2018/09/27

Batumi Olympiad R3 Japan - IBCA


バツミオリンピアードの3日目は、オープンが視覚障害を持つプレーヤーのチーム、IBCA(International Braille Chess Association) と、女子がキルギスタンとの対戦になりました。IBCA メンバーの視覚障害のレベルは様々ですが、私が6年前に対戦したIM Meshkov(今回の南條くんの相手) は、少し視点が合っていないように思えましたが、普通に指すことができていました。しかし、今回は2Bに落ちたMeshkov を含め、全員がIBCA 特有の差し込み式ボードとピースを使い、棋譜は口頭で伝えるというスタンスでした。そんないつもと違うゲームは、意外な結末を迎えます。

Kojima, S (IM, JPN, 2408) - Babarykin, S (FM, IBCA, 2396)
Batumi Olympiad (3)

1. Nf3 d5 2. d4 c6 3. c4 e6 4. Qc2 Nd7!? 5. Bf4!?



彼のもう1つのレパートリーがDutch であることを知っていたため、白の手によってStone Wall Dutch にする気なのだと予想しました。5. g3 f5 を受け入れても良いのですが、私のStone Wall 対策はクイーンをc2 に置かないため、Triangle からのトランスポーズの場合、少し困ります。そこでBc1-Bf4 を入れることでStone Wall をやりにくくし、得意のQGD Bf4 変化に手順前後させるアイディアを思いつきました。

5... Ngf6


5... f5?! 6. e3 Ngf6 7. Nc3 0-0 8. Bd3 Ne4 9. g4! は白が良い変化だとされています。このため、Bc1-Bf4 をすでに指していたり、Bc1-Bf4 を指せる状況では、Stone Wall にするのは黒にとって危ないとされています。

6. e3 Be7 7. h3 O-O 8. Nc3 a6 9. Rd1!



QGD Rubinstein Variation と同じアイディアで、白は手を待って黒からdxc4 としてくるのを待ち、白マスビショップでテンポロスなくポーンを取りかえそうとします。もちろんルークをセンターに回す手には、待つだけでなく黒からのc6-c5 を牽制するという意味もあります。

9... Qa5!?


ここも黒は悩むところですが、Babarykin は思い切ってクイーンを出してきました。これにはQGD Cambridge Springs Variation と同じで、ナイトを退いてe4 をサポートするアイディアが有効です。

10. Nd2 Re8 11. Be2 c5 12. O-O cxd4 13. exd4 Nb8!?



このナイトの組み換えのアイディアは他のラインで見たことがありましたが、ここでどう指すのがベストか分かりませんでした。13... dxc4 14. Nxc4 ならば、Cambridge Springs と違って黒マスビショップをキープしたまま、ナイトを理想的な位置へと運ぶことができます。

14. cxd5


後になって、14. c5! Nc6 15. Nf3! とするのが、c8 の白マスビショップを抑え込み続ける良い変化であることに気付きました。気にしていた15... b6?! 16. Bd2! は白大丈夫で、a5 に出したクイーンが危険です。代わりに選んだ本譜の手では、ピースの展開の早さを活かして局面を開き、d5 を狙おうと考えました。

14... exd5 15. Nb3 Qd8 16. Bf3 Nc6 17. a3 g6 18. g4!?



黒が白マスビショップをアクティブに使えるようにするには、f5 のマスを使うしかないでしょう。17... Be6 18. Rfe1 Rc8 19. Qd3 ならば、白は優位を保てるであろうというのが私の読みでした。黒のg7-g6 に対して、白でg2-g4 をやるべきなのか、やって大丈夫なのか確信はありませんでしたが、Bc8-Bf5, Qd8-Qb6 の組み合わせは嫌で、これを防ぐためにはgポーンを突くしかないと決断します。

18... h5! 19. g5 Bf5 20. Qc1!?


ここでクイーンがどちらに避けるか迷いましたが、Nb3-Nc5 をサポートするために、cファイルに利きを作っておこうと思いました。

20... Nh7 21. h4 Qb6



この手は予想通りでしたが、ここで事件が起きました。Babarykin は序盤から時間を使い、20手前には時間切迫になっていました。彼の視力がどれくらいかは分かりませんが、盤上の駒の位置はぼんやりとわかっても、その奥の時計が示す数字はかなり顔を近づけて確認しないと分からないようでした。(奥の4B では、時計とイヤホンをつなぎ、残り時間が音で分かる時計を使用していました。) 彼は残り5分ほどの時は持ち時間を確認していましたが、21... Qb6 の直後は時間を見ることなく、席を立ちました。この時、彼の残り時間は40秒です。私は少し悩みましたが、彼の手は予想していたもので、自分が指す手も決めており、なによりチームのためにここでポイントを落とすわけにはいきませんでした。私は彼が1分以内に戻ってくることは不可能だと承知で手を進めます。

22. Nc5 1-0


22... Nxd4 23. Rxd4 Bxc5? には、24. Na4!+- があります。これが20. Qc1 の狙いでした。しかし、上記の変化になることは無く、ここで黒の時間が落ちて、私はその旨をアービターに宣告をしました。相手のキャプテンは彼が席を立った際の残り時間を私に聞き、しばらくして席に戻ってきた彼に、どうして時間切迫であることを確認しなかったのか、ロシア語で聞いていました。彼の真意は分かりませんが、かなりショックだったようで、専用のチェスセットを片付ける手つきも心ここにあらずという感じでした。私はなかなか経験したことのない形の白星を手に、どこかすっきりしない気持ちで会場を後にしました。

ホテルに戻ってから最後のポジションをチェックし、まだ難しいながらも十分に白が優勢であることを確認して、少し気持ちを落ち着かせることができました。彼の時間が落ちたのは単にラッキーということではなく、途中で若干の判断ミスがあったものの、(cファイルを開くべきか、閉じるべきか) 私が序盤から相手に難しい局面を投げかけ続けてきたことが要因です。色々と思うところはあれど、勝ちは勝ちと割り切り、また次のラウンドへと進んでいこうと思います。

Open R3 Japan - IBCA 3-1

Kojima Shinya (IM, JPN, 2408) - Babarykin, Stanislav (FM, IBCA, 2396) 1-0
Nanjo Ryosuke (IM, JPN, 2324) - Meshkov, Yuri A. (IM, IBCA, 2313) 0-1
Yamada Kohei (FM, JPN, 2128) - Grigorchuk, Sergey (CM, IBCA, 2288) 1-0
Otawa, Yuto (JPN, 2161) - Dukaczewski, Piotr (IM, IBCA, 2259) 1-0

Women R3 Japan - Kyrgyzstan 0-4

Hoshino Karen (WFM, JPN, 1945) - Samaganova, Alexandra (KGZ, 2024) 0-1
Sakai Azumi (JPN, 1713) - Omurbekova, Diana (KGZ, 1877) 0-1
Kojima Natsumi (WCM, JPN, 1655) - Zairbek kyzy, Begimay (KGZ, 1770) 0-1
Shibata Misaki (JPN, 1605) - Usupbekova, Zarina (KGZ, 1572) 0-1


オープンは山田くんと大多和くんが格上に勝ち、マッチも3-1で制しました。オリンピアードデビュー戦となった大多和くんは、いきなりで戸惑うIBCA戦だったと思いますが、落ち着いて自分のプレーができていたと思います。序盤から優位に試合を進められていました。一方で女子はキルギスタンに痛いストレート負けでした。チャンスのあるボードもあっただけに残念ですが、また気を取り直して今日のゲームを戦ってほしいと思います。

Open R4 Austria - Japan

Women R4 Japan - Guatemala


今日のラウンドはオープンがオーストリア、女子がグアテマラとの対戦です。オーストリアはGM4人を擁する強豪国で、このラウンドはその4人が出てくるようです。私はオーストリア不動のNo.1 Markus Ragger 相手にどんなゲームができるか、楽しみに会場に向かおうと思います。


ショップのスペースは、前回のバクーに比べれば小さめです。チェス用品を扱うショップの他に、VRの体験コーナー、2022年の開催地のアピールなどがありました。2022年の開催地候補はベラルーシのMinsk だそうです。

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