先日、友人から借りた渡辺明二冠の「勝負心」を読み終わりました。昨年末に、彼の代名詞とも言える竜王のタイトルを森内さんに奪われながらも、今年は王将戦で羽生さんをフルセットの末に退けたことで、まだまだタイトル戦の争いは、彼ら3人を中心に面白くなりそうな予感がします。そんな彼の著書の中で、少し気になった部分があるので、それをご紹介しておきます。
私はあまり過去を振り返らない。大事なのは、未来であって、現状での最善を求めることだからだ。その前向きな姿勢こそ、チャンスが巡ってきたときに、そのチャンスをしっかりと掴むことを可能にする。対局に敗れた後に、敗着を放ってしまった局面を時間をかけて精査し直すこともしない。単に意味がないからだ。(中略) しかし、敗着を放った局面については、感想戦で振り返って、そこで正解手を知れば、それだけでもう十分だ。過去を反省することは大事だ。しかし振り返る暇があったら、未来を考えるべきだ。(第5章 読みと見切り - 勝負を制する心構え、より抜粋)
これを読んだ際に思い出したのは、私の恩師である佐々木三男先生の言葉です。あまりこちらのブログでは語っていませんでしたが、私は大学時代、スポーツ科学、スポーツ文化研究の研究会に所属しており、そこでの指導教員が佐々木先生でした。佐々木先生は慶應義塾大学のバスケットボール部の監督を長く務め、先月退職されました。そんな佐々木先生が4年ほど前でしょうか、講義中に述べたのが、次のような内容です。
「バスケットボール部では、負けたゲームのVTR は試合直後のミーティングで見直し、反省点を見つける。そしてそれ以降、選手に見せることはほとんどしない。それは負けた試合のイメージを、いつまでも引きずるべきではないからだ。」
渡辺さんが勝負心の中で語っていることも、これに通じるところがあると考えられるでしょう。負けたゲームを何度も見直さないということは、私にとっては非常に意外なことでした。私は自分では負けたゲームは、何度も見直すタイプだからです。
負けた試合の反省というものは大切で、なぜ自分が負けたのかが分からなければ、次に同じようなミスを繰り返してしまう可能性があります。これはチェスでも将棋でも、そしてバスケットボールでも同じだと思います。そして同様に、メンタル面が重要だということも、これらの競技に共通することだと思います。私も佐々木さんの講義後は、負けた試合の反省だけでなく、自分の勝った試合を並べることや、自分の指す形でGM が勝った試合を多めに並べ、勝つイメージ作りというものに時間を多く割くようになりました。
とは言え、プレーヤーのレベルによっては、試合後の振り返りでどこまで反省点を拾い上げられるかは、当然異なってくるでしょう。負ける試合が多かったり、ミスが多い負け試合であれば、何度も試合を見直して、反省点をゆっくりと見つけるべきだと思います。チェスの世界では、コーチが生徒の負けたゲームに目を通し、アドバイスをするというのも普通のことですしね。試合直後の感想戦やミーティングで振り返りが十分だというのは、渡辺さんや佐々木さんのレベルだからこそ、言えることだと思います。
私は国内の勝率はここ数年、8割から8割5分ほどで安定していますが、今年は負けてはいけないゲームで負けることが多くなっています。反省はきちんとこなしつつ、負けのイメージはうまく払拭して、次の大会に向かいたいところですね。
2 件のコメント:
いいね。kojima先生の現状での最善とは何なのか、というのをお聞きしたいね。また、そのために何をするのか…。
今どうすべきなのかが分かっていれば、問題なくIM になれているのかも(笑)
この話題って他の競技者にも聞いてみたいところですね。
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