今年もいよいよ最終日、12月31日ですね。日本の皆さんは今頃、紅白歌合戦でも見ているでしょうか。こちらは変わらず、毎日試合をこなす日々ですが、街の雰囲気は完全に年末のものです。年の瀬のケチケメートでは、こうしたマスクやかつらをよく見かけます。一昨年の年越しはブダペストでしたが、そこでもヴァーチ通りでこうしたマスクが売られ、多くの人が騒ぎながら新年を迎えていたのでした。
大晦日前日、30日の相手はセルビアのGM Ilincic です。もうすっかりケチケメートでは顔なじみですの相手ですが、毎回違った試合展開で勉強させてもらっています。今大会も先に白を持てたため、トーナメントをリードするためにも、勝負を仕掛ける大事な一戦となります。
Kojima, S (FM, JPN, 2356) - Ilincic, Z (GM, SRB, 2434)
Chess in Kesckemet 2015 New Year GM (4)
1. Nf3 d5 2. d4 Nf6 3. c4 c6 4. Nc3 a6 5. a4 e6 6. g3 Bb4!?
Chess in Kesckemet 2015 New Year GM (4)
なんでも指せるIlincic は、前回のDutch Defence とはうって変わり、ソリッドなa6 Slav を選択してきました。オリンピアードで指した、6... dxc4 とは違い、こちらは典型的なCatalan の形になります。
7. Bg2 O-O 8. O-O Nbd7 9. Qb3 a5 10. Rd1 Qe7 11. Bf4 h6?
ゲーム序盤、Ilincic の不用意な一手により、早々に私がチャンスを掴みます。
12. c5!
これはBf4-Bd6 の跳びこみから、エクスチェンジを取るスレットを作りながら、同時にb4 のビショップの逃げ場を無くし、Nc3-Na2 からポーンを掠め取るスレットも作っています。e6-e5 といった気になる反撃があるものの、ここは十分に白が良くなると読み、思い切ってポーンを突いてみることにします。
12... Ne8 13. Na2 e5 14. Nxe5 Nxe5 15. Nxb4 Ng6 16. Nd3 Qxe2 17. Re1
白は駒数がイコールなものの、ダブルビショップを得て優位に立っています。ここからは、黒マスビショップを返してしまっても、ピースの展開の早さ、具体的にはルークの連結の早さで押していこうと考えました。
17... Qh5 18. Be5!? Qg5 19. Re3 Qd8 20. Rae1 Nxe5 21. Nxe5 Nc7 22. Qd3!?
白は黒マスビショップを返しましたが、eファイルをルークでコントロールし、e5 に強力なナイトを得て、やはりアドバンテージを保っています。ここからのプランは難しいですが、f4-f5 といったポーン突きを軸に、キングサイドで押していこうと考えました。b7 のアタックから離れるのは、勿体ないようにも思えますが、黒はどうせ、Nc7-Na6-Nb4 とナイトを回し、b7 を守ることができます。
22... Be6
ここはさすがに、22... Na6?? 23. Nxf7! Kxf7 24. Qh7+- というトリックに引っかかる相手ではありませんでした。このビショップは、f4-f5 からターゲットにもできますが、Qd8-Qc8 を警戒し、ゆっくりとfポーンを伸ばすことにします。
23. h3 Na6 24. f4 Nb4 25. Qe2 b6 26. Ng6
私は残り時間が10分を切り、確信はなかったものの、b7-b6 を無視してキングサイドで勝負を仕掛けることにします。
26... Re8 27. f5?!
ところが、この勝負所でお互いにミスが続きます。私はこのf4-f5 からピースを交換すれば、白にチャンスがあると考えていました。しかし、実際には27. Rc1 Na2 28. Rc2 Nb4 29. Rc1= ぐらいで、白は我慢するしかありません。
27... Qf6?
27... bxc5! 私達はどうしたことか、こんなシンプルな手を見落としていました。ナイトとビショップを取り合うのは、このポーンを取る手を先に入れてからでも遅くはありません。こうされると、白はe6 をルークで取れなくなってしまいます。 28. fxe6 fxg6 29. e7 Qb6 30. dxc5 Qxc5 31. Kh2=/+ このポジションは、わずかに黒が良いとのコンピュータ評価ですが、実際にはe7 のパスポーンの存在が不気味で、正確に指すのはお互いに難しいでしょう。
28. fxe6?
ここも、白は慌ててビショップを取る必要はなく、b6 のポーンを落ち着いて取っておくべきです。私はd4 を取らせるのは、直感的におかしいと考えましたが、後でキングが避ければ、どうということはありませんでした。28. cxb6! Qxd4 29. b7 Rab8 30. Kh2!+-
28... fxg6 29. Re5
さぁここから、さらに難しいポジションになります。白はe6 のパスポーンと、e,f のオープンファイルに運命を託しますが、ビショップの働きに不満があり、どちらが良いのか全く分かりません。
29... bxc5 30. Rf1 Qd8 31. Qg4!?
31. dxc5 Qe7 32. Qe3 では面白くないと思った私は、あくまでキングにプレッシャーをかけて、1ポーンの代償を図る作戦を取ります。
31... Re7?
7段目を先に守っておく手はいかにもありそうですが、g6 のポーンがあるかないかでは、黒キングの守りの厚さに歴然とした差があります。31... Kh7! 32. Rf7 Re7 33. dxc5 Qe8 ならば、黒にチャンスがあったでしょう。
32. Qxg6 Qe8 33. Qg4 Kh7 34. h4!?
どこかでポーンを取り返したかったものの、うまい方法が思いつかず、アタック優先で頭をひねり続けます。h3-h4 の狙いは、h5 までポーンを進めてg6 のマスを抑えるだけでなく、Bg2-Bh3 と指して、ビショップを使い直すことにあります。しかし、ここでは34. dxc5!? Nd3 35. Qf5+ Qg6 36. Rxd5!!
少しだけ考えましたが、成立しているのかまったく自信がなく、切り捨てた変化です。36... cxd5 37. Qxg6+ Kxg6 38. Bxd5 Rd8 39. Be4+ Kh5 40. Rd1 Rxe6 41. Bxd3= このポジションをエクスチェンジの代償有りで、満足に白が指せると読むのは、時間切迫ではとても無理なことです。
34... cxd4 35. h5 d3 36. Bh3 Kh8 37. Ref5!
これはもしかすると、チャンスが巡ってきたのではないかと考えました。e6 のポーンをビショップで守ったことで、白はルークがパスポーンのお守りから離れ、fファイルに重ねることができました。これにより、白の念願だったルークの7段目、8段目への跳びこみが、現実味を帯びてきます。
37... Qg8?
Ilincic は、知識や経験など、総合的に判断すれば、まだ私よりも強いでしょう。しかし、前トーナメントで私に敗れた試合でもそうでしたが、最も丁寧なディフェンスが求められるポジションで、時間をたいして使わずに適当な手を指してしまうようでは、この先もレイティングが下がってしまうに違いありません。
38. Rf7! Rae8
38... Rxf7 39. exf7! Qf8 40. Qg6+- は、次にBh3-Bf5 から、h7 のメイトスレットを作って白勝ちとなります。37... Qg8 が悪い理由は、39. exf7 の際に、クイーンがアタックされてしまうことです。黒として、白がf7 をポーンとルーク、どちらで取るかを見極めてから、g7 とh7 をディフェンスしにいくのが正解でした。
39. Qh4!+-
残りは48秒。この手を指して勝ちを確信しました。g8 とe8 のクイーン、ルークの位置は最悪で、f7 を取った際にポーンフォークになってしまいます。そして、黒のe7 のルークはどこにも逃げられず、白の決定的な駒得が確定します。
39... Rxe6 40. Bxe6 d2 41. Qd4 Rxe6 42. Rf8 Re2 43. R1f7!
クイーン対ナイトなので、何も問題なく勝てるはずだと自分に言い聞かせつつ、丁寧なフィニッシュを探します。黒にプロモーションを許しても、先にメイトにできるこの手を見つけて、ようやく人心地つくことができました。
43... Qxf8 44. Rxf8+ Kh7 45. Rf7 1-0
大晦日、今年最後の更新で、こうした白星のゲームを日本に届けることができたこと、とても嬉しく思います。この日はアンダンテで行方不明になったナイトも、なぜかシャンプーの袋の中から出てきたので、何か良いことがあると思っていました(笑)
12/27 15:30 Kojima, S (FM, JPN, 2356) - Fominyh, A (GM, RUS, 2438) 0-1
12/28 15:00 Kojima, S (FM, JPN, 2356) - Eggleston, D (IM, ENG, 2416) 1-0
12/29 15:00 Groszpeter, A (GM, HUN, 2456) - Kojima, S (FM, JPN, 2356) 1/2-1/2
12/30 15:00 Kojima, S (FM, JPN, 2356) - Ilincic, Z (GM, SRB, 2434) 1-0
12/31 15:00 Payen, A (IM, FRA, 2333) - Kojima, S (FM, JPN, 2356)
01/01 16:00 Fominyh, A (GM, RUS, 2438) - Kojima, S (FM, JPN, 2356)
01/02 15:00 Eggleston, D (IM, ENG, 2416) - Kojima, S (FM, JPN, 2356)
01/03 15:00 Kojima, S (FM, JPN, 2356) - Groszpeter, A (GM, HUN, 2456)
01/04 15:00 Ilincic, Z (GM, SRB, 2434) - Kojima, S (FM, JPN, 2356)
01/05 15:00 Kojima, S (FM, JPN, 2356) - Payen, A (IM, FRA, 2333)
+1 Kojima, Payen
0 Fominyh, Eggleston
-1 Groszpeter, Ilincic
この日はEggleston がGroszpeter を破り、4R まででGM 全員に土がつきました。今回は完全にIMたちに勢いがあり、後半戦に入っても、私たちで上位3名を争うことになるかもしれません。
さぁそして、これから今年最後の公式戦です。初戦で勝ったリードを保ち続けているフランスのIM Payen が、前半戦最後の相手となります。試合の内容と結果もですが、明日は行きつけのイタリアンレストランが閉まるため、どこでブログを書けば良いのか、そしてあらゆる店が閉まる元旦はどうしたものか、気にしなくてはいけません(笑) それにしても、どうして会場のWi-Fi は、iPhone ではキャッチできるのに、パソコンではだめなのでしょうか...
この日は嬉しい再会がありました。昨年、ノビサドの大会で出会った、セルビアのGM Sinisa Drazic が、チェスグッズの取引のため、ケチケメートを訪れたのです。彼はGM としてプレーする傍ら、ノビサドで多くの大会を手掛けている人物です。またセルビアに足を伸ばす際は、お世話になることでしょう。
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