今回から2回に渡り、Queen's Gambit Exchange Variation を扱います。Exchange Variation は日本国内では人気が高く、よく指されている印象を受けます。私も後に紹介するMinority Attack と呼ばれるクイーンサイドのアクションは好きで、手順によってExchange Variation を指すこともあります。ただ、全てのQGD をExchange Variation にし、他の変化は一切勉強しないとなると、白のc4ポーンと黒のd5ポーンのぶつかりあいというQGD の大きなポイントを考える機会を失ってしまうことになります。QGD 対策は実に幅広くありますので、日本の1. d4 プレーヤーにはこの機会に色々な変化からアイディアを吸収していただきたいと思います。
Pelletier, Y (IM, SUI, 2483) - Acs, P (GM, HUN, 2521)
Mitropa Cup 19th 1999 (2)
1. c4 Nf6 2. Nf3 c6 3. d4 d5 4. Nc3 e6 5. Bg5 Nbd7 6. cxd5 exd5
Mitropa Cup 19th 1999 (2)
この試合はSemi-Slav からの入りでしたが、より一般的なQGD Exchange Variation の手順は1. d4 d5 2. c4 e6 3. Nc3 Nf6 4. cxd5 exd5 5. Bg5 となります。黒はe6 のポーンが消え、c8 のビショップの使いづらさというQGD 最大の問題が解決しやすいようにも見えますが、白がNg1-Nf3 を遅らせ、Qd1-Qc2 を早めに指すと、g4 にもf5 にも白マスビショップを展開することはできません。Exchange Variation においても、c8 のビショップの活用は黒の大きな課題と言えるでしょう。本譜では黒が5... Nbd7 と指してからポーン交換を仕掛けているのがポイントで、黒はやはりc8 のビショップをすぐに展開できません。
7. e3 Be7 8. Bd3 O-O
近年のQGD の本にはNf6-Nh5 から黒マスビショップを交換し、Nd7-Nb6, Bc8-Be6, 0-0-0 というセットアップを推奨するものもあります。これももちろん悪くはないですが、今回は全て互いにキングサイドにキャスリングするオーソドックスな形を見ていこうと思います。
9. Qc2 Re8 10. O-O g6!
勉強している人にとっては当然であっても、知らなければ指しづらい手の1つがこれでしょう。黒の構想はNd7-Nf8-Ne6-Ng7 からのBc8-Bf5 での白マスビショップ交換です。g7-g6 はg7 に将来的にナイトの退くマスを作ると同時に、Ng7-Ne6 の際にBg5-Bxf6 からh7 のポーンが落ちないようにする狙いがあります。またこうした構想を踏まえると、Exchange Variation においてはQGD でポピュラーなh7-h6 は、将来的にg6 のマスを弱めてしまうためにあまり機能しないことが分かります。ちなみにg7-g6 を突く手順は後回しで、10... Nf8 でも問題ありません。
11. Rab1!
これも知らなければ指せない手の類だと思います。白のアイディアはbファイルにルークを回しておき、b2-b4-b5 とc6 にbポーンをぶつけてオープンファイルを作ることです。この際、c6 でポーン交換になれば黒のcポーンは守りのないバックワードポーンとなり、長期的に弱点となります。またこうした白にa,bポーンが2つ、黒にa,b,cポーンが3つある状況で、ポーンの少ない白側からポーンを伸ばすアクションをマイノリティーアタックと呼びます。
11... a5 12. a3 Nf8 13. b4 Ne6 14. Bh4 Ng7!?
今年に入ってQGD を勉強し直すまで私は恥ずかしながら、このポーン交換をあえて挟まないアイディアを知りませんでした。黒がa7-a5 を突こうと、a7-a6 ともう一段低く構えようと、aポーンにノータッチであろうと、白の構想は基本的にbポーンをb5 まで進めることに変わりありません。それでは、それぞれの黒のリアクションを比較すると、a7-a5 と伸ばすことのメリットはb4 でポーンがぶつかった際に、aファイルを開いてa8 のルークを使いやすくすることのように思えます。するとa7-a5 と伸ばしたのにポーンを交換しないのは奇妙にも思えます。
実際に14... axb4 15. axb4 Ng7 16. b5 Bf5 17. bxc6 bxc6 18. Ne5 Rc8 19. Rb7 という変化も多く指されています。この形は11... Nf8 12. b4 a6 13. a4 Ne6 14. Bh4 Ng7 15. b5 axb5 16. axb5 Bf5 と合流しています。どちらの手でも同じ形になるならば、a7-a5 とa7-a6 には違いが無いと言えるでしょう。ところが今回のゲームではbファイルでのポーン交換を挟んでいないため、白にはa3、黒にはa5 にポーンが残っています。黒はaファイルを閉じたままにしても、白のポーンをa3 に残し、これをターゲットにするというのが白の狙いです。aファイルは開いたほうが良いと当然のように思っていた私には、このアイディアは目から鱗でした。(ただし、マイノリティーアタックに対してaファイルを開いたほうが良い場合もあります。)
15. Bxf6
このビショップナイト交換はTartakower Variation などでも見ましたが、ここではビショップのダイアゴナルをf8-a3 からずらすことで、c5 の黒のコントロールを一時的に弱めることや、a3 のポーンが落ちないようにするという狙いがあります。ただし、すぐに15. b5 とする手も可能で、15... Bxa3 16. bxc6 bxc6 17. Qa4! で白はc6 ポーンを落として勝負できます。黒としてはc6 を先に守っておき、a3 は長期的なターゲットと考える選択もあるでしょう。
15... Bxf6 16. b5 Bg4!
g7 にナイトを退いた形では、Bc8-Bf5 からの交換がオーソドックスなアイディアですが、ここでは黒は早めにダブルビショップになったことを利用し、白マスビショップの交換は保留しておきます。f6 でのビショップナイト交換により、f6 に上がったビショップがe5 を守っているため、白はNf3-Ne5 ができません。黒はここに目をつけ、f3 のナイトを消すか追い返すかして、白のキングサイドの守りを薄くし、c6 もついでにアタックされづらくしておきます。
17. bxc6 bxc6 18. Nd2 Be7!
堅いd4 をいつまでも当てておくよりも、Bf6-Be7-Bd6 と組み直したほうが黒マスビショップは使いやすいことは、Tartakower を紹介した際のゲームでも確認しています。このゲームではf3 のナイトを追い返し、h2 の守りを弱めているため、このビショップの組み直しはなおさら有効です。
19. a4 Bd6
白は19手目でa3 を狙われないようにaポーンを突き直し、これで大まかなポーンストラクチャーが確定しました。GM Baburin の解説によれば、白がa4 までポーンを伸ばしたことで、Nc3-Na4-Nc5 というアウトポストを目指すナイトのマヌーバリングチャンスは消え、黒は必要に応じてBd6-Bb4 とbファイルを閉じて白のクイーンサイドのアクションに対応できるとのことです。マイノリティーアタックへの対応がイマイチつかめず、いつもクイーンサイドを突破されて簡単に負けてしまうという人には、こうした黒のディフェンスのアイディアは参考になると思います。
20. Rfe1?!
後の展開を考えるのであれば、これが緩手だったと個人的には思います。Tartakower で見た20. e4!? のアクションは有効で、再び白からポーンストラクチャーの変化とナイトの働きやすさを求めて勝負するべきでしょう。
20... Qg5! 21. Rb6 Nf5!
マイノリティーアタックらしいクイーンサイドとキングサイドの攻め合いですが、f3 のナイトを退かせたうえで、ここまでピースが働けるのであれば、黒はダイレクトな白キングへのアタックチャンスで楽しみがありそうです。ピンを利用したNf5-Nxd4 のポーン取りのスレットがあるため、白はなんらかの対応をしなければいけませんし、当然c6 も取れません。
22. Bxf5 Bxf5 23. Qc1 Rac8 24. Na2 Qd8!
白マスビショップも貰い、あらためてダブルビショップvs. ダブルナイトの構図になった黒は、丁寧にクイーンサイドをカバーしにいきます。24. Rxc6 Qd7 ならばcファイルを奪ってa4 を落とし、黒十分でしょう。
25. Rb3 c5!
あまり早くやりすぎるとd5 が大きな負担となりやすいこのアクションも、ダブルビショップを持ち、cファイルも先に抑えてクイーンをターゲットにできるのであれば、躊躇することはありません。通常白の拠点となるクイーンサイドをあっという間に黒が支配し、ゲームはすぐに終わりです。
26. dxc5 Bxc5 27. Rc3 Bd6 28. Rxc8 Qxc8 29. Nb3 Qa6 30. Qd2 Rb8 31. Nd4 Bd7 32. Nc3 Qc4 33. Ndb5 Bb4 34. Rc1 Rc8 0-1
20年以上前のゲームですが、Exchange Variation のアイディアが多く学べると思い、ご紹介しました。次はNge2 からセンターでアクションを起こす変化をご紹介します。