全だと思って避けたf8 のキングが、あわやひどい状況になるところだったので、油断はできません。
29. Rg1 Bxh3+ 30. Ke2 Bh2 31. Qa1 Qh6!
h3 を捨ててもルークを活用し、キングをセンターに逃がすのは実戦的な判断ですが、
31. Rh1 Bg2! があるため、結局のところルークはターゲットになってしまいます。本譜ではクイーン交換を避け、e3 を狙うとともに将来的な
Qh6-Qh2+ のチャンスを伺います。
32. Qa3+ Bd6 33. Qc1 Bf5!
おそらく小林くんが直前まで見えていなかったのがこの手で、hファイルからのクイーンの侵入と、ルークを狙いe3 のディフェンスを減らすアイディアがぴったりとなります。
34. Rh1 Bxd3+ 35. Kxd3 Rxe3+! 36. Qxe3 Qxh1 37. Qb6 Qd1+ 38. Ke3 Qg1+ 0-1
最後はピースアップの状態から、クイーンを取って勝ちです。時折ベストの手は逃がしましたが、前日の孔平くんとの試合のように優勢から相手に逆転のチャンスを与えるような大きなミスをしなかったのは良かったと思います。
R1 Noguchi, K (JPN, 1996) - Kojima, S (IM, JPN, 2386)
0-1
R2 Kojima, S (IM, JPN, 2386) - Nakamura, N (JPN, 2105)
1-0
R3 Asaka, S (AUS, 2253) - Kojima, S (IM, JPN, 2386) 1/2-1/2
R4 Kojima, S (IM, JPN, 2386) - Aoshima, M (FM, JPN, 2349)
1-0
R5 Kojima, S (IM, JPN, 2386) - Tran, T T (CM, JPN, 2346) 0-1
R6 Yamada, K (FM, JPN, 2116) - Kojima, S (IM, JPN, 2386)
0-1
R7 Kobayashi, A (JPN, 2125) - Kojima, S (IM, JPN, 2386)
0-1
Japan Chess Championship 2020 Final Standings
今年の全日本選手権も、結果に喜ぶ人、落ち込む人、終わっての反応は様々だったと思います。私も優勝こそなりませんでしたが、レイティングはプラスで終われましたので及第点といったところでしょう。また月末、名古屋のトーナメントを頑張りたいと思います。またそちらでは、この全日本で終えなかったプレーヤーたちとの交流も楽しみにしています。
カップは優勝者だけですが、他の入賞者および、シニア、ジュニア、女性の成績優秀者には、スポンサーの陶楽さんより有田焼のナイトが贈られています。私はジャパンチェスクラシックで獲得し損ねたため、今回が初めてです。
表彰式後には、下北沢で開催されているシモキタ名人戦に顔を出してきました。シモキタ名人戦は将棋、囲碁、連珠、バックギャモンなどのボードゲームのイベントです。毎年GW に開催されていましたが、チェスの全日本選手権同様、今年はこの時期に延期されていました。ちなみに私はバックギャモンで中村くんに惨敗でした...