2011/10/12

Complicated King's Indian

先日のJapan Open から解説を一つ書かせていただきます。この試合は相手が唯一2000未満ということもあり、さらっと流した人が多いかと思いますが、King's Indian の理解をするためのアイディアが詰まっています。

Kojima, S (2369) - Usuba, H (1859)
Japan Open 2011 (2)

1. Nf3 g6 2. e4 Bg7 3. d4 d6 4. c4 Nf6 5. Nc3 O-O 6. Be2 e5 7. O-O Nc6 8. d5 Ne7 9. b4


King's Indian 対策は私が長く頭を悩ませてきたテーマですが、現在は一番人気のBayonet を採用しています。

9...Ne8!?



この手は最もロジカルな手ではありませんが、激しい攻め合いを望むならばありえる選択肢です。9...Nh5, 9...a5 が普通です。

10. a4!? f5 11. a5 f4?!



おそらく薄葉さんは、ほとんどKing's Indian を指した経験がなかったのではないでしょうか。やや勉強不足がうかがえる手です。
確かに黒はキングサイドのポーンを固めて攻撃することが多いですが、それは十分e4に圧力を掛けてからの話です。
以下に示してあるのが私が研究していた試合で、本譜と似た流れになりますが、白は重要な1テンポを得ています。

11... Nf6 12. Nd2 (白はe4のポーンを守るためにナイトを退きます。ここでナイトを退かせるのが、黒としては重要なアイディアです。) f4 13. c5 g5 14. g4 h5 15. h3 Ng6 16. f3 Kf7 17. Kg2 Rh8 18. Rh1 Rh6 19. Ba3 Bf8 20. Rc1 Be7 21. Nc4 Qf8 22. Nb5 Ne8 23. Qb3 Bd7 24. Nxc7 Nxc7 25. cxd6 Bxd6 26. Nxd6+ Qxd6 27. b5 1-0 Van Wely,L (2622)-Yanayt,E (2207)/Las Vegas 2009

12. c5!


白はc4-c5,Nf3-Nd2-Nc4 と組んで、d6に圧力をかけるのが普通です。
しかしここでは白はe4への圧力がすでにないため、ナイトを急いで退く理由がありません。
そこでナイトは一時的にf3に残し、黒にg6-g5 を指させないようにします。

12...h6


黒がg5を突くためにはこの一手が必要ですが、それが上記の試合に比べて1テンポロスになります。
King's Indian のこのような形ではスピードが勝負、無駄な一手が命取りになります。

13. Nd2 Nf6 14. Nc4 g5 15. g4! Ng6 16. f3 Rf7 17. Ba3 Ne8



攻め合いに持ち込むために17... h5 がベターだと考えます。

18. b5 Bf8 19. Qb3 Rh7 20. b6 a6 21. bxc7 Qxc7 22. h3!?



コンピュータは22. Rfc1 で白勝勢を示しますが、私はここで一手ディフェンスの手を入れておきました。
黒がhファイルを開いて攻撃を仕掛けてきた場合、白もルークをhファイルに回してルーク同士をぶつけるつもりです。

22... h5 23. Kg2 hxg4 24. hxg4 +/-



すでに白の優位は確実です。d6への圧力、Nc3-Na4-Nb6 など、白にはクイーンサイドからの攻撃が多数あります。
それに対し、黒のキングサイドアタックは十分ではなく、決死のピースサクリファイスも成功しません。

24...Bxg4? 25. fxg4 f3+ 26. Bxf3 Nf4+ 27. Kf2 Rh2+ 28. Ke3 Nh3 29. Rh1 Qf7 30. Ne2 Rxe2+ 31. Kxe2 Nf4+ 32. Ke3 dxc5 33. Nxe5 Ng2+ 34. Bxg2 Qf4+ 35. Ke2 Qxe5 36. d6+ 1-0


King's Indian はキングサイドのポーンをとりあえず伸ばせば良い、というような簡単なオープニングではありません。研究と実戦からの理解が求められる、複雑なオープニングです。それでも(それゆえ?)何十年もの間、多くのチェスプレーヤーを惹きつけてやまない魅力を持っており、今日も世界のどこかで激しい攻め合いが行われています。

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