Photo by Hasegawa
今日は神保町の三省堂書店本店で開催された、みすず書房主催の『ボビーフィッシャーを探して』 刊行イベント、盤上の冒険者たちに出席してきました。前半のスケジュール、14時から15時までは、羽生さんと訳者の若島さんの対談です。京都大学の教授で、詰将棋、プロブレム作家としても有名な若島さんとは、今回が初対面でした。
1時間の対談では、本の中身にはほぼ触れず、羽生さんがチェスの局面をどのように考えるかや、若島さんが詰将棋やプロブレムとどのように出会い、どのように局面を作っているかという話が中心でした。羽生さんの「ロジックで考えるだけでなく、パズルのピースのように、ひとまずアイディアを置いて、全体像をなんとなくイメージする」という表現は、私にとってとても印象的でしたね。対談の内容については、これから他の将棋ブログで、詳しく紹介される記事が出ると予測します!
このイベントで司会を務めてくださった赤田さん、ありがとうございました。羽生さんと若島さんに対し、「チェスやプロブレムと出会い、何を感じたか」という最初の投げかけだけで、最後まで2人が喋り続けたのは少し面白かったですね(笑) どこかで赤田さんから、また問いかけが飛ぶかと思いましたが、1時間の対談はあっという間でした。
第1部の対談に引き続き、第2部は15時過ぎから羽生さんと私の対局です。第1部のラストで色を決めて、私が黒と決まりました。写真は対局開始直前に「試合前のお気持ちを」と問われて答えるところ。
「緊張しています(笑) 今回お越しくださった皆さんの中には、チェスの試合をほとんど見たことがない、もしくは初めて見るというかたもいらっしゃると思います。そういった皆さんに、チェスって面白そう!と思ってもらえるように頑張ります。」 少し違いますが、こんな感じですかね。
そして対局スタートです。持ち時間は10分+1手30秒という、かなり珍しいものです。1.d4 がくるような私の予感は見事に外れました。
Habu, Y (FM, JPN, 2415) - Kojima, S (FM, JPN, 2356)
Looking for Bobby Fischer Event
1. e4 c6 2. d4 d5 3. e5 Bf5 4. Nf3 e6 5. Be2 c5!?
前回のトレーニングでは、よりソリッドな
5... Nd7 を試しましたが、今日は少しリスキーなラインを試してみることにしました。
6. Be3 Qb6 7. Nc3 Nc6 8. O-O Qxb2 9. Qe1 cxd4 10. Bxd4 Nxd4 11. Nxd4 Bb4 12. Rb1
私も試合中に気にしていた
12. Ndb5!? は、最近、Caruana も指したということで、ピノーさんのおススメでした。
12... Qxc3 13. Rxb4 Qxe1 14. Rxe1 b6 15. Bb5+ Kf8 16. Nxf5 exf5 17. Ra4!?N
お互い研究通りに進み、黒は1ポーンアップ。しかし、キングサイドのルークの展開をが遅い、やや危険なポジションに到達しました。ここで羽生さんが指した手はなるほどと思いましたが、完全に新手だったようです。aポーンを長期的なターゲットとし、黒のピースを縛ります。
17... a5?!
いくつかの読み抜けがあり、aポーンを進める間違った決断をしてしまいました。
17... Ne7 18. Ba6!? Rb8! (検討で羽生さんに指摘された手で、私の頭にはありませんでした。)
19. Rd1 g5!= これならば、黒は不満なく戦えるでしょう。
18. Rb1 のつもりだったと羽生さんはおっしゃっていましたが、a7 がすぐに取られないならば、
a7-a5 は単に1手かけて、b6 を弱めるのみでした。
18. Rb1! Ne7 19. Bd3 g6?!
この2つ目のミスで、黒は相当厳しくなります。
19... Nc6! 20. f4 Rb8 21. Bxf5 Ke7+/= これならば、白がやや指しやすいものの、黒はルークの侵入を許していない分、本譜よりも苦しくはないでしょう。
20. Rxb6 Kg7 21. f4!
冷静な1手だと思います。e5 のポーンを守りつつ、バックランクメイトを消し、ゆっくりとポジションの改善を目指します。
21... Ra7 22. Rb5 Rha8 23. Kf2 Kf8 24. Ke3 Ke8 25. Rb6 Nc8 26. Rc6 Kd7 27. Bb5 Ke7 28. Rd4 Kf8 29. c4 dxc4?
ここまで苦しいながらも粘って指していた分、最後はもったいないミスでした。
29... Ne7 30. Rf6 dxc4 31. Bxc4 Ng8 32. Rfd6+/- ならば白優勢ですが、決め手を作り出すのは、まだ時間がかかりそうです。
30. Rd8+ 1-0
対局中、近くではピノーさんによる大盤解説が行われていました。聞き手は、プロブレム作家ながら、ほとんどチェスは指したことはないという若島さんです。ピノーさんは競技からは遠ざかりながらも、アイディアは豊富で、局面を分析する力はまだまだ素晴らしいことを示してくれました。最新のゲームも多く研究しているようで、頭が下がります。
対局後には、羽生さんと私も大盤の前に出て解説を行いました。重要なポジションでタイムアップになってしまったのは残念でしたが、いつもと雰囲気の違う検討戦でとても新鮮でした。さらには、会場となった三省堂さんからは、イベントの記念として花束をいただいています。ありがとうございました!
最後の打ち上げの席では、競技のチェスだけでなく、プロブレムの世界についても、若島さんから色々と話を伺うことができました。若島さんがかつてプロブレムの世界選手権で解いたという問題を、2人で本気を出して考えますが、良いところまで解けている感触は掴みながら、最終的にキングを捕まえるアイディアが分かりません。出題されたのは、以下のポジションです。(関係ないですが、羽生さんはやはり眼光が鋭いですねw)
White to move and win
難しいです! 若島さんいわく、ヒントは若島さん自身は解けたこと、らしいですが、全くヒントになっていません(笑) これは羽生さんと私が、宿題としてお持ち帰りです。もちろん答えが分かった方は、コメント欄へどうぞ。エンジンでのチェックは無しでお願いします。
今回のイベントを開催するにあたり、主催のみすず書房を始め、会場となった三省堂書店、司会を務めてくださった赤田さん、大盤解説を務めてくださったピノーさん、電子ボードの管理や、イベント全体へのアドバイスをくれた尚広くん、電子ボードを快く貸して下さった田畑さん、カメラウーマンを務めてくれた長谷川さん、そしてメインゲストの羽生さん、若島さんたちには、深く感謝致します。そしてもちろん、本日会場にお越しくださった80名以上の将棋、チェスファンの皆さん、ありがとうございました。今回のイベントを楽しんでいただき、今後、なんらかの形で、チェスと関わるきっかけとしていただければ幸いです。本当にお疲れ様でした!