昨日の予告通り、5R の南條 - Lalic戦の棋譜を公開しておきます。昨日の記事の最後に追記しようかとも思っていましたが、せっかくなので今夜の記事のメインで扱います。南條くんは白を持ち、クロアチアのベテランGM Lalic Bogdan に挑みます。
Nanjo, R (CM, JPN, 2307) - Lalic, B (GM, CRO, 2491)
Cappelle la Grande 2014 (5)
1. e4 e5 2. Nf3 Nf6!?
Cappelle la Grande 2014 (5)
Petrov Defence は黒が1. e4 に対して、丁寧にイコアライズを目指すオープニングとして、トップGM たちにも好まれます。もし、このオープニングでドローを確保することができるのであれば、黒は1. e4 をあまり恐れなくても良いでしょう。しかし、格下相手に勝ちにいこうとした場合、適切なチョイスであるかはやや疑問です。
3. Nxe5 d6 4. Nf3 Nxe4 5. Nc3
私も1. e4 を指していた時代、Petrov に対してどうアドバンテージを取りにいくかには、多少頭を悩ませました。5. d4 d5 5. Bd3 Be7 と進むメインラインは、ポーンが対称形であるために、白がアドバンテージを築くには多少の工夫が必要です。そこで近年は、この5. Nc3 からナイトを交換しにいき、ダブルポーンを作ってもポーンストラクチャーを非対称にする変化が、白で勝ちにいくには良いチョイスだと考えられています。(もちろん、メインラインはメインラインで勉強になることが多いため、1. e4 プレーヤーは一度は調べてみるべきだと思います。)
5... Nxc3 6. dxc3 Be7 7. Be3 O-O 8. Bd3
南條くんの中にはPetrov 対策のレパートリーもあると思いますので、この手も研究済みなのでしょう。私であれば、8. Qd2 からまずはキャスリングを済ませておき、黒の駒組みを見て白マスビショップの位置を決めたいところです。
8... Nd7 9. Qe2 Nc5 10. Bxc5 dxc5 11. O-O-O Bd6 12. Rhe1 g6
黒は白マスビショップを展開したいところですが、Qe2-Qe4 が、b7 取りとh7 メイトのダブルスレットになるため、先にそれを防いでおきます。
13. Kb1 Bg4 14. h3 Bxf3 15. Qxf3 Rb8
この辺りで、私はLalic の考えが大体わかりました。彼はすでにドローで満足するつもりなのでしょう。Petrov というオープニングチョイス、そしてダブルビショップを消しても、異色ビショップを残すという判断で、すでにドロー狙いであることが分かります。早々にオファーをしないのは、カペルでは20手未満の合意ドローが禁止されているためです。(今年もそうですよね?)
16. h4?
南條くんは勝つためにシャープなポジションを求めるプレーヤーですので、このポーンサクリファイスをするのも理解できます。しかし、このポジションではやや焦りすぎで、センターに先にルークをまわしていること、白のビショップのほうが相手キングを狙いやすいことを利用して、丁寧にゲームを進めるべきでしょう。16. Bc4 Kg7 17. Re3+/= ぐらいで、まだ白にわずかなアドバンテージがあると考えられます。
16... Qxh4! 17. Re4 Qg5 18. Rh1 h5 19. Reh4 f5!=/+
g2-g4 からhファイルをこじ開けるアイディアさえ防げば、オープンになったhファイルからの攻撃はさほど怖くありません。単純ですが、Lalic の冷静な判断です。
20. a3 c6 21. Be2 Kg7 22. Qd3 Rbd8 23. g3 Be7 24. Qc4 Qd2 25. R4h2 b5 26. Qe6 Qd6 27. Qe3 Bf6 28. Bf3 Rfe8
10手少し前までは、ルークによってセンターのオープンファイルを支配していたのは白でしたが、今は完全に立場が逆転しています。白はルークをhファイルから戻すしかなく、1ポーン分の不足を補って戦うのは難しい状況です。
29. Qc1 b4 30. axb4 cxb4 31. Rd1 Qc5 32. cxb4 Qxb4 33. c3 Rxd1!?
Lalic はクイーンを交換したエンドゲームに持ち込めば、すでに勝ちだと踏んだのでしょう。確かに白はルークの位置が悪く、粘るのは難しそうに見えます。
34. cxb4 Rxc1+ 35. Kxc1 Rb8 36. Kc2
ここは、36. Bxc6 Rxb4 37. f3 (この2段目を開くアイディアで、黒の37... Rc4+ をうまく防いでいるように見えますが...) 37... Be5! 38. f4 Rc4+ 39. Rc2 Rxc2+ 40. Kxc2 Bd4! (狙いはBd4-Bf2 からg3, f4 のポーンを取ってしまうこと) と進めても、黒勝ちでしょう。
36... Rxb4 37. b3 c5 38. Bd5 a5-+
ルークが消えていればまだしも、この2ポーンダウンのエンドゲームは白にとって絶望的です。
39. Rh1 f4 40. gxf4 Rxf4 41. f3 Rd4 42. Be4 c4 43. Rb1 c3 44. Bd3 Rh4 45. Be4 Rh2+ 46. Kd3 h4 47. Ra1 Rd2+ 48. Ke3 h3 49. Rxa5 Bd4+ 50. Kf4 h2 51. Ra1 c2 0-1
GM たちを相手にドローを続けていた南條くんですが、4戦目で力尽きました。それでも不正確なポーンサクリファイスは、強気に勝負にいった結果であることを考えれば、さほど悪くはないかもしれませんね。南條くんは次になぜか1600台との試合ですので、ここをさっくり勝って、また上を相手に奮闘してほしいと思います。今夜の試合が終われば、カペルも2/3 を消化したことになります!
ちなみに昨日、日本勢の全敗をなんとか食い止めたのは小林くんです。フランスのIM に白で勝ち、上に連勝となりました! その小林くんが、南條先輩の敵を討つべく、今日はLalic に挑みます(笑) なぜ日本人と連続で当たるのかと首をかしげているであろうLalic から、ポイントを取ってきてほしいですね。
そしてこの大会中、Lalic のFacebook 投稿で知ったのが、Chess Microbase というサイトです。このサイトではアカウントを作れば、pgn を入力して棋譜のビュアーを表示することができます。無料アカウントは100ゲームまでしか入力できないようですが、それでも十分でしょう。私も今後、こちらのブログで公開した棋譜を、Chess Microbase でも見られるようにしておこうかと思います。今日解説を書いた南條 - Lalic 戦は、以下のリンクから見ることができます。
10 件のコメント:
往年の力はないとは言え、名前の知られたGM相手にポーンを捨ててまでアタックするというのはアンビリーバブル!
それにすでに駒の数が限らてしまった局面ではなおさらのようですが・・・
これが彼のスタイルなんですね。
GMが彼をリスペクト(?)したようなゲームだったから、ちょっと残念でしたけど。
これからに期待です。
しかし、カぺルのペアリングは訳分からんな~
人前でチェックメイトとか気軽に言えないデンジャラスな世の中・・▽o・~・o▽ 気をつけよう暗い夜道とblunder
特攻するなら 9.h4としてNc5ならBxh7 Kxh7 Ng5+ といった手もあったのでは・・▽o・~・o▽謎
すいません全然ダメみたいです・・ o・~・o
本当は19手目に g4 としたいのでしょうけれど h4 と逃げられて Qh3と取り返しにいくとRfe8とぶつけられて Qxh4 Qxh4 Rxh4にc4が効くため終わってしまう・・ というのはCOM山COM吉先生に教えてもらいました▼o・~・o▼ 汗
Keres65 さん
久々のコメント、ありがとうございます! Lalic は一時は2600を超えるレイティングでしたからね。現在は2400台まで落ちてはいるものの、実力は間違いなくあるはずです。多少省エネ(?) のようなチェスになるのも、若い頃のようにはいかないからなんでしょうかね。
カペルのハンデは細かいですからね。1500と2500が当たるのも見たことがあります(笑)
匿名さん
今日ニュースを見ていて、ようやく意味を理解しました(笑)
なかなか難しいゲームですが、私は強いプレーヤーほど、ディフェンスがうまいものだと思います。駒を守りきるだけではなく、駒を返しても優位な(もしくは満足な) ポジションにするというのも、ディフェンスのテクニックでしょうかね。
これ、20手目の20.a3 c6 の応酬まで説明しないと難しいと思う。
実際、20.Qd5+ Kg7 21.g4 という変化を考えてたら、黒には二つの反撃
(...Rfe8...Qxh4からのバックランクメイト)と(...Rbd8からの...Bg3)がある。
強く攻撃するための攻めのa3で、...b5等で攻めれるけど、技を使わずに抑える堅実なc6。
とんでもなく難しいけど、ネックになるのはh4のルックが負担に成っている事だと思う。
なので、20.a3 c6 21.Qd3 Rd8 22.Rh3!? というのはどうだろう? (...Bg3回避にもなる)
22.Rh3 Qg2 23.Bf3 Qxf2 という局面になると人間的にはかなり難解な気がする。
より攻めっ気を出すなら、20.Qd5+を先行させるんだろうけど、それだと牙(5thランクの攻防)を露呈するのが嫌で(あやを残すためというべきか)、20.a3を先行させたんだと思う。いや、分からんけど。
違うわ…それだとg4つけないから、...Qxg2こない場合…h4を守りつつだから…
20手目に遡って…g3-f4 Qg2, ...Qd2 ... ... ... バタン
もう、16手目くらいの局面でa3指して、今後のバックランクメイトに気をつけました。とか言われても納得するレベル。
検討戦参加や、対局したいな…。
R.T さん
また色々と分析をありがとうございます。
検討は自分でした試合を振り返るのが一番ですので、やはり対局の機会が増えると良いですね。また何か大会にご一緒できるのを楽しみにしていますよ。
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