2019/08/31

麻布学園チェス部夏合宿2019


今年も母校麻布学園のチェス部夏合宿に、コーチとしてお邪魔させていただきました。今回の合宿地は茨城県の潮来(いたこ) です。合宿の開催地として連絡を貰うまで、読み方も知りませんでした。都内からの移動は高速バスと電車がありますが、便の本数と所要時間からバスのほうが便利だと言えます。東京駅の八重洲口から高速バスに乗り、28日朝に潮来へと向かいました。

潮来で有名な場所と言えば、JR 潮来駅すぐ近くのあやめ園でしょう。5-6月のあやめまつりシーズンには、園内にあやめの花が咲き誇り、多くの観光客を楽しませるそうです。あいにく観光シーズンは外れていましたが、合宿所のホテルに到着前にあやめ園を少し散策することができました。あやめ園の脇を流れる川には時期によって遊覧船が出ますし、少し足を延ばせば、日本第二の大きさを誇る湖、霞ケ浦もあるので、水辺が好きな人にとっては色々と楽しめる場所だと思います。


今年の夏合宿は新入部員の中1が9人参加と、ここ数年でも比較的多く、全体でも久々に30人を超える大所帯でした。そこでいつもと違い、最初は中1を中心とした低学年向けの基礎レクチャーを行い、後で上級生を合流させて合同のレクチャーを行いました。基礎の内容は、ポーンストラクチャーから考えるポーンや他のピースの働き、手の作り方などです。


Chess Composition by Pal Benko
White to move and Mate in three

上級生を入れてからのレクチャーはゲームを並べたり、エンドゲームをやったりと色々ですが、最初のウォームアップはこちら。合宿2日前に残念ながら亡くなったPal Benko の有名な作品です。白番で3手メイト、ご存じない方は是非チャレンジしてみてください。当てずっぽうだと時間をかけてもなかなか解けないので、しっかりと最終図を推測すること、そこに至る方針を絞ることが大切です。白マス黒マス両方のコントロールが綺麗な問題ですね。


Botvinnik, M - Donner, J
Amsterdam 1963
White to move

並べたゲームのうちの1つはこちら。有名なゲームではありませんが、各所にBotvinnik の素晴らしいアイディアが登場します。ゲームのテーマは一応マスのコントロールのつもりでしたが、序盤から細かく説明していくと1局終わるので1時間以上かかりますね。初日は昼食と夕食の間、そして夕食後併せて6時間半くらいレクチャーを行いました。


夜のレクチャー後、自主的にブリッツ大会を始める中学生たち。本当にタフです。


一夜明けた翌日は恒例の同時対局です。合宿によっては初日の夜にやることもありますが、それだと私がばて気味なので2日目のほうが私としてはありがたいです(笑) 今回は30面だと多すぎて午前中に終わるかわからないため、低学年はミスの出にくいようにペアを組んでもらい、22面まで減らしました。松山くん、小柴くん、牛山くんには少し無理なプレーをして敗れましたが、他の19面は勝ち、19勝3敗でした。この夏合宿で部長の松山くんを含め、高2は引退して高1が最高学年になりますが、高1以下の部員たちも皆、力をつけてきていると思います。9月のチーム選手権は私も参加しますので、こちらの大会でも後輩がどういったプレーをするか、楽しみにしています。

2019/08/26

Vienna Open 2019 R9


左から2位のGM Palac, 1位のGM Valsecchi, 3位のBick

11日間のウィーン滞在中に行われたVienna Open も一昨日最終戦が行われ、無事に閉幕しました。最終戦、イタリアのGM Valsecchi が、0.5P リードで逃げ切りを図るアメリカのBick Gabriel を破り、7.5/9 での単独優勝を決めました。伏兵Bick が上位者を複数破る波乱を起こしたことで、最後まで優勝争いが分からない面白い大会でした。入賞者の皆さん、おめでとうございます!

1st Place Valsecchi Alessio (GM, ITA, 2494) 7.5/9
2nd Place Palac Mladen (GM, CRO, 2551) 7/9
3rd Place Bick Gabriel (USA, 2375) 7/9

Vienna Open 2019 Final Standings


Valsecchi は前半戦、私との試合も含めて白で下に3連続ドローでした。やや調子は上がっていないのかと思いきや、私との試合以降は3連勝での逆転優勝です。まだ若いですし、これからも伸びるGM でしょう。またオリンピアードで再会できることを楽しみにしています。アメリカのBick も、IM タイトルを跳ばしてGM タイトルを取りそうなので、今後も要注目のプレーヤーですね。続いて私の試合解説へ移ります。

Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Suta, A (SLO, 2268)
Vienna Open 2019 (9)

1. Nf3 d5 2. d4 Nf6 3. c4 e6 4. Nc3 Be7 5. Bf4 O-O 6. e3 Nbd7 7. a3 c5 8. cxd5 exd5?!



この6... Nbd7 の変化に対しては、昨年のモンテネグロから7. a3 を試していますが、8手目の時点ですでに試合がほとんどありません。通常黒は、8... Nxd5 9. Nxd5 exd5 10. dxc5 Nxc5 と進め、早めにf6 のマスをビショップのために空けておきます。

9. dxc5 Nxc5 10. Be2 Be6 11. O-O Rc8 12. Rc1 Nfe4 13. Be5!


基本通りのプレーで、e5, d4 の重要な2マスを抑えます。この黒マスビショップは、交換してしまって何ら問題はありません。

13... Bf6 14. Bxf6 Qxf6 15. Nd4 Nxc3 16. Rxc3 Ne4 17. Rxc8 Rxc8 18. Bd3



cファイルを一時的に明け渡しても、c2 のマスさえがっちり守っておけば怖いことは無いでしょう。それよりもマイナーピース交換が進めば、d4 のアウトポストを抑えるナイトを黒は消しづらくなり、白としては楽なプレーができるようになります。d4 のナイトさえキープできるのであれば、ナイトvs ビショップの勝負にしても良いでしょう。

18... Nd6 19. Qb1 g6 20. Rd1


ここは少し迷いましたが、cファイルではなくdファイルにルークを回します。ルーク交換はいつでもできるため、一度dファイルにルークを置いておき、d5 へプレッシャーをかける作戦です。

20... Bg4 21. Rd2 Qd8 22. h3 Bd7 23. Ne2!



d4 のマスはナイトにとって絶好の位置ですが、ずっとここにいてはd5 へのプレッシャーが不十分です。タイミングを見てナイトをc3, もしくはf4 に切り替え、黒の最も目立つ弱点を攻めにいきます。

23... Rc5 24. Nf4 Qc8 25. Rc2


試合中は、ここでルークを交換してもd5 への攻撃は十分早く、黒にとって負担になるものだと考えました。代わりに25. Rd1 とルークを退き、d5 へのプレッシャーを残しておきつつ、c1 を守るアイディアもあったようです。

25... Rxc2 26. Bxc2 Be6 27. Qd1 Qc5 28. Bb3 Nc4 29. Qc2 Qb6 30. Qc3



私が試合を決めにいくために必要だと思ったのは、d5 へのアタックに加えてもう1つ、a1-h8 の黒マスダイアゴナルの利用です。b2 のポーンへの反撃を抑えつつ、黒キングに目を向けます。

30... Qd6 31. Qf6 b5 32. h4!


黒キングにさらにとどめのプレッシャーをかけにいく存在がhポーンです。h6 まで伸びれば、g7 でのメイトが黒にとっては受けづらくなります。

32... Qc6? 33. Bxc4!



どこでビショップナイト交換をするか、29手目以降常に悩んできましたが、ここまで引き延ばしてベストのタイミングで行えました。ここで焦って33. h5? とすると33... Nd2! からNd2-Nxb3 と、Qc6-Qc1, Nd2-Nf1+ の反撃があり、面倒です。そこでナイトを消してしまい、黒の反撃をシャットアウトしてしまいます。

33... dxc4 34. h5 Bd7 35. Qd4!


当然白はクイーン交換を避け、黒キングへのアタックを残します。

35... gxh5 36. Nd5! Kf8 37. Qh8# 1-0



全く無駄なくメイトに仕上げ、最終戦を白星で締めくくりました。メイトを避けても、e7, f6 の2つのマスでのナイトフォークがあるので、白の勝ちです。海外トーナメントでの無敗フィニッシュは実に久々でした。

8/17 15:00 R1 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Lytvynets, D (UKR, 2117) 1-0
8/18 10:00 R2 Kokoszczynski, J (POL, 2198) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 1/2-1/2
8/18 17:00 R3 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Makynovskiy, R (AIM, UKR, 2178) 1-0
8/19 17:00 R4 Steindl, J (AUT, 2277) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 0-1
8/20 17:00 R5 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Blohberger, F (IM, AUT, 2467) 1/2-1/2
8/21 17:00 R6 Valsecchi, A (GM, ITA, 2497) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 1/2-1/2
8/22 17:00 R7 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Diermair, A (GM, AUT, 2473) 1/2-1/2
8/23 17:00 R8 Bakhmatsky, V (IM, UKR, 2442) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 1/2-1/2
8/24 10:00 R9 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Suta, A (SLO, 2268) 1-0

最終順位はメンツを考えれば上出来の17位で、レイティングも中国、台湾、東京で6月から落とした分を取り戻し、2400に復帰します。こっそり大会前、目標は20位以内と言ってたのが叶って嬉しいですね。さらには久々にIM ノームに届くパフォーマンスが出せましたので、これが安定して出せればレイティングも2400中盤へ、そしてGM ノーム獲得も手が届くのではないかと思っています。

今回、上記の通りに負けなしで9試合を乗り切り、自分の目指している負けない手堅いチェスが形になりつつあるのではないかと思っています。ただし、有利なポジションでプランが分からず、勝ちを逃しているゲームも少なくないので、その点は反省してもっと勝ちのチャンスを増やせるようにしていかなければいません。

一方でBクラスに出場していた妻も、最後は勝ち、ドロー、ドローの5.5/9 フィニッシュで、自身のベストレイティングを大きく更新します。下1人、上8人という厳しい当たりで2つ勝ち越しは、こちらも上出来と言えるでしょう。また2人で次のトーナメントも頑張ろうと思います。応援してくださった皆さん、ありがとうございました!


ウィーン最後の夕飯はスペアリブの人気店へ。ウィーンのお店で出されるスペアリブは、どこもその大きさに驚かされます。そしてすでに焼き上げられらブロック肉を皿に盛ってくるだけなので、飲み物より早く席に届きます(笑)


夕飯後は予約していたコンサートのため、地下鉄を乗り継いでシェーンブルン宮殿へ。途中、工事区間があって予想より遅い到着になってしまいましたが、それでも20時の閉園前に宮殿を見ることができました。次回訪れた際は、奥に広がる広大な庭園も回りたいですね。


シェーンブルンのコンサートはオペラあり、バレエありと豪華なものでした。公演中はシャッターが切れないのでその様子がお見せ出来ませんが、公演前の会場の写真だけでも、その豪華さと雰囲気が多少はお伝えできると思います。照明も落とす点けるだけでなく、場面に合わせて様々な光のグラデーションを奏でていました。

2019/08/24

Vienna Open 2019 R8


昨日は、かの有名なウィーンのケーキ店、デメルへと足を運んできました。ウィーンにはデメルとカフェ、ザッハーというザッハトルテ人気店が2つあり、好きな人は両方の店を食べ比べるとのこと。デメルのザッハトルテは昨年、ウィーン空港で乗り換えの際に試していたので、この日は違うキャラメルのケーキにしました。私はザッハトルテよりも、こちらが好みです。

トーナメントもいよいよ終盤、8R を迎えました。この日の相手はウクライナの若きIM Bakhmatsky です。ここまで5勝2敗で、彼の攻撃的チェスをどう捌くかがゲームの鍵になるかと思いましたが、蓋を開けてみれば少し予想外なゲームの流れになりました。

Bakhmatsky, V (IM, UKR, 2442) - Kojima, S (IM, JPN, 2390)
Vienna Open 2019 (8)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. e5 Bf5 4. Nf3 e6 5. Be2 Ne7 6. O-O Bg6!? 7. Nbd2 c5



Caro-Kann Advanced Variation には何を指すか色々と試していますが、2年前に馬場さんに指したラインを復活させることにしました。上手くいけば黒は簡単に手堅く、満足なポジションを手に入れることができます。

8. c4 cxd4 9. Nxd4 Nec6 10. N2f3 dxc4 11. Bxc4 Be7 12. Qa4!?


11手目までが私の準備で、b8 のナイトの展開をどうするか以外、黒には大きな問題がすでに無いと判断できそうです。その最後の問題も、本譜の流れではすぐに解決できました。

12... O-O 13. Rd1 Qa5 14. Qxa5 Nxa5



こうしてクイーンを交換してしまえばすでに脅威はなく、c6 のマスも続いてもう1つのナイトのために空けられます。14... Qb3!? とクイーンを退く手もゲーム中は考えていました。

15. Be2 Rd8 16. Bf4 Nbc6


ここをどうするかは中盤の1つの鍵で、Nd4-Nb5-Nd6 が脅威になるかを判断する必要があります。慎重に進めるならば、16... a6 もありえますが、私はd6 のナイトはここまで捌けていれば問題にならないと考えました。

17. Nb5 a6 18. Nd6 Rd7 19. Bd2



a5 のナイトに行き場がないことを利用したアイディアで、次にb2-b4 が狙いになります。f7-f6 を警戒し、互いにdファイルにルークが重なる展開も、もう1つの可能性として考えていました。

19... f6


こうしてd6 のナイトの足場を崩すアイディアで、a5 のナイトへの攻撃に対処します。

20. Nc4 Nxc4 21. Bxc4 Bf7



少し前の段階では、21... Kf7 と指すつもりでしたが、Rd1-Re1 とルークをeファイルに振られた際に上手いディフェンスのプランがないことに気付き、作戦を変更します。白マスビショップは一時的なパッシヴですが、さほど大きな問題にはなりません。

22. Bc3 Rad8 23. Rxd7 Rxd7 24. a3 1/2-1/2


イコールポジションで相手からオファーされ、これを受けて試合を終わらせました。この4試合連続ドローの中では最も大人しく、どちらかに形勢が傾くことなく終わりましたね。2400台から4連続ドローというのは、初めての経験かもしれません。

8/17 15:00 R1 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Lytvynets, D (UKR, 2117) 1-0
8/18 10:00 R2 Kokoszczynski, J (POL, 2198) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 1/2-1/2
8/18 17:00 R3 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Makynovskiy, R (AIM, UKR, 2178) 1-0
8/19 17:00 R4 Steindl, J (AUT, 2277) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 0-1
8/20 17:00 R5 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Blohberger, F (IM, AUT, 2467) 1/2-1/2
8/21 17:00 R6 Valsecchi, A (GM, ITA, 2497) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 1/2-1/2
8/22 17:00 R7 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Diermair, A (GM, AUT, 2473) 1/2-1/2
8/23 17:00 R8 Bakhmatsky, V (IM, UKR, 2442) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 1/2-1/2
8/24 10:00 R9 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Suta, A (SLO, 2268)

Vienna Open 2019 R9 Pairings
Vienna Open 2019 R9 Live Games

4連続ドローで少し当たりが弱まり、最後はスロベニアの2200台が相手です。スロベニアのプレーヤーとは、おそらく初対戦となります。久々の下相手ですし、最後はなんとか勝って大会を締めくくりたいところですね。ちなみに私のいる5.5/8 グループは、36人もひしめき合っています(笑)

Aクラスのトップ争いは面白く、私とドローだったイタリアのGM Valsecchi が、その後連勝でトップボードまで上がっていきました。相手は今大会、ここまで単独トップに立つアメリカのBick Gabriel です。Bick の名前はここ最近、First Saturday などのノームトーナメントで見かけていましたが、ここまでGM 2人に勝ちを含む6勝2ドローと、とんでもない強さを見せつけています。すでにBick のGM ノームは確定していると思いますが、そこに逃げ切り優勝の大きなおまけがつくか、Valsecchi がそれに待ったをかけるか、とても興味深い最終戦になりそうです。


この日は私も妻も早めのドローで時間があったため、Museum通りに夕飯前に出てきました。こちらのミュージアムクオーターの先に目当てのものがあります。


ミュージアムクオーター先の広場で、野外チェスです! 到着翌日に仲良くなった韓国人のチェス関係者の投稿でこちらの催しを知り、覗きに来てみました。20時半という遅い時間にもかかわらず、通りがかったチェスファンや、大会の参加者がプレーに興じていました。

2019/08/23

Vienna Open 2019 R7


奥に見える建物が、試合会場となっているウィーン市庁舎です。

ウィーンに到着してから、試合会場のウィーン市庁舎に隣接するRathauspark では、Film Festival が開催中です。ここ数日、歩ける範囲は各方面行ったと思っていましたが、市庁舎のすぐそばは死角でした。様々な飲食店が出ていますが、レストランで食べるのとさほど値段も変わらず、良心的です。冬はクリスマスマーケットで賑わうウィーンですが、夏にもこうした催しがあると嬉しいですね。

この日の相手はオーストリアの代表にも入ったことのあるGM Diermair です。ここまで私と同じ3勝3ドローですが、ドローは全て下相手で、まだ上とは1試合も当たっていません。本調子とは言えないGM 相手に白で勝負のラウンドです。

Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Diermair, A (GM, AUT, 2473)
Vienna Open 2019 (7)

1. Nf3 Nf6 2. c4 b6 3. g3 Bb7 4. Bg2 g6 5. b3 Bg7 6. Bb2 O-O 7. O-O c5 8. Nc3 Na6 9. Rc1 e6



Queen's Gambit Vienna Variation か(ウィーンの大会だけに)、Semi-Slav かと予想していましたが、相手は全くデータベースにないオープニングをチョイスしてきました。このダブルフィアンケットの変化は近年人気で、昨年のFirst Saturday でもIM Anishimov に指されています。その試合は9... d5 だったので、ここで外れました。

10. d4 Rc8?!


驚くようなミスで、Diermair の不調が分かります。ここは10... d5 とすべきだったでしょう。

11. Nb5! Ra8 12. Nd6 Bc6 13. d5!?



ナイトを潜り込ませた白は、イニシアチヴのためにポーンを捨ててみることにします。私としてはGM 相手に思い切った決断でした。

13... exd5 14. cxd5 Nxd5 15. Bxg7 Kxg7 16. e4


Queen's Indian のd4-d5 サクリファイスのラインのように、白はd7 のポーンを抑え込んで代償は十分にありそうです。

16... Nf6 17. Qe2



ここはシンプルに17. Ne5 でも良かったかもしれませんが、c6 のビショップを取りにいくのはもう少し後にしようと思っていました。

17... Nc7 18. Rfd1 Nfe8 19. Qb2+


私は考えなかったですが、コンピュータの提案は19. Nc4 と退く手でした。確かにe8 のナイトをパッシヴにしたまま、dファイルを開いてd7 を攻撃し、Nc4-Ne5 を見せておくのは理にかなっている気もします。

19... f6 20. e5 Ne6 21. b4! Rb8 22. Nxe8+ Qxe8?



黒のアイディアは、Bc6-Bxf3, Ne6-Nd4 で、これが決まるとc5 を崩す準備を進めていても、ポーンの代償は不十分になりそうです。22... Rxe8 23. Rd6 ならば、f6 への攻撃でNe6-Nd4 を遅らせ、難しいポジションで勝負できると思っていましたが、本譜では完全に白が良くなります。

23. exf6+! Rxf6 24. Ne5! Nd4 25. Rxd4!


Diermair はこれを見落としていたのでしょう。エクスチェンジを捨ててポーンを取りかえし、その後でエクスチェンジを取りかえします。

25... cxd4 26. Qxd4 Rc8 27. Ng4 Qe6 28. Bxc6?!



しかし、ここが問題のポジションでした。エクスチェンジを取りかえして駒数をイコールにできることが確定した白ですが、時間ぎりぎりまで考えても、アドバンテージを取る方法が分かりませんでした。最初は28. b5 Bb7 29. Rd1! Rc7 30. Bxb7 Rxb7 31. Rc1 くらいで白良しかと思っていましたが、黒には白の手に関わらず、28... Bf3!? というアイディアがあることに気付きます。これで白にチャンスがあるのか自信が持てなくなってしまいました。実際には28. a4 Bf3 29. Rxc8 Qe1+ (29... Bxg4 30. h3!) 30. Bf1 Bxg4 でも、孤立のdポーンとa7 を狙って白良しのようです。

28... Rxc6 29. Rxc6 dxc6 1/2-1/2


このクイーンエンディングはドローにしかならないことは、28手目を指す時点で分かっていました。相手からのドローオファーを受けて試合を終わらせます。28手目が重要だと認識しながら、ベストの手が分からなかったのはまだ実力不足ですね。

8/17 15:00 R1 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Lytvynets, D (UKR, 2117) 1-0
8/18 10:00 R2 Kokoszczynski, J (POL, 2198) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 1/2-1/2
8/18 17:00 R3 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Makynovskiy, R (AIM, UKR, 2178) 1-0
8/19 17:00 R4 Steindl, J (AUT, 2277) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 0-1
8/20 17:00 R5 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Blohberger, F (IM, AUT, 2467) 1/2-1/2
8/21 17:00 R6 Valsecchi, A (GM, ITA, 2497) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 1/2-1/2
8/22 17:00 R7 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Diermair, A (GM, AUT, 2473) 1/2-1/2
8/23 17:00 R8 Bakhmatsky, V (IM, UKR, 2442) - Kojima, S (IM, JPN, 2390)
8/24 10:00 R9

Vienna Open 2019 R8 Pairings
Vienna Open 2019 R8 Live Games

次はウクライナのIM Bakhmatsky との対戦です。4連勝の後連敗、7R を勝っての5Pで、私とは対照的なポイントの取り方です。黒番ですが、ここを負けずに乗り切り、最終戦を迎えたいですね。


4日連続で夕飯はベトナム料理です。店員とも完全に顔なじみになりました。こちらはブンチャーヨー(Bun Cha Gio)という米麺の一種で、一昨日試してお気に入りになりました。ブンは米の細麺で、日本でよく知られる平麺のフォーよりも、ベトナムではポピュラーとのことです。東京でも食べられる店を探してみたいですね。

2019/08/22

Vienna Open 2019 R6


VOLKSinn から少し進んだ大通りはMuseum通りと名付けられ、その名が示すように美術館が並んでいます。その1つである美術史美術館にあるカフェは、世界で最も美しいカフェとの呼び声が高く、昨日はそこに足を運んでみようかと思っていました。しかし、カフェがあるのはチケットを購入して入場するエリア内とのこと。せっかく美術館に入るならば、試合が終わって時間ができる24日以降にしようということで、名物カフェはまたのお楽しみです。


美術館を離れ、向かったのはウィーン歌劇場、いわゆるオペラです。この日は場所の確認だけのつもりでしたが、日本語も喋れるチケット売りのおじさんのトークに乗せられ、24日夜のコンサートチケットを2人分購入してみました。その会場はここではなく、(おじさん曰く)ウィーンで最も美しいシェーンブルン宮殿のようです。カジュアルな格好でも大丈夫だと言われましたが、本当でしょうか...

さて、ウィーンでの試合も折り返しの5R を終え、昨日から後半戦がスタートです。この日の相手はイタリア代表のGM Valsecchi でした。イタリアのGM と言えば、ベテランのGodena、若手のBrunero、そしてまだジュニアのMoroni Lucas Jr などが思い浮かびますが、これからはValsecchi の名前もしっかり覚え、ゲームもチェックしてみようと思います。そんな彼も今大会は黒で下に3勝、白では下に2ドローと、やや調子は上がってきていません。チャンスだと思い、試合に臨みました。

Valsecchi, A (GM, ITA, 2497) - Kojima, S (IM, JPN, 2390)
Vienna Open 2019 (6)

1. Nf3 d5 2. g3 g6 3. Bg2 Bg7 4. O-O e5



初手は1. e4 もしくは1. c4 を予想していましたが、見事に裏切られました。King's Indian Attack 対策は去年の遠征時から試行錯誤し、現在はGrunfeld セットアップに落ち着いています。Ng8-Nf6 を遅らせることで、本譜のように早いe7-e5 を実現します。白はこれが嫌であれば、c2-c4、もしくはd2-d4 を指さなければいけませんが、それであればGrunfeld の変化に入り、KIA からは外れます。

5. d3 Ne7 6. Nbd2 O-O 7. e4 Nbc6 8. c3


私が白で指すのであれば、8. Re1 h6 9. exd5 Nxd5 10. Nc4 Re8 11. Bd2!? を試すかもしれません。これは黒がc7-c5 を突いていないものの、現在人気のあるFianchetto King's Indian に対しての組み方です。

8... a5 9. a4 h6 10. Re1 d4!?



少し迷いましたが、eファイルを開かれてe5 にプレッシャーをかけられる展開を避けるため、ポーンをぶつけてみることにします。10... Be6 11. exd5 Bxd5 がメインラインで、これでも白は簡単にNd2-Nc4 ができないため、黒はOK でした。

11. cxd4 Nxd4


11... exd4 からb4 のアウトポストにナイトを送り込み、勝負する展開もあったでしょう。しかし、私は本譜の流れでd3 が弱点として残ると判断し、d4 にはポーンを残さないことにします。

12. Nxd4 Qxd4 13. Nb3



13. Nf3 Qd6 もありえる展開です。これであれば、黒はBc8-Bg4 からビショップナイト交換を狙い、d4 のアウトポストを将来的に使いやすくする作戦で戦うつもりでした。

13... Qd6 14. Be3 Rd8


c5 のマスは少し気になるものの、ビショップ、ナイトのどちらが来ても問題ないことを確認して、d3 へのプレッシャーを増やしておきます。

15. Rc1 Qxd3?!



ここまでは良かったのですが、シンプルにポーンに跳びついた手がイマイチで、完全にドロー模様になってしまいます。黒が勝ちを目指すのであれば、d3 は長く弱点として残しておくべきでした。15... Nc6! 16. Rc3 Nb4 17. Qd2 Kh7 18. Rd1 は白がd3 を守り切れていますが、負担であることは間違いありません。d3-d4 をどこかで許すと完全にイコールかと思っていましたが、それも簡単ではないようです。

16. Qxd3 Rxd3 17. Nc5!


この手を見落としていたため、d3 を単純に取る手が黒良しになると勘違いしてしまいました。17. Rxc7? Rxb3 18. Rxe7 Be6-/+ ならば、b7 を守りながらb2 を攻撃するb3 のルークが好位置で、はっきりと黒が優勢でした。15. Rc1 はこの変化に入ると思い込んだのが私のミスです。

17... Rd8 18. Nxb7! Bxb7 19. Rxc7 Bc6



ナイトを捨ててb7 を取る手が白のアイディアで、これでポーンを取りかえされてしまいます。こうしてポーンとピースの交換が進めば、完全にドロー模様のエンドゲームです。

20. Rxe7 Bxa4 21. Bf1 Bb3 22. Rc1 Rac8 1/2-1/2


最後は互いにドローオファーのタイミングを窺っていたような状態で、私から提案してゲームを終わらせました。2500近いGM に黒で簡単にドローは悪くない結果にも思えますが、d3,d4 を弱めた段階でもう少し作戦を練り、勝ちを目指すような展開にできなかったか、熟考すべきでした。

8/17 15:00 R1 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Lytvynets, D (UKR, 2117) 1-0
8/18 10:00 R2 Kokoszczynski, J (POL, 2198) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 1/2-1/2
8/18 17:00 R3 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Makynovskiy, R (AIM, UKR, 2178) 1-0
8/19 17:00 R4 Steindl, J (AUT, 2277) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 0-1
8/20 17:00 R5 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Blohberger, F (IM, AUT, 2467) 1/2-1/2
8/21 17:00 R6 Valsecchi, A (GM, ITA, 2497) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 1/2-1/2
8/22 17:00 R7 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Diermair, A (GM, AUT, 2473)
8/23 17:00 R8
8/24 10:00 R9

Vienna Open 2019 R7 Pairings
Vienna Open 2019 R7 Live Games

今日の対戦相手はオーストリアのGM Diermair です、初戦からポイントを落とし、下のボードをフラフラしていましたが、ようやく10番台まで戻ってきました。まだ本調子とは言えないと思いますので、しっかりプレーしてポイントを取ってきたいですね。


上のリンクからライブをご覧になっている人にとってはもうお馴染みかもしれませんが、このChess Results のライブ画面、プレー中の様子と局面が同時に分かって良いですね。昨日は最長で6時間近いゲームがあり、ルーク+ナイトvs. ルークで100手以上続き、ドローになっていました。

2019/08/21

Vienna Open 2019 R5


ウィーンは日本ほどのうだる暑さではないですが、それでも日中は汗ばむ陽気です。そんな中でも昼食を求めて昼過ぎには外へ。Volkstheater 出口で売られているホットドッグはこの大きさ! 妻の手が完全に隠れて見えません。


ヘルデンプラッツの無料水飲み場は、空のペットボトルを手にした観光客、ウィーン市民で列ができます。この日は少ししか水を持ってきていなかったので、助かりました。昨日までは近場のヘルデンプラッツ近辺の散策のみで、公共交通機関を使った移動は初日以降していません。試合が17時開始だとしても、あまり遠くまでの観光は難しいので、今日以降もどうするか悩むところですね。

さて、R5 の相手はオーストリア若手の強豪、Blohberger です。私もオリンピアードで2回対戦したヨーロッパの強豪国、オーストリアのU18 ランキング1位ですので、将来は代表入りも期待されているでしょう。彼の試合を調べて手堅いQueen's Gambit Ragozin でくることは分かっていましたが、早々に準備を外されました。

Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Blohberger, F (IM, AUT, 2467)
Vienna Open 2019 (5)

1. Nf3 d5 2. d4 Nf6 3. c4 e6 4. Nc3 Bb4 5. Bg5 h6 6. Bxf6 Qxf6 7. e3 O-O 8. Rc1 Nc6!?



この手はAsian Continental のブリッツ大会で、フィリピンのFM に指されてひどい負け方をした変化です。メインラインの8... dxc4 9. Bxc4 c5 に対して、こちらもじりじりと人気が上がってきているようです。

9. cxd5 exd5 10. Be2


試合後の検討で白が早々にビショップを返してもらった場合、10. a3 Bxc3+ 11. Rxc3 Ne7! と進むことを教えてもらいました。c7 のポーンを欲張って取ると、Ne7-Nc6 からルークがトラップされてしまいます。

10... Rd8 11. O-O Bf8 12. Na4 Bd6 13. Nc5 Ne7



c6 にナイトが上がる形は何度か指されたことがありますが、この理想的ではない位置のナイトをいつ、どうやって組み替えるかが黒のポイントになります。本譜では、黒は手数をかけてもビショップでc7 を守り、ナイトを組み替えます。すぐナイトを退く代わりに、13... a5 として白のb2-b4 を遅らせるのは私からの提案です。

14. b4 a5 15. b5 b6 16. Nd3 Ng6 17. a4 Qe7 18. Rc3 f6 19. Qc2 Qf7 20. Rc1 Be6 21. g3!


白が動くとすれば、ナイトをf4 に運んでピース交換を進めることだと思いました。g2-g3 はその準備で、黒は白マスが多少弱くなるのを避けられません。

21... Rd7 22. Nf4! Nxf4 23. exf4



検討では23. gxf4 Bg4! 24. Ng5 fxg5 25. Bxg4 gxf4 と進む変化を指摘されました。gポーンで取るアイディアは考えていませんでしたが、この流れであれば黒はエクスチェンジの代償がありそうです。

23... Re7 24. Bd3


白のアドバンテージは、b1-h7 のダイアゴナルコントロールと、f5, g6 の白マスの弱さです。24. Nh4 g5 25. Ng6 Ree8 26. Bh5 Qg7 27. f5+/= とナイトを先に跳ばす変化もありましたが、g6 から次のマスが無いのはやや不満で、本譜の流れでも私は満足です。

24... g5 25. fxg5 hxg5


25... fxg5 26. Ne5 Bxe5 27. dxe5 Rf8 28. Rc6+/= こうしてe5 のマスを活用できれば、白にはまた違ったアドバンテージが生まれます。

26. Bg6 Qg7 27. Re3! Bg4 28. Qc6?!



この試合、初めての白の緩手でした。白はルークをeファイルに重ねる単純ながら強力なプランがあり、これにどう対応するかがこの局面のポイントでした。ビショップが避ける手はd5 が弱くなり、それを突くにはクイーンが跳びこむ手がシンプルだと思っていましたが、正解は別にあります。28. Qb3! Rd8 29. Be4!+/- これがd5 を攻める最も効果的な手順で、黒は代償なくポーンを失います。

28... Rd8 29. Qxd5+ Kf8 30. Bf5


指した後でブランダーだったかと焦りましたが、他の手のほうがひどく、これしかありません。30. Bb1? Rxe3 31. fxe3 Qe7 32. Rf1 Qxe3+=/+, 30. Be4 Be6! 31. Qc6 Bf4! 32. Qc3 Bxe3 33. fxe3 e3 を取られるようであれば、はっきり黒良しになり、エクスチェンジを捨てる変化も白は嬉しくないでしょう。

30... Bh5?



ここは相手が時間切迫で、正しい手を逃がしました。30... Rxe3! 31. fxe3 Qe7! これがe3 を狙いつつ、d8 を守る素晴らしいアイディアです。 32. Bxg4! (32. Qe4? Qxe4! (32... Bxf5 33. Qxf5 Qxe3+ 34. Kg2 Qxc1 35. Qxf6+ Ke8 36. Qe6+ Be7 37. Qg8+ Kd7 38. Qd5+= このパペチュアルチェックは検討で確認しました。) 33. Bxe4 Re8-/+) 32... Qxe3+ 33. Kg2 Qxc1 34. Qf5!


Analysis Diagram

この手を検討で見逃しました。c2 のマスを抑えておけば、黒クイーンがチェックからディフェンスに戻れません。34... Qb2+ 35. Kh3 Kg7 36. Bh5 Rf8 37. Qg6+ Kh8 38. Qh6+= これでドローというのがお互いのベストです。28. Qc6 以降、互いがベストの手を指してこの変化に落ち着くため、やはりd5 をクイーンで取っても、白にアドバンテージはありませんでした。

31. Rce1 Rde8 32. Be6?!


ここはビショップでeファイルに蓋をし、a2-g8のダイアゴナルを抑え込んでしまうのが、黒のピースを窮屈にする良いアイディアだと思ってしまいました。代わりに32. Rxe7 Rxe7 33. Qa8+! この手を見落としたのが悔やまれます。 33... Be8 34. Rxe7 Kxe7 (34... Qxe7 35. Bg6+-) 35. h4!+/- こうしてルークを捌いてしまえば、白に十分勝ちのチャンスのあるエンドゲームでした。

32... Bf4!



g7 の狭い位置にいるクイーンが、まさかこんな手のサポートをするとは... 残り時間30秒で相手はよく見つけます。

33. R3e2 Bd6 34. Re3?!


ここで試合を続けて勝負にいくか悩みました。34. Kg2! Bb4 35. Rh1! Bf7 36. Bxf7 Qxf7 37. Qxf7+ Kxf7 38. Rc2+/= キングでナイトを守る手は見えていましたが、e2 のルークが一時的に浮き、eファイルのピンが負担になると思ってしまいました。実際にはe6 のビショップをアタックするアイディアは無く、白は1つのルークをeファイルから遠ざけても大丈夫です。

34... Bf4 35. R3e2 Bd6 36. Re3 1/2-1/2



序盤中盤の構想は上手くいき、アドバンテージを取ったはずでしたが、2つの勝負所が難しく、そこを間違えてドローに落ち着きました。勝てなかったのは悔しいですが、色々と勉強になるゲームで良かったです。

8/17 15:00 R1 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Lytvynets, D (UKR, 2117) 1-0
8/18 10:00 R2 Kokoszczynski, J (POL, 2198) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 1/2-1/2
8/18 17:00 R3 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Makynovskiy, R (AIM, UKR, 2178) 1-0
8/19 17:00 R4 Steindl, J (AUT, 2277) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 0-1
8/20 17:00 R5 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Blohberger, F (IM, AUT, 2467) 1/2-1/2
8/21 17:00 R6 Valsecchi, A (GM, ITA, 2497) - Kojima, S (IM, JPN, 2390)
8/22 17:00 R7
8/23 17:00 R8
8/24 10:00 R9

Vienna Open 2019 R6 Pairings
Vienna Open 2019 R6 Live Games

後半のR6 でようやくGM との対戦です! イタリアのGM Valsecchi は今回初めて聞く名前ですが、イタリア代表としてすでにオリンピアードでもプレーしているようです。残り4試合、なるべく上と当たるためにも、この大事な試合も負けずに乗り切りたいと思います。

Bクラスに参加している妻も、初戦負けの後は3連勝とドローで、ライブレイティングがベストを更新しました。残り4試合では少し厳しいかもしれませんが、1800を目指して頑張ってもらいたいですね。

2019/08/20

Vienna Open 2019 R4


この日から1日1試合、17時スタートのゆったりスケジュールになりました。試合前の散策で、近くのヘルデンプラッツへ。(Platz はドイツ語で広場の意味) 最も目を引く2つの像を見て、数年前に1人でウィーンを訪れた際も、ここに足を運んだことを思い出しました。奥に見える巨大な建物も含め、広場にはいくつかの美術館が点在しています。


巨大ナイト! 私と比べるとその大きさがよく分かります。


お土産屋さんには兵隊を模したチェスセットが売っていました。今回のウィーン滞在中、会場以外で初めてのチェスセット発見です。


ヘルデンプラッツには観光客を乗せた頻繁に馬車が出入りしています。後ろの席でワインや料理を広げている馬車もあり、そんなサービスも頼めるのだと驚きました。

さて17時からは大事な4試合目です。私の相手はオーストリアの20歳、Steindl となりました。Caro-Kann に対してFantasy Variation を使うことは分かっていたので、色々と調べてゲームに臨みます。

Steindl, J (AUT, 2277) - Kojima, S (IM, JPN, 2390)
Vienna Open 2019 (4)

1. e4 c6 2. d4 d5 3. f3 e6 4. Nc3 Qb6 5. a3 Nd7 6. Be3 Ngf6 7. Be2 dxe4 8. fxe4 Be7!?



7. Be2 はコンピュータ評価の高い手として私もチェックしていました。e3 のビショップをクイーンで取った際にチェックにならないようにすることで、次のe4-e5 の際にNd7-Nxe5 を防ぎます。これに対して私は、e6-e5 を急がずに様子を見るアイディアを用意していました。

9. e5 Nd5 10. Nxd5 exd5 11. Qc1?!


黒の2つの狙いであるNd7-Nxe5Qb6-Qxb2 を受けるには、この1手しかないように見えます。しかし、私はポーンアップよりもピースの展開を優先するため、b2 を取る気はあまりありませんでした。b2 を捨てる11. Nf3 のほうがバランスが良く、本譜では白クイーンが若干不自然な位置に行ってしまいます。

11... O-O 12. Nf3 f6!



10... exd5 の段階では、Nd7-Nf8-Ne6 のマヌーバリングが頭にありましたが、そんなことをせずともナイトと白マスビショップの位置を改善できるアイディアがありました。fポーンのぶつけからポーンストラクチャーをほぼ対象にしてしまえば、白の良い点は一切なくなります。

13. exf6


13. O-O fxe5 14. dxe5 Bc5 15. Bxc5 Nxc5 16. Qe3 Bg4=/+ この展開でも、白のe5 に残ったポーンはパスポーンとしての強みより、孤立ポーンとしての弱さが目立つでしょう。

13... Nxf6 14. O-O Ne4 15. Ne5 Be6 16. Bd3 Rxf1+ 17. Kxf1 Rf8+ 18. Kg1 c5!



d4 のポーンにチャレンジするのが良いアイディアで、クイーンが不自然な位置の白は対応に困ります。

19. c3


19. Bxe4 dxe4 20. c3 (20. d5 Qd6 21. dxe6 Qxe5-/+) 20... Rd8=/+ 白マスビショップを貰ったうえ、dファイルも開くのであれば黒にとってはありがたい流れです。

19... cxd4 20. cxd4 Rc8! 21. Qb1?


どうせb2 のポーンは守り切れないため、早めに捨てる決断をして黒マスビショップは残しておくほうが良かったでしょう。21. Qe1 Qxb2 22. Rb1 Qc3 23. Qxc3 Rxc3 24. Rxb7 Bd6 25. Bxe4 dxe4 26. Kf2 Rxa3-/+

21... Bg5!



c6-c5 からcファイルを開き、相手のクイーンをc1-h6 のダイアゴナルから外したのは、まさにこの手のためだったと言えるでしょう。黒はh6-c1a7-g1 の黒マスダイアゴナルを2つ存分に使い、駒得を確定させます。

22. Qe1 Qxb2 23. Rb1 Bxe3+ 24. Qxe3 Qxa3-+


2ポーンを取り、白の反撃は無いので黒勝勢です。あとはここから、クイーンサイドのポーンを押し進める作戦を考えます。

25. h3 b6 26. Qe1 Qc3 27. Qe3 Qd2 28. Qxd2 Nxd2 29. Rd1 Nb3 30. Ba6 Rc3 31. Kf2 Bc8



クイーンを交換して白の反撃を極力減らし、aポーンを進める準備をします。ルークを早めに交換することも考えましたが、d4 のポーンは負担になっており、それを守るために不自由な白ルークは、ひとまず盤上に残しておいて良いでしょう。

32. Bb5 a5 33. Ba4 Bf5 34. Kg1 h6 35. Rf1 Nxd4


これで3ポーンアップです。ここまでくると、途中で駒を返しても十分に勝てるだろうと予想できてきます。

36. Be8 Be6 37. Ng6 Rc1!



3ポーンアップになるまで待ち、ここでルークを交換します。まだキングの位置が悪いため、すぐに勝ちとはいきませんが、白も3つポーンが無い分を補うのは大変です。

38. Ne7+ Kh7 39. Rxc1 Ne2+ 40. Kf2 Nxc1 41. Ke3 g5 42. Kd4 Kg7 43. Bb5 Nb3+ 44. Ke5 Nc5


a4 のマスをサポートし、aポーンを進められるようにします。後はゴールまでもう一息です。

45. g3 Kf7 46. Nxd5 Bxd5 47. Kxd5 a4 48. Kc6 a3 49. Kxb6 Ne4 50. g4 Nc3 0-1



序盤、中盤、終盤、全て上手く指せたと思います。ここで黒番での大きな白星を挙げ、いよいよ上位との対戦を迎えます。

8/17 15:00 R1 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Lytvynets, D (UKR, 2117) 1-0
8/18 10:00 R2 Kokoszczynski, J (POL, 2198) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 1/2-1/2
8/18 17:00 R3 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Makynovskiy, R (AIM, UKR, 2178) 1-0
8/19 17:00 R4 Steindl, J (AUT, 2277) - Kojima, S (IM, JPN, 2390) 0-1
8/20 17:00 R5 Kojima, S (IM, JPN, 2390) - Blohberger, F (IM, AUT, 2467)
8/21 17:00 R6
8/22 17:00 R7
8/23 17:00 R8
8/24 10:00 R9

Vienna Open 2019 R5 Pairings
Vienna Open 2019 R5 Live Games

R5 の相手はオーストリアのU18 ランキング1位、IM Blohberger です。今大会5試合目にしてようやく上を引き、さらには200ボード中7ボードまで上がってきました! 昨日に引き続き中継されるボードですので、良いプレーができるように頑張ります。


17時から試合の日は夕飯をどうするか悩んでいましたが、2日連続で21時前には2人とも試合が終わり、なんとか夕飯を食べる場所も苦労せずに見つけられています。この日は宿近くのベトナム料理へ。ヨーロッパ料理に飽きたら、馴染みのあるアジア料理が嬉しいですね。

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