今日は2つほど、大会のレポートです。まずは27日、28日の参宮橋のオリンピックセンターで開催された、学生選手権の結果から。今年は例年メインとなっている東大、慶應、上智、東北からだけでなく、チェスサークルのない大学からも多くの参加者が集まり、44名の大盛況となりました。2000オーバーも4人というレベルの高い争いを制したのは、慶應2年の小林くん。5R で篠田くんとドローにした以外、残りの5戦を勝ち切りました。私が麻布の引退を間近に控えた高校2年生の春、チェス部の新入部員として出会った小林くんが、現在は大学生のチャンピオンとは、時の流れの早さを感じます。小林くん、おめでとう!
1st Place 小林厚彦 5.5/6 (D 篠田)
2nd Place 佐藤要 5/6 (L 小林)
3rd Place 中村尚広 5/6 (D 阿部、多賀)
昨年のチャンピオン佐藤要くんは、4連勝後に小林くんに痛い負け。惜しくも3回目となる学生チャンピオンの座を逃しました。まだまだこの辺りの世代は、来年以降も学生選手権で面白い戦いを見せてくれるでしょう。2014年も後輩たちの成長を見守りつつ、彼らとのゲームを楽しみにしておこうと思います。
1年生で争う新人賞は、優勝が岸川くん、2位が平館くん、3位が福谷さんという結果でした。1年生が初参加の学生選手権で、勝ち越しというのは立派な戦績ですね! 来年からは、後輩たちも指導していかなければいけないので大変だとは思いますが、彼らには引き続き頑張ってもらいたいと思います。
続いて、昨晩から注目が集まっている、ポーランドの大会へ。
2013/12/27-01/04 XXIV International Chess Festival CRACOVIA'2013, Gr-A
ポーランドで久々のFIDE 公式戦に参加中の羽生さんは、1,2 R で2100台に勝ち。順当なスタートを切っています。2R のゲームは羽生さんらしい力強いプレーでしたので、簡単にご紹介しておこうと思います。
Habu, Y (FM, JPN, 2404) - Ulanowski, K (POL, 2144)
XXIV International Chess Festival CRACOVIA'2013 (2)
1. e4 c5 2. Nf3 d6 3. d4 cxd4 4. Nxd4 Nf6 5. Nc3 a6 6. Bc4!?
XXIV International Chess Festival CRACOVIA'2013 (2)
アメリカのRobert James Fischer が愛したSozin Variation は、Najdorf の変化の中でも非常にシャープになるでしょう。近年の研究と統計では、黒が十分だと示されていますが、実際に指してみればやはり難しいラインです。
6... e6 7. Bb3 Be7 8. O-O O-O 9. f4 b5 10. Be3 Qc7 11. Kh1 b4!?
c3 のナイトを追い払えば、e4 のポーンの守りがなくなるので、黒はこれを取れそうに見えます。しかし、展開で勝る白は、f4-f5 から強力なキングサイドアタックを絡めることで、ポーンの代償を取れるでしょう。黒が安全に指すのであれば、11... Bb7 という手はありうるでしょう。
12. Na4 Nxe4 13. f5 d5?!
白マスビショップのダイアゴナルをカットする手として非常にナチュラルに見えますが、ここから白は完全に流れを掴みます。コンピュータでチェックした示した変化で13... e5! 14. Bd5 exd4 15. Bxd4 Bb7 16. Nb6 (16. Bxe4 Nd7=) 16... Nd7! 17. Nxa8 Bxa8 18. Bxe4 Bxe4 19. Qg4 Nf6 20. Bxf6 Bxg2+ 21. Qxg2 Bxf6 ならば、黒は十分に戦えるという評価です。しかし、本譜の13... e5 は白マスビショップのダイアゴナルを開くため、黒としては指しづらい一手でしょう。
14. fxe6 fxe6 15. Rxf8+ Kxf8
15... Bxf8 16. Nxe6! Bxe6 17. Bxd5+- このようなタクティクスは、両者にとって要チェックです。
16. Qg4 Qd6 17. Rf1+ Nf6 18. Qh3+-
白は黒キングのディフェンスを弱めたうえで、非常に攻撃的なピースの配置となっています。1ポーンアップとは言え、クイーンサイドのピースの展開を完全に遅らせてしまった黒が、このポジションを耐えるのはかなり苦しいでしょう。
18... Nc6
18... Kg8 19. Bf4! Qd8 20. Nxe6 Qd7 21. Re1+- これも抑えておくべき変化で、h7 を守ろうとキングを戻しても、別の重要なポーンが落ちるだけです。
19. Nb6 Nxd4 20. Bxd4 Rb8 21. Qxh7 Kf7 22. c4!!
今朝、このゲームを並べ直していて一番気になった手です。じっくりじっくり考えなければ、この手の狙いには気づけないですし、試合中、盤上で思いつくのはかなり難しいでしょう。
22... Rxb6
黒はエクスチェンジを捨てて厄介なナイトを取り除きにいきますが、白はこれで駒得ならば満足な流れでしょう。それでは一番気になるポーン取りではどうでしょうか。22... bxc3 23. Bc2! (c2 にビショップの退くマスを作ることが、22手目の最大の狙いです。) 22... Ke8 24. Qh8+ Bf8 25. Nxc8 Rxc8 26. Ba4+! (b3 のビショップが、c2-g6 とa4-e8 のダイアゴナルを柔軟に切り替わり、黒キングを攻めたてます。) 26... Kd8 (26... Kf7 27. Bxf6 gxf6 28. Qxf6+ Kg8 29. Qg6+ Kh8 30. Rf7+-) 27. Rxf6! gxf6 28. Bxf6+ Kc7 29. Be5+-
このクイーン取りで勝負ありです。22手目のc2-c4 は、Bb3-Bc2-Bg6 からのキングへのアタックと、本譜に出るc4-c5 のポーンフォーク、そしてcxd5 からのセンターポーンの破壊の3つの狙いがある、非常に深いアイディアですね!
23. c5 Qc6 24. cxb6 Qb5 25. Rf2
エクスチェンジアップしたうえ、相手キングにいまだ強いプレッシャーをかけている白が勝つのは、もはや時間の問題でしょう。
25... Qc6 26. Bc2 Ke8 27. Qxg7 e5 28. Bxe5 Ne4 29. Rf7 Qc5 30. Ba4+ 1-0
下手をすればb3 から何もできなくなってしまうSozin の白マスビショップを、最大限に働かせた素晴らしいゲームでした。ちなみに羽生さんの対戦相手は1997年生まれ、初戦では2400台を破っている、ポーランドでも有望なジュニアプレーヤーです。
今日は1日2試合のスケジュールですが、ライブページがエラーで止まり、羽生さんのゲームがチェックできません。2番ボードでGM Heberla と激突した羽生さんは、早々にエクスチェンジを捨てて勝負に出たようですが、結果はどうなるでしょうか。ライブページの回復と、結果の報告を待とうと思います。
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