私にとって昨日の日付、12月20日は、今後も決して忘れられない日になるでしょう。この日はGM クラスは唯一の1日2試合で、しかも私が2試合とも黒番の厳しい戦いとなります。朝、チェス盤とにらめっこばかりしていても仕方がないと、寝ぼけ眼をこすりながら、酒井くんと2人でケチケメートのマーケットへ顔を出してきました。この時期はクリスマスのツリーやリース、オーナメントの販売が多かったですね。
この日の試合、午前はロシアのGM Fominyh に黒を持ちます。先週のFirst Saturday のゲームでは、中盤から終盤にかけて苦しい展開をなんとか粘り、最終的にはドローとなりました。彼は1日2試合でも俄然試合をやる気だったので、こちらも長期戦覚悟のソリッドな変化で勝負です。
Fominyh, A (GM, RUS, 2438) - Kojima, S (FM, JPN, 2356)
Chess in Kesckemet 2014 December GM (5)
1. d4 d5 2. c4 c6 3. Nc3 Nf6 4. e3 g6
Chess in Kesckemet 2014 December GM (5)
Santarius 戦では4... e6 を使いましたが、この日はなんとなく去年までのパートナー、g6 Slav を採用します。同じ大会内で、オープニングを使い分けるのは私としては珍しいことです。
5. Nf3 Bg7 6. Be2 O-O 7. O-O a6 8. Qb3 e6 9. Rd1 Nbd7 10. a4 a5 11. Qc2 Re8!
ここまではかつて研究した手順です。黒は白マスビショップを使う方法として、e6-e5 とb7-b6 があり、その両方のチャンスを柔軟に作っておきます。
12. b3
12. e4 Nxe4 13. Nxe4 dxe4 14. Qxe4 e5 15. dxe5 Qc7 16. Bf4 Nxe5 17. Nxe5 Bf5= と進んで簡単にイコアライズすることを期待していましたが、Fominyh は時間を使ってじっくりセットアップを決めてきました。e3-e4 を突かないのであれば、局面は閉じたままでゲームは進んでいくことになります。
12... b6 13. Ba3 Bb7 14. Rac1 Rc8 15. Qb1 c5
b5 のマスを弱めることは気がかりですが、b7 のビショップのダイアゴナルは開かなければ話にならないですし、他に手を作るところもありません。すぐに、d5,c5 が負担にならないことを確認して、ポーンを進めます。
16. Nb5 Bf8 17. Bb2 Ne4! 18. Ba1 Bg7 19. Ne1 Qe7
この辺りは膠着状態のまま、互いに細かなピースの改善が続きます。Qd8-Qh4 と大胆に跳びこむ手も考えましたが、g2-g3 を突かせることが黒のプラスになるのかは分からなかったので、ひとまずd6 のマスを安全に守っておくことにします。
20. Bb2 Bh6!
クイーンがdファイルから外れたことで、ポジションをそろそろ黒から開いても良いのですが、先にこの手を入れ、白からcxd4 と取り返せないようにしておきます。
21. Nf3 Red8 22. Nc3 cxd4 23. Nxd4?
これは3試合連続のGM戦で、三度チャンスが巡ってきたことを確信しました。23. Rxd4 Bg7 24. Rdd1 Ndc5-/+ と進んだ場合、黒はb3 を攻めて優勢でしょう。互いのポーンストラクチャーは同じですが、弱いマス(b4,b5)を抑えるよりも、弱いポーン(b3,b6)を攻撃することのほうがプラスは大きく、その点で黒にチャンスが出てきたことを理解していました。
23... Nxf2!
ナイトが動いてh4 のマスの守りが外れたことで、この典型的なタクティクスが成功します! Fominyh ほどのベテランが、この手を見落としたことは意外でした。
24. Kxf2 Qh4+ 25. Kg1 Bxe3+ 26. Kh1 Bxd4 27. Rxd4 Qxd4
黒には次に、Bd4-Be5 からのメイトスレットがあるため、白は2ポーンに加え、さらにエクスチェンジを捨てざるをえません。完全に勝勢のマテリアルとなり、後は黒マスの弱さにだけ気を配って丁寧に指すのみです。
28. Bf3 Qh4 29. Nb5 Nc5 30. Be5 dxc4 31. Rxc4 Qf2 32. Rc2 Qe3 0-1
こうしてソリッドなゲーム展開から、ワンチャンスをものにして、自身初となるGM戦連勝です! これでライブレイティングを2392 まで上げ、いよいよIM タイトルのかかった午後の試合に向かいます。
お昼ご飯はクリスマスマーケットの屋台で。セルフサービスで、100g 520フォリントだよと言われた肉料理を、200g ぐらいかなーと思って盛ったところ、500g を超えてしまいました(笑) タフな試合スケジュールをこなすためには、これぐらいはペロッと食べられないといけないかもしれませんね!
午後の6R からは、1R からの対戦相手と色を逆にして試合をするのが、ダブルラウンドロビンのシステムです。相手は初戦で怪しいエンドゲームを勝ち切った、アメリカのFM Betaneli、彼に勝つとレイティングはプラス7.6なので、ライブレイティングがちょうど2400 に乗る計算になります。自身初となる、IM タイトルをかけた重要な一戦のスタートです。
Betaneli, A (FM, USA, 2268) - Kojima, S (FM, JPN, 2356)
Chess in Kesckemet 2014 December GM (6)
1. Nf3 d5 2. g3 Nf6 3. Bg2 c6 4. O-O Bg4 5. d3 Nbd7 6. h3 Bh5 7. Qe1 e5 8. e4 dxe4 9. dxe4 Be7 10. Nbd2 O-O 11. Nc4 Qc7!?
Chess in Kesckemet 2014 December GM (6)
オープニングは、Caro-Kann かEnglish を用意していましたが、まさかのKing's Indian Attack でした。このセットアップはFirst Saturday のBenkovic 戦の準備で見直していたばかりだったので、ラッキーと言えばラッキーです。オリンピアードで敗れた、スウェーデンのGM Tiger 戦の11... Bxf3 とは手を変え、ピースを盤上にキープしておくことにします。
12. a4 Rfe8 13. Nh4 Bf8 14. Bd2?!
試合後の検討では、ここは14. Bg5 と指すべきだったと、Betaneli 自身が指摘しています。確かに、f6 のナイトをアタックしておけば、黒は理想的なNd7-Nc5-Ne6-Nd4 というマヌーバリングがやりづらくなるでしょう。
14... Nc5! 15. b3 Ne6 16. Ba5 b6 17. Bc3 Nd7 18. Nf5 f6 19. Kh1 Rad8
私はこの時点で、すでに何も黒に不満がないことを確信しています。このナイトをd4 に運ぶ準備をしつつ、2つのビショップをg8-a2, f8-a3 のダイアゴナルに置くセットアップは、かつてKramnik のゲームから学びました。
20. f3 Bf7 21. Qc1?
この手はどう見ても不自然ですし、何かアイディアがあるとしても捻りすぎです。21. Rd1 と指すのが自然で、それならば黒は満足ながらも、優位に試合を進めるには、もう一工夫必要になるでしょう。
21... Ndc5 22. Qe3 Nd4!
時間を使い、この手を思い切って指せたのは、私の成長の証だと思います。d4 とc6 でポーンを一時的に取らせても、白のg3 のポーンを掠め取ったうえで黒マスを支配すれば、1ポーンの代償は十分すぎるでしょう。
23. Qf2 Nce6!?
試合中悩んだのは、23... Bxc4 24. bxc4 Nxf5 25. exf5 e4-/+ とピースを捌いて仕掛ける変化で、これでも黒の優位は確実でした。本譜では、白がf3-f4 と仕掛けてくることを見越し、白マスビショップは別のダイアゴナルで使い直そうと考えましたが、白のクイーンサイドのポーンストラクチャーを乱せるのであれば、ビショップナイトの交換は躊躇わなくても良かったでしょう。
24. Nfe3 a5!
すでにd4 に強力なナイトを指している黒は、次にビショップを使い直すことを考えます。黒マスビショップのベストの位置は、明らかにc5 ですので、白からb3-b4 を突かれぬよう、まずはb4 のマスをポーンで抑えておきます。
25. f4 exf4 26. gxf4 Bc5 27. Rae1 Bh5!
続いて白マスビショップも、ダイアゴナルを切り替えてアクティブに使えるようにします。f3, e2 辺りは、白としては抑えられると嫌なマスでしょう。Nd4-Ne2 と黒のナイトが跳びこんでくる筋は、常に頭に置いておかなければいけません。
28. Nb2 b5! 29. Nd3 Bb6!
ポジションの改善が難しくなってきた白に対して、黒はゆっくりと盤全体でプラスを広げていきます。黒マスビショップをキープし、a7-g1 のダイアゴナルを抑えている限り、c6 のポーンが消えても、Ne3-Nd5 は怖くありません。
30. f5?! Ng5
最初、f4-f5 を見た際は、次のNd3-Nf4 を警戒しましたが、それが全く問題ないことに気づき、冷静さを取り戻してこの手を指します。
31. Qh4? Ngf3!
彼の見落とした、決定的なタクティクスです。黒のナイトは、クイーンとルークを狙うだけでなく、h2 でのメイティングスレットを作る、トリプルフォークになっています! これで完全に黒の勝勢ですが、もちろん相手がリザインするまでは気を緩めることはできません。
32. Qf4 Nxe1 33. Bxe1 Nxc2 34. Nxc2!
エクスチェンジに留まらず、さらにマテリアルを確保して勝ちを引き寄せます。
34... Rxd3 35. Qh4 Bf7 36. b4 Ba7 37. e5 Qxe5 0-1
彼がリザインした瞬間、これまでハンガリーで過ごしてきた日々のことを思い返しました。2264というレイティングでハンガリーを訪れたのは、今から2年半以上前の、2012年5月のことでした。それから何度となく、ブダペストとケチケメートのIM トーナメント、GM トーナメントで戦いを続けてきて、ようやくこの日、3つのノームとレイティング2400を達成しました。リガの最終戦で見事な勝利をおさめ、IM タイトルの条件を揃えた南條くんから遅れること4か月、私もこれでIM となります! 長い間、応援してくださった皆さん、本当にありがとうございます!
12/16 15:30 Kojima, S (FM, JPN, 2356) - Betaneli, A (FM, USA, 2268) 1-0
12/17 15:00 Santarius, E (USA, 2319) - Kojima, S (FM, JPN, 2356) 1/2-1/2
12/18 15:00 Kojima, S (FM, JPN, 2356) - Varga, Z (GM, HUN, 2473) 1/2-1/2
12/19 15:00 Kojima, S (FM, JPN, 2356) - Ilincic, Z (GM, SRB, 2432) 1-0
12/20 09:00 Fominyh, A (GM, RUS, 2438) - Kojima, S (FM, JPN, 2356) 0-1
12/20 16:00 Betaneli, A (FM, USA, 2268) - Kojima, S (FM, JPN, 2356) 0-1
12/21 15:00 Kojima, S (FM, JPN, 2356) - Santarius, E (USA, 2319)
12/22 15:00 Varga, Z (GM, HUN, 2473) - Kojima, S (FM, JPN, 2356)
12/23 15:00 Ilincic, Z (GM, SRB, 2432) - Kojima, S (FM, JPN, 2356)
12/24 15:00 Kojima, S (FM, JPN, 2356) - Fominyh, A (GM, RUS, 2438)
+4 Kojima
+2 Santarius
0 Varga, Fominyh
-2 Ilincic
-4 Betaneli
一夜明けて、多くの方からお祝いのメッセージを頂き、あらためて喜びがふつふつと湧き上がってきました。しかし、こうして書くと、すでにトーナメントが終わったようにも思えてしまいますが、実際には全くそんなことはありません(笑) まだ後半戦は始まったばかりで、今日から24日まで、残り4試合を戦います。アメリカのSantarius は、Varga を見事に黒で下し、2つ勝ち越し状態で私を追っています。私もここまで来た以上、初のGM トーナメント優勝と、GM ノーム、そして羽生さんの持つ日本籍プレーヤーのベストレイティング、2415 を超えることを目標に、残り試合をしっかりプレーしてこようと思います! 6つ勝ち越しの8P ならば、初のGM ノーム獲得、5つ勝ち越しの7.5P ならば、私のレイティングは2416になる計算です。
4 件のコメント:
IM獲得おめでとうございます。私にとってもうれしい出来事であり、お祝いとともに感謝したいと思います。
tabata さん お祝いのお言葉、ありがとうございます。また松戸チェスクラブにも顔を出しますので、その際はよろしくお願い致します。
タイトル認定の基準となる点数は大会終了時点のものを扱うのかもしれないので念のため点数を減らさないように気をつけましょう・・・▼o・~・o▼ 謎
IM, GM のタイトルチェックにはライブレイティングを使うのは間違いないので、大丈夫ですよ。
でも、2400 に実際にならないでタイトルを貰うのも癪ですので、+4 以上はキープしてトーナメントを終えたいですね。
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