2018/10/07

Batumi Olympiad Closing Ceremony and Departure


とある日の日本チーム

2週間に渡るバツミでのチェスオリンピアードも幕を下ろし、各々帰路につきました。私は予定通りブダペストに到着し、今日からまた新たな試合を始めます。その前に今回のオリンピアードの総括や、最終日の試合後の様子などをお届けしたいと思います。

最終戦でチュニジアを接戦で下した日、ホテルに戻ったのは17時頃です。この日は11時からの試合だったため、ホテルの昼食時間設定が難しく、14時から17時までと聞いていました。実際はもう少し伸びたようですが、私と妻はせっかくならということで、有料でも別のホテル内のレストランを利用してみることにしました。


この日になってようやくお目にかかることができたのが、ジョージアの名物料理、ヒンカリです。平たく言えばジョージア風小籠包ですね。ジョージアでは、先日食べたチーズ入りパン、ハチャプリと並び、お土産屋さんのマグネットなどで見かけるほどポピュラーな料理です。こちらのレストランではバツミでもここだけという、かわいいスモールサイズがたくさん! 他の皆が別日に食べたのはこぶし大だったそうですので、全く対照的です。


ステーキもどーんとこのサイズ! レストラン自体はカジノを見下ろす高級感溢れる空間で、他の前菜、デザートもつけて2人で6000円台でした。日本やアメリカで、この質のステーキを食べようと思った場合、信じられない価格です! ジョージアの物価は素晴らしいですね。


食事が終わってからは、再びバスの移動で閉会式へ。開会式同様の場所でやるのかと思いきや、連れてこられたはオペラハウスです! オリンピアードの閉会式というよりも、パーティーに来たような感じですね。


中は吹き抜けになっており、3階席では音楽隊が鮮やかな音色を奏でています。オペラ席に入れるようになるまでまだ時間があったため、集まってきた選手たちはワインや軽食を片手に、話に花を咲かせます。かつてブダペストで対戦したスウェーデンのWesterberg は、2つ目のGMノームを獲得したとここで聞きました。彼ももう立派なスウェーデン代表の一人です。


さらにこの時間で優勝チームも見つけ、撮影会に混ぜてもらいました。オープンは4年ぶりに中国が王座を奪還です! 最終戦はアメリカとの直接対決で、全てのボードがドローとなり、タイブレークでの僅差の勝利でした。今年のトーナメント中、骨折をして一時戦線離脱したDing Liren は、杖を突いてプレーに参加しながらも、無敗記録を伸ばしており、今大会も見事に中国の1Bを務め切っています。


女子も中国が優勝で、今大会は中国強し! と言う他ないトーナメントでした。中国女子はHou Yifan を欠くメンバーで優勝するとは、大会前は予想できませんでした。次回大会でHou Yifan が戻ってくることがあれば、中国女子はさらに盤石となるでしょう。オープン女子ともに中国が優勝候補筆頭で、他の国が打倒中国を掲げるという時代が来つつあるかもしれませんね。


開会式同様、大分遅れましたが、それでも今大会を締めくくる閉会式がスタートしました。最初はやはりプロのダンサーがジョージア衣装に身を包んで登場します。


続いてチームをレイティングで区切った、カテゴリー別の表彰です。私たちが所属するカテゴリーCの一つ下、カテゴリーDでは、私たちが苦戦したアフガニスタンが金メダルを獲得しました。私の対戦相手は2400台にも勝っており、明らかに2000台のレベルではありませんでした。


そして日本が激戦を繰り広げたカテゴリーCの優勝は、GM Matamoros 率いるエクアドルで、日本は僅差の2位でした。最終戦、コロンビアに私たちは祈りを捧げましたが、エクアドルはそんな格上コロンビアを一蹴し、優勝を決めました。最後、私たちはミャンマーとチュニジアに勝り、カテゴリープライズのチャンスはあると思ったいただけに、エクアドルに競り負けたのは悔しいですね。次回はまた表彰台に上がれるチャンスを作れるよう、頑張りたいと思います。


全体の1-3位を除くカテゴリーAの優勝(実質、全体の4位) は、ポーランドが獲得しました。5年前、池田惇多くんと話をしていて、ポーランドにDuda という若いGM が出てきたと話題に上がったことをよく覚えています。そんなDuda は現在ポーランドのNo.1 で、今大会のポーランド躍進にも欠かせない存在となりました。アメリカを9Rで破り、10Rで中国に負けるまでは、ポーランド優勝もありえましたからね。


全体の1~3位が呼ばれる間に、ボードプライズの表彰式が行われます。男子の3B金メダルは、南條くんとも対戦したペルーのJorgi Cori です。ペルーは今大会、チームでの戦いをほぼ捨てて、Coriにメダルを取らせるような戦いをしていたようです。7連続で白をもらったCoriは、7.5/8 という戦績での金メダルでした。南條くんが最もポイントを取るチャンスを作ったかもしれません。


そして全体のトップ表彰は女子からです。先述の通り、トップは中国。そして毎大会安定して強いウクライナと、ジョージアが続きました。Nino Batsiashvili が新たにGM タイトルを獲得し、層の厚みを増したジョージアでしたが、10Rでチェコと引き分けたのが痛手でした。


オープンは中国、アメリカ、ロシアの順でしたが、この3チームはどれも8勝1敗2ドローでマッチのポイントは並んでおり、タイブレークの僅差で1-3位の明暗が分かれました。最後までどこの国が優勝するかわからず、今年のオリンピアードのトップ争いは実に面白かったと思います。スター軍団で連覇を狙ったアメリカは、Nakamura Hikaru がまさかの1勝しかできない絶不調だったのが誤算だったでしょう。しかし、中国はLi Chao が初戦負け、Kramnik も初戦負けと波乱の幕開けでしたので、そんな中でぐいぐい上がってきたこの3チームは、本当に強かったと思います。表彰台に上がったすべてのチーム、そして選手に惜しみない拍手を送りたいと思います。おめでとうございます!

さて、ここまでの記事では全くと言って良いほど上位争いには触れることがなかったため、チェックしていなかった人にはいきなり情報がどどどっときて戸惑うことと思います(笑) それほど今大会は私も日本チームのこと以外に触れる余裕がなく、こうして振り返りでようやく情報をお届け出来ました。前回大会に続き、通信手段は当然のことながら選手はカメラも持ち込み禁止で、大会会場やグッズブースの写真などもほとんどお見せすることができなかったことも、申し訳なく思います。


そろそろ、私たち日本チームの話題に戻ることにしましょう。日本は11Rを戦い、女子チームは4勝6敗1ドロー、スタート順位から少しだけダウンの102位でのフィニッシュでした。後半の5Rで、5Bの美鈴にしか勝ちがつかず、他の4人が勝てずに失速したのは少し残念でした。それでも格上のICCD を破り、2人が勝率50%以上でWCM の資格をゲットし、さらには5人中4人がレイティングを上げるという戦績は立派なものだと思います。1Bの華怜もレイティングは微減ですし、最後の結果次第でどうなるかわかりませんでした。また皆さん力をつけて、次のオリンピアードに臨みましょう!

Japan Women Team Final Results


一方で、オープンチームはカテゴリーCの優勝こそ逃したものの、全体では6勝4敗1ドローの58位フィニッシュは、日本オープンチームの過去最高戦績です。前回のバクー大会で68位の過去最高でしたので、連続での記録更新は素晴らしい結果だったと思います。IBCA、ミャンマー、チュニジアと、日本よりもスタート順位が上のチームに競り勝てたことが要因でしょう。負けたマッチでも、全員GM のアルメニア、オーストリア、ペルー相手に誰かはポイントを取り、ストレート負けを防ぎました。私の知る限り、11R戦ってストレート負けが1回も無かったオリンピアードは、今回が初めてです。また下位チームに取りこぼすことがなかったことも、当たり前かもしれませんが大切なことです。

Japan Open Team Final Results

個人の話に移ると、南條くんだけはオープンチームでレイティング微減ですが、それでも11Rをフルに戦い、安定した戦績を残してくれました。(本人はCori戦で負けたのが不服そうですが) 4年前に見せた爆発力を本人も周りの皆さんも知っているだけに、彼には期待が集まると思いますが、オリンピアードのようなチーム戦では大きく崩れないことも大切だと私は思っています。 私、南條くんと並ぶ同じ88年世代の山田くんも、前回のバクー大会に続いて好成績を残し、20以上のレイティングを稼ぎました。IBCA戦、アフガニスタン戦の彼の勝利はチームを救い、チームの最終順位に繋がっています。

18年ぶりのオリンピアード参加となった松尾さんは、序盤は黒が多く集まり苦戦しましたが、ペルー戦では日本チーム久々&今大会唯一のGM戦勝利、続くミャンマー戦でも白星を上げ、ベテランとしての底力を見せてくれました。12年ぶりの高校生代表の大多和くんも、最終戦ではピースを捨てる怪しい展開ながら、ねじりあうようなゲームを制し、チュニジアを下す要因となった貴重な勝利を挙げてくれました。どのラウンドで誰が抜け、どういった試合数を振り分け、カラーバランスをどうするか。オープンチームはMisha を交えて色々と議論がなされ試行錯誤しましたが、その結果として上手い具合のチーム編成となり、各々が結果を出せたのではないかと思っています。

最後に私個人のことですが、6勝2敗3ドローの4つ勝ち越し、レイティングパフォーマンス2500超えは、日本の1Bのプレーヤーとして過去最高の戦績でしょう。それ自体は喜ばしいことですが、GMノームを目標にするのであれば、これで満足はしていられません。思えば4年前、南條くんが1Bで2450を超えるパフォーマンスを残し、IM ノームを獲得して日本チェス界は大いに沸きました。しかし4年たった今、私も南條くんもIM タイトルを獲得していますので、IM ノームの戦績を残すことに意味はありません。過去に目標として、達成して喜んでいたものが通過点となり、それより大きな目標に向かうのが当たり前になる。それこそが私たちが成長していることの証だと思います。日本チームの58位という記録も、将来的にはそれくらいは当たり前、もっと上を目指すのが当然、となると良いですね。


Goodbye Batumi!

最後になりますが、このオリンピアードに至るまで、そして開催期間中、支えてくれた妻や友人たち、チームメイトの皆さん、そして2週間に渡って観戦と応援をしてくださった日本のチェスファンの皆さんに、この場でお礼を申し上げたいと思います。これで今年のオリンピアードの記事はすべて終わりです。私は今日からブダペストでまた試合をスタートさせますので、そちらの様子も引き続きチェックしてくださると嬉しいです。

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