今月は珍しく、羽生さんから2回目のトレーニングの誘いがあり、2週連続で羽生さんと会うことになりました。前回の2局目も長かったですが、今回も解説のやりがいがあるゲームができましたので、初めて2回に分けてトレーニングの記事をお届けしようと思います。
この日は珍しく、私が白でのスタートでした。どちらから始めても、結局は白黒1局ずつ指すので変わらないようにも思えますが、午前のゲームを白で勝てるかどうかは、午後のゲームの気分に繋がってきます。それにしても、プレーの力強さに匹敵する、羽生さんのチョイスによる引きの強さには感心します!(笑)
Kojima, S (FM, JPN, 2397) - Habu, Y (FM, JPN, 2415)
Training (1)
1. d4 d5 2. c4 e6 3. Nc3 c6 4. e3 Nf6 5. Nf3 Nbd7 6. Qc2 Bd6 7. Bd3 O-O 8. O-O dxc4 9. Bxc4 b5 10. Be2
Training (1)
ハンガリーのIM トーナメントでは、10. Bd3 だけを指して白星を重ねてきましたが、Karpov たちが愛したクラシカルなセットアップも勉強してみようと思い、e2 までビショップを退くことにします。e2 のビショップはf3 のナイトを守ることで、c6-c5 からのa8-h1 のダイアゴナルオープンに備え、dファイルを開いてRf1-Rd1 の邪魔をしないようにします。
10... Bb7 11. Rd1
11. e4 e5 12. dxe5 Nxe5 13. Nd4 Neg4 14. g3 Bxg3 15. hxg3 Qxd4 16. Qd1 Qxd1 17. Rxd1 去年、羽生さんと1試合指したこのポーンサクリファイスの変化も、まだまだ白が戦えると思います。この変化に羽生さんが何を用意していたか、聞き忘れたことは少し後悔しました。
11... Qb8!?
あまりSemi-Slav に詳しくない人には馴染みのない手だと思いますが、ときどき指される手です。b8 のクイーンは、あえてcファイルを外しておくことで、白がRa1-Rc1 などとルークを回してきたときに、クイーンがターゲットにならないようにしておき、逆にRf8-Rc8 などとルークを使って、白のクイーンを狙う手も考慮しておきます。しかし、a8 のルークを使えるのが遅れるため、それが短所にならないように気を付ける必要があります。
12. e4 e5 13. dxe5 Nxe5 14. h3!? Ng6?!
羽生さんは14. g3 を研究していたようで、f4 を私が抑えなかったことで、このナイトのマヌーバリングが可能になると思ったようです。しかし、検討でも話をしたのですが、このアイディアは黒にとって良くないと考えられます。なぜならば、f4 のコントロールばかりに気を配ってクイーンサイドに手を付けなければ、a8 のルークとb7 のビショップが使えないままで、苦しい中盤戦を迎えてしまうためです。
15. Bg5! Nh5 16. Nd4 Nhf4 17. Bf1 h6 18. Bxf4 Bxf4 19. Nf5+/=
私はこのポジションは、すでに白が良くなったと思いました。黒は手数をかけて黒マスビショップをナイトと交換し、ダブルビショップを得ましたが、白はその間にナイトを理想的なf5 のマスに運んでいます。5段目に侵入し、追い返される心配の少ないナイトは、黒のダブルビショップに十分に対抗する働きをしているでしょう。
19... Re8 20. g3! Bc7 21. Bg2
白はビショップを組み直してe4 へのカウンタープレーを防いでおき、将来的なc6 への攻撃も見据えておきます。
19... Ne5?!
白のナイトに対抗するためには、黒もナイトを前へ! と考えてしまいそうですが、ここはナイトを交換しにいくのが正確なディフェンスです。それでも白は、オープンファイルをルークで素早く支配することで、アドバンテージをキープできるでしょう。21... Ne7 22. Rd7 Nxf5 23. exf5+/=
22. Rac1 a6 23. Nd5! Bd8?
ビショップを返してしまうのは指しづらい手ですが、黒はそうするほかありません。23... cxd5 24. Qxc7 dxe4 25. Nd6 Qxc7 26. Rxc7 Red8! (d6 のナイトはピンになっているため、ピースは取り返せます。しかし、見えづらい1手であることは間違いありません。) 27. Rxb7 Nc4 28. Rxf7 Nxd6 29. Re7+/=
24. Nf4! Bb6 25. Nh5!+-
白は黒が白マスビショップをアクティブする暇を与えることなく、5段目に侵入したナイトの力によって勝負を決めます。キング前が崩壊した黒はどうしようもなく、この先は特に解説は必要ないでしょう。
25... Rd8 26. Nhxg7 Bc8 27. Rxd8+ Bxd8 28. Qd2 Bg5 29. f4 Qb6+ 30. Kh2 Bf6 31. Nh5 Nd7 32. e5 1-0
短い手数ではありましたが、ビショップとナイトの働きについて考えることのできる、好ゲームだったと思います。
お昼ご飯はイタリアンに行って、この日も色々な話をしてきました。日本でのチェス、海外での将棋、今年開催予定のイベントのこと、来月のリアル車将棋のこと、などなど。毎回トレーニングで会ってたくさん話をしますが、話題は尽きないですね。それにしても羽生さんは勉強熱心で、本当に頭が下がります。午後に指した2局目はとても長かったため、また数日後の記事で、あらためてご紹介します。
Vol.2 に続く
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