イタリアでの短い3日間の大会が幕を閉じました。優勝したのはチェコのGM Rausis Igor です。4勝2ドローという安定した戦績で、2位3位の2人とは0.5P差をつけています。チェコに行く直前に、この国のレベルの高さを確認させてもらいました。
それでは、この日の2ゲームを簡単に振り返ろうと思います。まずはイタリアのジュニアプレーヤーとのゲームから。彼は最終日だけ開始時間が早いのを失念していたのか、40分ほど遅刻して会場に現れました。
Guccione, C (ITA, 1786) - Kojima, S (FM, JPN, 2364)
6° Open Internazionale "I Dioscuri" - Memoraila Filippo Vetro (5)
1. c4 c6 2. Nf3 Nf6 3. g3 d5 4. Bg2 dxc4 5. O-O Nbd7 6. Na3 Nb6 7. Qc2 Be6 8. b3!
6° Open Internazionale "I Dioscuri" - Memoraila Filippo Vetro (5)
昨年のLondon Classic で、アメリカのIM Bartholomew が指してきたように、ここで1ポーンを捨てるのが白のベストムーブだと信じています。白はピースの展開と、b7, a7 へのプレッシャー、センターの支配により長期的なイニチアチブを握ります。
8... cxb3 9. axb3 g6 10. Bb2 Bg7 11. e4 h6?!
この手はセンスの欠片もない手でした。ナイトでビショップを当てるルートは本譜のd4 もあるため、g5 だけ抑えても何の意味もないことを見落としていました。
12. Nd4! Bc8 13. e5! Nfd5 14. e6! Nb4 15. exf7+?!
白は勢いよくポーンを伸ばしてきましたが、ここで早々にテンションを解放してしまうのが間違いです。試合後に私が彼に指摘したのは15. Qe4! で、15... f5? 16. Nxf5! 17. Bxb2 18. Ng7+! ならば、即黒キングはメイトにされてしまいます。
15... Kxf7 16. Qe4?
f7 取りのチェックを挟んでからこの手はブランダーで、少し先まで読む必要がありますが、黒のピースアップが確定します。
16... c5! 17. Ne6 Bxe6 18. Bxg7 Bd5! 19. Qe5 Rh7!
白はうまくピース交換したように見えましたが、g7 のビショップは逃げ場がなく、ゲームオーバーです。
20. Bxd5+ N6xd5 21. f4 Nc6 22. Qe4 Kxg7 23. f5 Nf6 0-1
1700台ながら4番ボードまで上がってくるのはどれほどの実力者かと思いましたが、2時間ほどでの勝利が決まりました。これで3勝1敗1ドローとなり、最終戦のペアリング発表を待つことになります。
試合前から今日は子供の見学が多いなと思っていましたが、案の定、子供たちのみの大会が始まりました。45分指し切りの持ち時間ですが、とにかく子供たちは指すのが楽しくてしょうがない様子。バシバシと時計をたたく音が鳴りやみません。他のクラスと並行して同じ会場で試合をさせることは、子供にマスターたちと同じ空気を味わわせるために、大切なことだと思います。
お昼はピザ屋が営業していなかったため、少し歩いた先の売店でクロワッサンを2つ購入。合わせて1.6ユーロでした。会場には気になるゲームが残っているため、早々にホテルに戻ります。
会場に戻って人の集まっていた2番ボードを覗くと、なんとGM Rausis が劣勢のエンドゲームを指しているではありませんか。白を持つのはイタリアのSardo, G (2198) です。1ポーンアップのルークエンディングは黒絶望的かと思いましたが、Rausis の抵抗は強靭で、ぎりぎり半ポイントを拾うこととなりました。それでも2100台が2500台のGM からドローというのは、素晴らしい結果です。
そして全試合が終わり、最終ラウンドのペアリングが発表されました。私は2番ボードでRausis に黒... なぜ4回目の黒なのか(笑) しかし、こればかりは仕方がないので軽く彼のゲームをチェックし、試合の準備を進めます。
Rausis, I (GM, CZE, 2556) - Kojima, S (FM, JPN, 2364)
6° Open Internazionale "I Dioscuri" - Memoraila Filippo Vetro (6)
1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nf3 Nf6 4. Nc3 dxc4 5. a4 e6
6° Open Internazionale "I Dioscuri" - Memoraila Filippo Vetro (6)
久々に伝家の宝刀、5... e6 Variation を使います。4... dxc4 の時点でここ数年、FIDE 公式戦では負けのない得意定跡ですが、Rausis も黒でこの変化を得意としています。経験豊富なGM がどのラインで勝負にくるか、少し楽しみで指してみました。
6. e4!? Bb4 7. e5 Nd5 8. Bd2 b5 9. axb5 Bxc3 10. bxc3 cxb5 11. Ng5 h6!?
この変化は2月にハンガリーで2回指して勝っていますが、その時とは11手目で手を変えます。11... h6 はGM Sakaev の勧めで、早いキャスリングを狙いとします。
12. Ne4 O-O 13. h4!?
少し別な形ですが、Morozevich がこのh2-h4 から素早くルークを出すアイディアを考案し、以来トップレベルでも注目されています。11... h6 に対しても使ってくるのは意外でしたが、やはりルークがg3 に上がる狙いは黒にとって嫌なものです。
13... Nc6 14. Rh3 f5?
試合後、Rausis にはこの手がすでに変なのではないかと指摘されました。白がキングサイドで手を作る最大のポイントとなる手を見落とし、これで十分ディフェンスになると勘違いしていたのです。検討では14... f6!? のほうが良いと話し合っており、Rh3-Rg3 にも、Qd1-Qh5 にも、黒はキングを守ることが可能です。
15. Nd6! Bd7 16. g4!
指される直前までこの手をかなり軽視していました。f5 のポーンを消してe4, g4 のマスを使えるようにし、gファイルも開くのであれば、白のアタックは非常に強力なものになるでしょう。
16... Nce7 17. g5! f4
17... Kh7 18. gxh6 gxh6 19. Qh5! Ng8 20. Ra6!+/- でも白のチャンスは明らかです。
18. gxh6 gxh6 19. Qh5!+-
こう指されてから、すでに黒には満足なディフェンスがなく、リザインしても良い局面だと気づきました。すでに黒はh6 のポーンを失うことが確定しています。
19... Nf5
19... Kh7 20. Nf7! (このh6 とd8 のダブルアタックを見落としていました。) 20... Rxf7 21. Qxf7+ Kh8 22. Bxf4+-, 19... Kg7 20. Rg3+! Kh7 21. Nf7! fxg3 22. Qxh6+ Kg8 23. Nxd8 gxf2+ 24. Ke2 Raxd8 25. Bh3+-
20. Qg6+ Ng7 21. Bg2 Ne7 22. Qxh6 Nef5 23. Nxf5 Rxf5 24. Bf3 a5 25. Rh1 Ra7 26. Rg1 Bc8 27. Be4 Rff7 28. Bxf4 b4 29. Qh7+ 1-0
ここ最近のGM との試合の中でも、一番内容が悪かったと言えます。何もできずに負けでした。
そしてSardo は最終戦でも見せてくれます。トップを走り、優勝は間違いないと思われていたGM Miezis のSanake Benoni をうまく捌き、気づくとエクスチェンジアップに。最後はルークを切って勝ちのポーンエンディングにし、そのままMiezis を下しました。彼と私のみが2人のGM 両方と対戦しましたが、色に関係なく彼のプレーは私を遥かに上回っていました。なぜ彼ほどのプレーヤーが2100台なのか、私だけでなく、Miezis, Rausis も首をかしげたのではないでしょうか。1番ボードで2100台が2500台後半のGM を破るという驚きのゲームが、最終ラウンドの最後に終わり、今大会すべての試合が終了しました。
R1 11/08 10:30 Varriele, L (ITA, 1927) - Kojima, S (FM, JPN, 2364) 0-1
R2 11/08 15:30 Kojima, S (FM, JPN, 2364) - Valguarnera, G (ITA, 2036) 1-0
R3 11/09 09:30 Miezis, N (GM, LAT, 2565) - Kojima, S (FM, JPN, 2364) 1-0
R4 11/09 15:30 Kojima, S (FM, JPN, 2364) - Sudakova, I (WGM, RUS, 2362) 1/2-1/2
R5 11/10 09:00 Guccione, C (ITA. 1786) - Kojima, S (FM, JPN, 2364) 0-1
R6 11/10 14:30 Rausis, I (GM, CZE, 2556) - Kojima, S (FM, JPN, 2364) 1-0
住み慣れた、そして指しなれたハンガリーを離れ、セルビアに続いて2度目の出張トーナメントが無事に割りました。最終戦の負けで、レイティングはおそらく-2 ほど。稼ぎに来たはずがマイナスなのは悔しいですが、勝ちとドロー、ドローと負けでレイティング変動は7.5 違うため、上がるのも下がるのも紙一重です。それでも今回のゲームを通して、やはり自分はまだまだと思っているので、またしっかり復習しなければいけません。16日から始まるチェコでの15日間16連戦では、今度こそレイティングを稼げるように頑張ってきます。今大会のレポートは、次号のチェス通信にも掲載予定ですので、そちらもお楽しみに。
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